第2話 私に買われませんか?
突然現れた幼馴染みをとりあえず家の中へと招く。
父さんと母さんがいなくなってその日に現れるなんてタイミングが良すぎる。
自然と手紙のあの人、という部分が思い浮かぶ。
改めて結依の姿を見る。清楚な見た目なお嬢様といった感じだ。というか、実際お嬢様だし……
幼稚園から小学校の途中まで一緒だった。引っ込み思案な結依は、友達を作ることができず、虐められていたこともあった。
なんだか放っておくことができず、自然と一緒にいることが多かった。
思いの外相性が良くてすぐに仲良くなった。
どのくらい仲が良かったかというと、将来結婚しようね、と約束するくらいだ。
まぁ、子供の頃の話だ。
小学生になり結依は引っ越すことになり、それから疎遠となっていた。だいたい七年ぶりくらいだ。
結依のお父さんは、日本で有名な会社の社長さんだ。俺たちが幼稚園の頃はそこまで大きくなかったが、ある時を境に急成長し、今では殆どの人が名前くらい聞いたことのあるほどの会社に成長した。
レストランや洋服店などさまざまな分野を手広くやっている。
昔は同じ幼稚園に通っていたはずだが、結依は一気に遠い存在になってしまった。
俺はそんな結依に恋心を抱いていた。初恋の相手だ。だが、その恋は叶わないと思い、心にしまっていた。
こっちはその日生きるのにギリギリな生活を送っている貧乏に対して、結依は大きな会社の令嬢だ。身分が違いすぎる。
おまけに結依が引っ越してから疎遠になっていたことも理由だ。
でも……そんな言い訳をしながらも、少しでも結依に近づけるようにと必死に勉強していた部分もある。我ながら矛盾していると思うが……
そんな初恋の相手が今、目の前にいる
「えーと、迎えに来たって言ったか?」
「はい」
「もしかしてこの手紙のある人って言うのは、結依の事なのか?」
そう言って父さんからの手紙を渡す。
軽く目を通した後に口を開く。
「このある人って言うのは間違いなく私だと思います」
「やっぱりそうなのか……」
沢山の事が同時に起きて頭が痛くなる。
「早速ですけど、要件を話しますね」
「頼む」
「雪君、私に買われませんか?」
「……はい?」
何を言っているんだ?
「雪君は膨大な借金に困っていますよね?」
「あぁ」
「その借金を私が代わりに払います。そのかわり雪君は私のものになって欲しいのです」
「えーと、つまり結依のために働けって事か?」
「だいたいそんな感です。荷物持ちをしたり、話し相手になったりと色々して貰います。でも安心してください。雪君が本当に嫌がる様なことはしませんから」
そう言ってにこりと笑う。
うっ……可愛いな……小さい頃も可愛かったが、この数年でその可愛さに磨きがかかっている。
思い出は美化されがちだが、結依の可愛さはそれを超えてきているな……
結依の言葉を飲み込む。借金を肩代わりしてもらえると言う話はとても魅力的だ。俺一人では一生かけても払い切る事ができないだろう。臓器を売っても足りない。
一方、結依の家は金持ちだ。きっと借金だって簡単に返す事ができるに違いない。
それに結依の召使いのようなことをすることに一切不満はない。奇跡的に初恋の相手と一緒にいる事ができるのだ。俺にとってメリットしかない。初めて貧乏だったことに感謝できる気がする。
「期限とかあるのか?」
「そうですね……私が満足するまでって言うのはどうでしょうか?」
「別にそれで構わない」
「本当ですか? こんなふんわりした答えでいいのですか?」
「あぁ、とんでもない額の借金を肩代わりしてもらうんだ。文句なんてないさ」
「そうですか……でも本当にいいのですか? 私に買われるってことは、雪君には殆ど拒否権なんてなくなっちゃうんですよ? 私がして欲しいことなんでもしてくれるんですか?」
なるほど、俺の意思よりも結依の意思が優先されることになる。だから買うなんて表現をしたのか。俺に人権はなくなるのかな……
それでも答えは決まっている。
「勿論だ」
迷いなんてない。例えとんでもないお願いだったとしても全力は尽くすつもりだ。掃除でも料理でも荷物持ちでもなんでもやってやる! 勉強とバイトのために鍛えた体舐めるなよ!
「それじゃあ、この契約書にサインしてください」
一枚の紙が目の前に出される。その内容はさっき話したものと殆ど同じだ。
簡単に要約すると『結依のものになります』だ。
その紙にサインをする。
「これで契約成立ですね。それじゃあ、行きましょうか」
「行くって、どこに?」
「勿論、私と雪君二人で暮らすお家です」
「へ?」
「外に車を待たしているので急ぎましょう」
「え、でも……」
「荷物は後で持ってきてもらうし、それにこの部屋ももう解約しているので住めませんよ?」
「え!?」
知らないうちにどんどん話が進んでいる。
「バイトもあるし……」
「そっちのほうも、もう話はついているので問題ありません。雪君の代わりの人もちゃんと紹介してありますから、お店に迷惑はかかりません」
そっか……なら安心――じゃねぇよ!?
一体どうなっているんだ……まるで全てが決まっているかのようにどんどん話が進んでいく。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
訳のわからないまま、結依に手を引かれ車の中へと押し込まれた。
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