第1話 幼馴染みとの再会
日曜日。俺はテーブルの上に置かれた一枚の紙を呆然と眺めていた。
それは俺の父親の字で書かれていた。
『雪哉へ。父さんと母さんは遠くに行くことにした。悪いな。後のことは、ある人に頼んである。俺たちも頑張るから雪哉も頑張れよ』
クソッ、借金残して消えやがった!!
起きたらこんな手紙が残されていた。昨日は夜遅くまでバイトをしていたから起きるのが遅くなってしまった。いつ家を出たかわからない。早く起きたとしてもあまり意味はなかっただろう。
湧き上がった怒りは一瞬にして消える。今ある感情は呆れだけだ。
「はぁ……」
大きなため息が出る。
我が家はびっくりするくらい貧乏だ。かろうじて生活できているレベルだ。
生まれた時から貧乏だったので、小さい頃は特に気にしたことはなかったが、次第に歳を重ねるごとに他の家との違いが色々分かるようになってきた。
父さんと母さんは俺に暴力を振るったことなんて無かったし、俺だけ質素な飯を食べさせられていたわけでもない。虐待を受けたことなんてなかった。家族みんな揃って、一般的な家庭のお粥よりもさらに水分が多いものを食べていた。ベチャベチャを超えてサラサラだった。飲み物かな?
貧乏なりに愛情は受けていたと思う。父さんも母さんも明るかった。
ただ一つだけ欠点を挙げるとすれば、二人とも金を稼ぐのも使うのも非常に下手くそだったということだ。
不思議なことに我が家には全く金が貯まらない。減る一方だ。増えていくのは借金だけだ。
二人とも安定した仕事ではなく、バイトのような物をして凌いでいた、そのせいで保険もなければ、いきなり仕事がなくなることもあった。そうしたら収入はゼロだ。
俺が高校生になってからは、バイトを始めることができた。高校二年になりバイト生活にも慣れてきていた。
俺が働き出したことで少しだけ楽になると思ったが誤差の範囲だった。ほとんど変わることはなかった。
それどころか借金は無くならないし、寧ろ増えている。全く意味がわからなかった。
時々、うちに帰ると見覚えのない壺が置いてある。だいたい割れてなくなるのだけれど……
借金が増え続けることに文句を言っても仕方がないので、バイトを続けた。バイトだけではない。学生の本分である勉強にも全力を注いだ。この貧乏生活を脱出するには良い職につくしかない。
俺にできることは学力を上げることだけだった。いい大学に行き、就職する。それが俺の思いつく貧乏生活の脱出に最も近い道だと思ったからだ。宝くじを当てたり、株で稼ぐよりよっぽど現実的だ。
バイトしながら勉強もする。いうのは簡単だがかなりきつい。
時間もないし、体力だって削られる。勉強やバイトをするために体を鍛えたのは俺くらいなものだろう。
勉強は中学生の頃から頑張っている。そうすれば奨学金制度も利用できたし、特待生で高校に入れば学費が安くなる。勉強する以外に選択肢なんてなかった。
死ぬ気で勉強した。そうしなければ高校にだって通うことができない。中卒になってしまったら、今の絶望的な借金まみれの状態から回復するのは非常に難しいだろう。
その結果、高校は特待生で入学できたし、奨学金も貰うことが出来るようになった。
勉強は切羽詰まっていたとはいえ結果が出ると嬉しかった。
高校でも変わらず続けている。今のところずっと学年一位をキープしている。
勉強くらいしか取り柄がないのだ。
これまでの出来事を振り返っていたが、現実逃避を終える。
再び手紙を読み返す。
「ある人って誰だ?……」
手掛かりになるようなものは一切書かれていない。
そんな時だったドアがノックされる。
俺が住んでいるボロアパートにインターホンなんてものは存在しない。それに小さいのでどこにいても十分聞こえる。
「もしかして……ある人、か?……」
恐る恐るとあの鍵を開けて扉を開く。
「お久しぶりです。一ノ瀬 雪哉君」
「ゆ……い……?」
「はい! 姫野 結依です」
そこにいたのは、小学生の時を境に疎遠になっていた幼馴染みの姿だった。
長く綺麗な黒髪。可愛いと綺麗が完全に一つになった容姿を持っている。誰がみても美少女だと言えるだろう。制服に身を包んでいるが、その豊かな膨らみの存在感は失われていない。
「雪君、迎えに来ました」
そう言って笑う姿はとても魅力的だった。
久しぶりに再会した幼馴染みを、ただ呆然と見つめることしかできなかった。
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