第14話 合格のお祝い
編入試験を無事に合格することが出来た。
迎えにきてくれた橘さんの車で家まで帰る。
自然に『帰る』と思えていることから、自分の居場所だと思えていることが実感できる。
きっと結依が近くにいることと、色々気を遣ってくれているからだろう。
「おかえりなさい」
「ただいま」
一緒に帰ってきた結依におかえり、と言われるのは少し違和感があるが、それでも嬉しい。
「おかえり」
「ただいまです!」
俺の言葉へ嬉しそうに返してくれる。
こう言うのも、なんかいいな……
「今日は雪君の合格のお祝いをしましょう!」
「いいのか?」
「もちろんです! 腕によりをかけてご馳走を作りますね!」
「ありがとう。いつも十分すぎるほど豪勢だけどな」
「いつもより頑張っちゃいますね!」
「楽しみにしているよ」
「はい!」
結依はぱたぱた台所の方へ軽い足取りで向かっていく。
結依が料理している間は俺にできることはないので、今日貰ってきた桜聖の手引書を読んで待つことにする。
校訓やカリキュラム、教室の配置や施設について色々と書かれている。せめて教室の配置くらいは覚えておかないと迷ってしまう。
パラパラと読み進めていき、ちょうど読み終えたところで結依から声をかけられる。
「準備が出来ました!」
その声を聞きテーブルの方へと向かう。
そこにはいつもよりも豪勢な料理が並べられていた。肉料理と魚料理、スープまである。ふっくら炊きあがった白米はキラキラしている。
見ているだけで食欲を駆り立てられる料理に思わずお腹が鳴る。
そういえば試験があるからと言ってあまり食べていなかったことを思い出す。
「どうですか?」
「すごく美味しそうだ。でも、この量を作るのは大変だったんじゃないか?」
おまけに作り始めてからあまり時間がたっていないような気がする。
「雪君のお祝いなんですから大変なんかじゃありません。とっても楽しいです!」
その笑顔からは本心だと言うことが伝わってくる。
「それに下拵えは済ませていたので大丈夫ですよ」
「ありがとう。嬉しいよ」
「早速食べましょう!」
結依の手料理はどれも美味しい。おそらく一生食べ続けても飽きることなんてないだろう。
結依はもっと上手くなりたいと思っているようだが、すでに十分すぎると思う。店でも開くのだろうか? そんなレベルだと思う。
まぁ、レストランで料理を食べた経験などほとんどない俺が言うのもおかしな話だと思うが、そこら辺のお店よりも美味しいと思う。
この家に来て毎回夢中になって食べてしまう。手が止まらないのだ。そんな俺を結依は何も言わず、楽しそうに見ている。
食事をしながら会話もする。そんな時間がとても心地よい。
「そうだ。今日の試験で疲れているでしょうから、後でマッサージをしますね」
「わざわざして貰わなくても俺は大丈夫だぞ」
「明日から学校が始まるんですから、ちゃんと疲れをとっておかないダメです」
たしかにその通りだと思うが、実際あまり疲れていない。何時間か座っていただけで疲れてしまうような柔な体だとバイトをやっていけない。
「将来疲れた旦那様を癒すために勉強したんですけど……嫌、ですか?」
うっ……
その表情はずるい。上目遣いで若干瞳が潤んでいる。そんな目で見つめられたら断ることなんてできない。
「やっぱり疲れているような気がするから、やって貰おうかな」
「はい、任せてください!」
ぱぁっと笑顔になる。
食事を終えた後二人で片付けを終える。約束通りマッサージをしてもらうため、広い場所で横になる。
「まずはうつ伏せになってください」
言われた通りうつ伏せになると、腰の部分に結依が跨る。
「まずは肩からやりますね」
結依の細い手が肩に添えられゆっくりと力が込められる。少し高い体温が手を通して伝わってくる。
肩に始まり腰の方へ順に進んでいく。
「っんしょ……雪君の背中、とっても大きいですね」
「そうか?」
「はい。身長どのくらいなんですか?」
「どうだったかな……最後に測った時は175、6くらいだった気がするけど、もしかしたら伸びているかもしれない」
「私より20センチ近く高いですね」
喋っている間も一生懸命マッサージをしてくれている。
「こうやって触ってみるとすごく逞しいですね」
肉体労働は給料が良いから、そのためにそれなりに鍛えている。自然と鍛えられた部分もある。
バイトをしながら勉強するにも体力は必要なのだ。
結依の小さな手でどんどん揉みほぐされていく。思ったより疲れが溜まっていたのかもしれない。とても気持ちいい。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
起き上がると驚くほど体が軽い。肩をぐるぐる回して調子を確認する。
「どうですか?」
「あぁ、すごく楽になったよ」
「それは良かったです!」
「その……お礼と言ってはなんだが、俺にもマッサージをさせてくれないか?」
「えっ……」
「実は昔、マッサージ店で雑用係として雇われていたことがあって、その時に少し教えてもらったんだ」
だから少しだけマッサージには自信がある。少しだけだが、プロから直接教えてもらったのだ。
「……じゃあ、お願いしてもいいですか?」
「任せてくれ」
「よろしくお願いします。実は肩こりが酷くて……胸が大きいのが原因かもしれません」
自然に視線が胸に行ってしまう。肩が凝るのも納得だ。
「えーと、うつ伏せに寝てくれ」
誤魔化すように指示を出す。結依が横になるとそこにまたがるように体を移動させる。
手を肩に添えるとその小ささに驚く。全体的に華奢な印象を受けるが、実際に触るとより分かる。壊れてしまいそうだ。
痛くならないように少しずつ力を込める。かなり凝っているようだ。
「このくらいの力加減でどうだ?」
「……っん……すごく、気持ちいいです」
結依がやってくれたように背中全体をマッサージしていく。
「あっ……っん……そこ、いいです…」
なんか艶かしい声が漏れて、こちらまで変な気持ちになってしまう。
「っんん!……はぁ、はぁ……すごく上手です……」
やばい、マッサージをしているだけなのに悪いことをしている気分になる。
邪念を消し去り、マッサージに集中する。
一通りほぐし終えたところで手を止めた。
「ありがとうございました。体が軽くなりました」
起き上がると大きく体を伸ばす。
「とても上手でした」
「ありがとう」
「その……またお願いしてもいいですか。気持ち良すぎて癖になっちゃいそうです」
「あ、あぁ。結依にはお世話になっているからマッサージくらい、いくらでもやってやるぞ」
「ありがとうございます!」
体が軽くなったが、精神的にはかなり疲れた。次に結依にマッサージをするときまで色々心の準備をしておかないといけないと思った。
主人公の身長などの情報がないと指摘を受けましたので、急遽入れました。不自然だったらすみません。
評価はこのページの下側にある【★★★★★】をタップすればできますので是非!!
伸びが悪くなってきてしまいました…




