第15話 早くも不安な登校初日
今日から桜聖学園に通う。
昨日の夜、橘さんから桜聖学園の制服が届けられた。寝る前に試着してみたがピッタリだった。おそらく前の学校の制服からサイズを調べたのだろう。
桜聖学園は有名な学校であるため、制服などは見たことがある。おまけに女子の制服は可愛いとしても有名だった。
以前の学校のクラスメイトも似たようなことを言っていた。まさか自分がその学校の制服を着るというのはなんだが不思議な気持ちだ。
それに、結依と同じ学校の制服を着れるのは気恥ずかしいと同時に嬉しい。また同じ学校に通えるという実感が湧いてくる。
制服に身を包み結依の元へと向かう。
「わぁ! とっても格好いいですよ」
「ありがとう」
昨日の夜も褒めてもらったが、また褒められてしまった。
まだ新品なので生地が固いが、少しずつ変わってくるだろう。
「それでは行きましょう」
橘さんの運転で学校へ連れて行ってもらう。誰かと一緒に登校するというのは初めての経験だ。
以前住んでいたボロアパートの周りに人はほとんどいなかった。正直忘れられたゴミ捨て場のように思えるほど酷いものだった。
実際はゴミ捨て場として使われていたわけではない。ただ、ボロアパートがほぼ廃墟のようなものだったのでボロアパート自体がゴミと言われていたかもしれないが……
車内でちょっとした雑談をしているとすぐに学校に到着した。
橘さんがドアを開けてくれた。外に出て軽く体を伸ばす。
「俺はまず職員室に行かなきゃいけないから」
「わかりました。また後で」
俺たちは別れてそれぞれの目的地に向かう。昨日の段階で教室の位置などは全部頭の中に入っているから、職員室に迷わず行くことができた。
挨拶をすると一人の女性が近寄ってくる。試験監督をしてくれた人だ。
「おはようございます」
「おはようございます」
「私があなたのクラス担任の月宮 葵です」
「よろしくお願いします」
「貴方には、朝のホームルームで軽く自己紹介をしてもらいます。そのつもりでいてください」
「わかりました」
「少し準備があるので少し待っていてください」
「はい」
事務的な会話を終え、職員室の外で待つ。物珍しさにキョロキョロどう周りを見回してしまう。そんなことをしていると月宮先生が出てくる。
「お待たせしました。それでは行きましょう」
月宮先生に合わせて歩き出す。
「あなたのクラスは二年一組です。教室場所は早めに覚えてください」
「もう覚えたので大丈夫です」
「いい心がけです」
そうこうしているうちに教室へ到着した。月宮先生が扉を開けて中に入っていく。その後ろを追うように教室へと入る。
「皆さん、おはようございます」
「「おはようございます」」
「今日はこのクラスに新た生徒を迎えることになりました。ここへ」
指示に従い教壇に立つ。こそこそと話し声が聞こえてくる。
「ねぇ、ちょっと格好良くない?」
「そう? 普通だと思うけど」
「えー、地味じゃない?」
教壇に立つと色々な視線に晒される。興味を示してくれるものもいれば、全くの無関心の者もいる。ジロジロと観察するような視線がまとわりつく。
基本的に女子の方が興味示してくれている。男子は若干がっかりしたような表情だ。同性の転校生なんて面白みに欠けるだろう。俺だって転校生が来るなら異性の方が良い。
視線を彷徨わせるとニコニコした結依の姿が目に入る。
『また後で』というのは同じクラスだったからなのか……
「簡単に自己紹介をしてください」
あまり注目されているのも落ち着かないので手早く済ませることにする。
「一ノ瀬 雪哉です。転校してきたばかりでわからないことが沢山あるので、色々と教えてくださると嬉しいです。これからよろしくお願いします」
「一ノ瀬君の席は姫野さんの隣です。彼女は生徒会役員なので色々と手助けしてくれます。最初のうちは彼女に聞くと良いでしょう」
「わかりました」
結依の隣の席へと向かう。クラスの一番後ろの席だ。
机と机の間を通っていると、ものすごい勢いでこちらを睨みつけている一人の男子生徒がいる。マッシュルームカットの髪型に黒縁の眼鏡をかけている。
歯軋りが聞こえそうな上に目が血走っていて怖い。まだ一言二言しか言葉を発していないはずなのに……
もしかして俺……何かやっちゃいました?
というか、何か出来るほど時間がたっていないんですけど……挨拶しただけだし。
なるべくそっちの方を見ないように席にたどり着く。
「よろしくお願いしますね」
「よろしく」
視線を感じるので、まだ睨まれているのかもしれない。理由がわからないので、とりあえず気づかないふりをしておこう。
転校して数分で早くも不安に襲われるなんて思わなかった。
やっぱり貧乏人の俺には過ぎた場所だったかもしれない。
まぁ、買われた俺に決定権なんて無いんですけどね……
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