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第18話 素敵です!

 部活動を見学するのは良いものの、かなり広いため部活を見て回るのも一苦労だった。

 最初に野球、サッカーとどの学校にもあるような人気の部活を見に行った。そしてその近くで活動していたテニス部を見たところで、結依からメッセージが届いていたことに気づき慌てて待ち合わせ場所へと急いだ。


 敷地がかなり広いため部活動をやっている人たちものびのび活動している。それに設備も充実していた。さすがお金もちの学校だ。


 どの部活に入るか考えると少しワクワクするが、それと同時にこれまでの生活との差に場違いなのではないかと思ってしまう。

 そんなことを考えていると待ち合わせ場所が見えて来た。


 すでに結依が待っていた。車の中で待っているのではなく外で待っていてくれている。慌てて速度を上げて近寄る。


「待たせてごめん」


「いえ、大丈夫ですよ」


 嫌な顔一つせず微笑んでくれる。今後はまめにメッセージが来ていないから確認した方がいいかもしれない。これまでスマホを持っていなかったので加減がわからない。


「それじゃあ、帰りましょう」


「そうだな」


 橘さんがタイミングを見計らい車のドアを開けてくれる。結依が先に乗り込んだあとに俺も乗り込む。

 車が動き出したところで結依が口を開く。


「部活を見学して来たんですよね?」


「あぁ、結依に言われたし、良い機会だから部活に入ろうかなって」


「いいと思います! 雪君はこれまで部活動に入った事がないですから、色々と見てから決めた方がいいと思います」


「え?……あ、あぁ、そうだよな」


 部活に入った事がないって言ったか? 

 もしかしたら忘れているだけかもしれないから、特に気にする必要もないか。


「まだ三つしか見学に行けていないんだ。この学校広すぎる」


「一週間くらいかけてゆっくり見ればいいと思いますよ。そうだ! 明日は私が案内します」


「助かる。一人で学校をウロウロするのは少しだけ抵抗があったんだ」


 なんというか気恥ずかしい。以前の学校とは雰囲気も違う。おまけに、金持ちの人が多いと身構えているからか少しだけ息苦しい。

 でも、結依が一緒に来てくれるなら大丈夫だろう。


 話がひと段落したところで中村のことを話しておく。

 お昼休みに絡まれて、父親の会社名を知らなかったせいでプライドを傷つけてしまったかもしれないということ。それから妙に意識されてしまったということ。


 中村の話を始めると若干顔を顰めたが黙って聞いてくれた。

 そして大体話し終えると大きなため息をついた。

「はぁ……そういうことだったんですね。いきなり雪君を挑発するような態度を取り始めたと思ったら……」


「やっぱり気づいていたよな」


「当然です! 私の雪君にあんな態度を取るなんて許せません!」


「結依のものじゃ――」


 いや、結依のものだったわ。反射的に否定しそうになったが、俺は買われた身だったのを思い出したので言葉を止めた。


「なんか言いましたか?」


「なんでもない」


 興奮していて聞こえていなかったようだ。危ないところだった。


「雪君は何もしていないのに、あんな態度を取られるなんて理不尽だと思います!」


 怒って頬を膨らませる姿がとても可愛く、にやけそうになるのを必死に抑える。俺のために怒ってくれているのだと思うと嬉しい。


 だけど、そこまで理不尽なことだとは感じていない。

 こちらも父親の会社の名前を知らなかったのだから、一応非があると思う。

 それに、バイトをしているとこんなことよりも何倍も理不尽な事があるのだ。

 以前のバイト先では、お客にとんでもない言いがかりがかけられた事がある。


 バイト先の飲食店で、出て来た料理が写真と全然違う! と文句を言われ金は払わないと騒がれた事がある。

 しかも全部食べ終えたあとだ。俺が高校生だったということもあり、相手の態度はかなり大きかった。お客相手に勝手なことはできず、理不尽だと分かっていても対応しなくては行けなかった。


 今思い返しても頭が痛くなる。そんな理不尽な事は思いの外多い。そのせいで鍛えられた。


 そういえば、あの時助けてくれた先輩は元気にやっているだろうか?


「気にしなくていいよ。こっちにも非はあるし、そこまで理不尽だとは思っていない」


 今回の中村の態度なんて可愛いものだ。いちいち気にしていたらバイトなんて出来ないのだ。


「結依もあまり気にしないでくれ。俺は大丈夫だから」


 安心させるように目を見て伝える。すると突然俯くと肩を震わせる。


 あれ? もしかして怒らせた?


 せっかく俺のために怒ってくれているのに、気にするな、なんて言ったのが良くなかったのかもしれない。たしかに失礼だったかもしれない。

 何か言わなきゃいけないと思い慌てて口を開く。

「えーと……だから……」


 うまく言葉を出せずにいると、結依の顔がガバッと上がる。


「素敵です!」


「……はい?」


「雪君は本当に優しいです!」


「そ、そうか?」


「はい! ますます好きになっちゃいます」


 想像と違う反応に戸惑ってしまう。ただ、バイトで理不尽な経験があり麻痺しているだけなのにすごい高評価だ。


 顔を赤くし、うっとりとした表情を浮かべている。


「心も広くて、背中も大きくて、体も鍛えられていて逞しくて素敵です」


 最後の二つ関係ないよね?


 どうやら結依の琴線に触れたらしく、自分の世界に入り込んでしまっている。  


 機嫌は良くなったみたいだが、そんなとろけた表情をされるとこっちの精神がゴリゴリ削られる。


「っ!?」


 魅力的な表情に思わず目を逸らす。表情一つでも思春期の男子にはかなりの攻撃力がある。しかも車内という近い距離だ。

 平静を装うために心の中で円周率を唱える。


 3.14159265358979323846264338327950288……


 覚えている限りの数字を思い浮かべ、早く家に着くことを願った。

 我慢出来ず、結依の表情を何度かチラ見したのは言うまでもない。

コロナの感染者数がまた増えて来ているみたいですね。それにインフルエンザの季節でもあるので、体調には気をつけてください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです!雪の学力で学校の生徒をあっと驚かせる展開も見てみたいです!あとは、瑠璃が夜肉食系になる場面も、もっとあったら面白いと思います [気になる点] 特にありません [一言] 誹謗中…
[良い点] 私は特に気になりませんでしたが、読む人にとっては何か不快だったのでしょうか… 万人に受けるというのは難しいと思いますので、気にしすぎない方が良いと思います。 更新、楽しみにしてます。
[一言] 楽しく拝見させていただいています。更新楽しみにしてます。頑張ってください。
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