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第13話 編入試験と合否

 桜聖学園。

 以前通っていた学校よりも大きな校舎で、敷地面積も比べるまでもなく大きい。


 今日の試験は十時から始まるので、その前に学校に連れてきてもらった。

 試験が終わるまでの間、結依も学校で用事があるらしい。

 俺はとある教室で試験の開始時間まで待機だ。


 十分ほど待つと、眼鏡をかけた知的な雰囲気をまとった女性が入ってくる。少しだけ冷たい印象を受ける。


「一ノ瀬 雪哉君ですね?」


「はい」


「少し早いですが、貴方の準備ができているのなら始めようと思います」


「問題ありません。始めてください」


「わかりました。それでは不正行為防止の為、鞄などはこちらで預かります。携帯電話を持っていたら、そちらも預かります」


 ほとんど何も入っていない鞄の中にスマホを入れて試験官へと渡す。


「不正行為と疑われる行為はしないで下さい。その時点で試験を終了し点数は0点とします」


 問題用紙と回答用紙が机の上に置かれる。

 気持ちを落ち着けるために深く息を吸い込み吐き出す。


「最初は英語からです。それでは始めてください」


 合図とともに問題を開き解き始める。

 この試験に落ちたら後がない。なによりも合格すると信じてくれている結依の期待を裏切りたくない。


 余計な考えを全て捨て去り、目の前の問題にだけ全神経を集中させた。


 ◆◆◆◆


「終了です。筆記用具を置いてください」


 ギリギリだった。解き終わらないかと思ったほどだ。


「これにて本日の試験は終了となります。お疲れ様でした」


 英語に始まり、国語、理科そして最後に数学の試験だった。

 時計を見ると十七時近くだ。


「この後採点が終わり次第合否の判定が出ます。しばらく待っていてください」


「わかりました」


 試験監督は問題用紙と回答用紙を持って教室を出て行った。


「ふぅ……」


 やはり試験は疲れる。おまけに失敗できない試験だったので精神的な疲労もかなりある。


 一応、わからない問題はなかったが、いくつか自信のない部分がある。国語はいつも一つ二つ間違えてしまうのだ。


 手応えはかなりある。自分の持てる実力を全て出しきれたと思う。これでダメなら諦めるしかないと思えるほどだ。


 科目ごとに休憩時間はあったが、それでも朝からずっと座りっぱなしなので体が痛い。

 立ち上がり体を伸ばすとポキポキと心地よい音がなる。


「雪君、もう終わりましたか?」


 声の方を見ると、ドアから顔だけ出している結依の姿がある。


「あぁ、ちょうど終わったところだ」


 俺の言葉を聞くと、教室の中へと入ってくる。


「試験お疲れ様でした。どうでしたか?」


「なかなかいい問題だったと思うぞ」


「いい問題、ですか?」


「数学も思考力を問う問題から計算力を問う問題までバランスよく出題されていた」


 かなり難易度の高いものが一問あったせいで時間ギリギリになってしまった。


「物理や化学も状況の整理が必要となる問題だった。英語なんて、あれだけ文法事項が盛り込まれた英文を見つけてきたことに感心してしまったくらいだ」


 さすが名門と呼ばれる学校なだけはある。この前結依に見せてもらった試験問題よりも難しくなっていたとも思う。


「は、はぁ……」


 なんとも気の抜ける返事が返ってきた。


「どうしたんだ?」


「いえ……てっきり何割くらい出来た、みたいな返答だと思っていたので、予想外でちょっと驚いてしまっただけですよ」


 前の学校では、みんな問題のことについて聞いてきたから、自然とその時と同じように答えてしまった。

 最初は何点か聞かれていたのだが、途中から一切聞かれなくなってしまった。


「その様子だと合格は間違いないみたいですね」


「どうだろうな……手応えはある」


「それだけ問題のことが分かっているなら大丈夫に決まっていますよ。私なんて、解くことに精一杯で、問題の良し悪しなんて気にする余裕はありません」


 そういうものなのか?


「ベストは尽くしたから、あとは合格を祈るだけだな」


「雪君なら大丈夫です!」


 やはり結果が出るまでは落ち着かないので、結依と話すことによって気を紛らす。

 試験終了から三十分ほど経過したところで、教室のドアが開かれ試験監督が入ってくる。


「お待たせしました」


「い、いえ……」


 ついに来た。自信はある。だが、心臓がバクバク鳴ることは止められない。


 試験監督が目の前まで来ると、じっとこちらを見つめる。そして、その冷たさを感じる表情が僅かに崩れ笑みを浮かべる。


「おめでとうございます。一ノ瀬 雪哉君、貴方の本校への編入を認めます」


「ほ、本当ですか!?」


「はい」


「やりましたね! さすが雪君です!」


 結依が全身で喜びを表現してくれている。その姿を見て実感が湧いてくる。鳥肌が立つような喜びが襲ってくると、心の奥が熱くなる。


「ありがとうございます!」


 結依が俺の手を掴むとぶんぶん上下に振る。


「おめでとうございます! これで昔みたいに同じ学校に通えますね!」


「あぁ!」


 やはり結果が出ると嬉しい。バイトしてもお金は貯まらず、裏切られたような気持ちになるが、勉強は結果がついてくる。その度に頑張って良かったと思える。

 おまけに今回は結依の喜ぶ顔も見れた。最高の結果だろう。


「簡単な説明をして今日の予定は全て終了となります。それではこちらへ」


「校門のところで待っていますね」


「わかった」


 俺は試験監督の後を追い教室を出た。別室で説明を一時間ほど受けた後、待ってくれている結依の元へと急いだ。




 ◆◆◆◆

(試験監督視点)


 一礼してから教室を出て行った男の子を見送った後、手元にある彼の回答用紙に視線を落とす。思わずため息が出てしまう。


 どれも高得点を記録していた。

 数学と物理に至っては満点だ。その他の科目も一つ二つ間違えているだけでほぼ満点に近い。

 はっきり言ってこの結果は異常だ。


 この問題はこれほどの高得点を取れるようには作られていない。受からせるための試験ではなく落とすための試験なのだ。


 我が校は他の学校とは違い異質だと言える。政治家や大企業の社長、芸能人の子供達までもが通う学校なのだ。

 独自の教育カリキュラムを組んでいるため、途中から編入してきたとしても、まずついて行くことが出来ないだろう。そのため編入生を歓迎はしていない。


 なので、かなり高難易度の問題を作る。せいぜい五十点ほど取れれば御の字。そう言ったレベルの問題なのだ。


 結果を見ればその異常さがわかる。

 まだ高校二年になったばかりの生徒が解けないような問題が混じっている。それどころか、高校で三年過ごしたとしても解けるようになるのか怪しい問題まで含まれていた。


 だが、それを完璧と言って良いレベルで答案を作り上げている。

 私もそれなりに教師生活を送っているが、彼のような人は初めてだ。

 二年生の中でトップ――いや、この学校全ての生徒の中でトップレベルの学力を持っていると断言できる。


 我が校にも優秀な生徒は沢山いる。それでも彼は異常だ。おそらく天才なのだろう。

 近年急速に成長を遂げた会社の社長令嬢である姫野さんとの関係も気になる。


 イレギュラーな存在である彼に興味を抱かずにはいられなかった。

女子高生に買われた男子高校生なんて、イレギュラーな存在ですよね…


面白いと思っていただけましたら、ブクマ、評価、感想よろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白い 続きも待ってます
[一言] 厳しい言葉も沢山頂いてるかと思いますが、私好みのとても面白い作品です!!! 無理せず、お身体には気をつけてください。 次の投稿も待ってます!
[気になる点] 何故、社会科がないの?
感想一覧
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