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この世とあの世の境目の駅ときつねっ子のきつねうどん

作者: しっぽと羽

 うとうとして寝過ごした。

 駅に到着して降りる予定の駅を過ぎて、都会からは程遠い感じのところ。

 あわてて目をさまして降りた。


「ここどこ?」

 僕はつぶやいた。

 まわりに人はいない。


 建物の中は薄暗い。

 ところどころ天井の電灯もついていないところや切れかかっているところが多い。


 駅の名は聞いたことが無かった。


 誰もいないベンチに腰を下ろす。


 肩をぽん。

「うわあ」


 いきなりぽんとされたのでびっくりする。


 地面にうつっている影には後ろに人がいるのがわかる。

 だが…体のお尻のところには太くてふさふさしたものがうつっている。


 後ろを見ると若い女性がいた。

 若いというか同じ年ぐらい?


「なんでこんなところにおるのじゃ」

 古風な話し方。


 見ると人ではなかった。きつねっ子というやつだろうか。

 きつね耳がかわいい子だった。


 こんなところで見る人外の子。

「こんばんは」

 と言ってみる。


「こんばんは。おちついているの。ここはあの世とこの世の境目の駅じゃ」

 と言った。


「え?」

 なんだって。


「だから。ここには普通は来ることができないんじゃ。おぬし可哀想に…体が朽ちるまで出られぬかもしれんぞ」

 ときつねっ子が言った。


「えええ」

 僕は立ち上がった。


「で。でも…列車は? それと…駅のから出たら?」

 と言いまわりを見る。


 きつねっ子は「外へ出てみるといい。出ても戻って来ることができるから見てきたらどうじゃ」

 と言った。


「うん」


 返答して駅の改札から出る。


 何もない原っぱだった。

 明かりも全くない。 


 田舎ということでもない。なんか寒い。

 薄い霧もかかっている。


 夏で暑かったはずだ。

 ここまで寒いのも変だし…

 このままずっと向こうまで行ったらどうなるんだろうと思った。


 だが、怖いので駅の中へ戻る。


 そのままホームから線路を見てから時刻表を見る。

 1つだけ時刻が書いてあった。0時00分


 つまり…どうやって来たのかもわからないが、いつ列車が来るかもわからない。


☆☆☆


 寒くなってきた。

「どうじゃ。駅構内の立ち食いそば屋さんできつねうどんでも食べるか?」

 ときつねっ子が言ってきた。


 立ち食いそば屋?


 確かにさびれているがカウンターと、その奥に調理場がある。

 夏なのに寒くなってきたので「うん」と言う。


 手慣れた手つきでうどんを茹でて油揚げを調理する。

 冷蔵庫の中からおいなりさんを4つ出す。

「めずらしいの。ここ何十年もなかったのじゃが、おいなりさんがあった。ほれ」

 と言い、お皿においなりさんを4つ乗っけてきた。


「いただきます」と言い僕が手をのばすと…

「2つずつじゃ。わしも食べるからの。きつねうどん。出来上がりじゃ」

 ときつねうどんも出してくる。


 なかなかうまかった。

「普通においしい」

 言うと。


「そうじゃろ。厨房にレシピがあったからそのとおり作っただけじゃがの。何十年も作っているからの」

 ときつねっ子が言った。


 カウンターに座り、後ろを見ると時計があった。

 0時5分のところを指している。


 さっきも同じ時間だった。

 たぶん止まっているんだろう。


 おなかもふくれて程よくあたたかくなったころ。


「さて。おねんねの時間じゃな。お布団があるから用意するかの」

 と言う。


 布団?


 駅の駅員がいるところを見ると、中に駅員用の休憩室があるのが見えた。


「ほれ。こっちこい」

 きつねっ子が言う。


 ここに泊まることになる。

 まあ、だれもいないし、列車も来ないだろう。


 中に入ると、小さいながら宿直室みたいな感じの部屋があり、一通りそろっていた。

 ストーブやちゃぶ台。湯呑。お茶菓子。小さいタンス。押し入れ。


 だが、お布団は1組しかなかった。

「えと。1組しかないの?」

 と言うと。


「そうじゃ。わしはかまわん」

 と言うきつねっ子。


「じゃあ。僕は待合室で寝るよ」

 と言うと…


「おぬし。骸骨になって死にたいのか。それだったらかまわんが…」

 ときつねっ子は手を幽霊の恰好にして言う。


「え?」

 骸骨って…


「かなり前に。おぬしと同じように男の子が来たのじゃ。待合室で寝るといってたが、朝になったら骸骨になってたのじゃ。なぜかこの宿直室の中で寝たら平気だったのじゃがの。私は椅子で寝るのがいやだったので、初夜からここじゃ」

 ときつねっ子が言う。


 言い方がなんか、新婚さんみたい。


 でも骸骨になるのはいやだった。


「じゃあ。この部屋でちゃぶ台によりかかって寝るよ」

 と言うと…


「ほう。そうかの。明け方は冷えるからの。しばれて、寒くて死んでしまうかもしれないの」

 と言った。


「冷えるの?。じゃあ毛布を…」

 と言うが…


「わしのは貸さんぞ。1つしかないのでな。ほれ、堪忍せい。一緒に寝るのじゃ」

 と言ってくる。


「え。で。でも…」


「死ぬぞ」

 ときつねっ子が言う。

 しっぽは左右にふって言っているきつねっ子。


 堪忍して布団の中に入った。


 僕の初夜はこうして過ぎて行った。


☆☆☆


 朝。

 朝と思うが、夜だった。

 時間はかなり過ぎているようだ。

 スマホを見ると、朝の時間だ。


 起きて待合室の時計を見ると0時5分のままだった。


 ずっと駅のホームで列車が来るか、来ないかを見ていることにした。


「無駄じゃ。何十年もこうして待っていたが、おぬしが来た列車のほか、しばらく来ていない」

 そう言うと…きつねっ子はどこかに行ってしまった。


☆☆☆


 もう7日間が過ぎてしまった。


 本当に列車は来ない。


 きつねっ子と一緒にきつねうどんを食べて過ごす。

 おいなりさんは、初夜しか冷蔵庫には入ってなくて、きつねうどんだけだった。


☆☆☆


 駅舎に置いてある髭剃りがあって、それでひげをそっていた。

 おひげは元々なかったが、生えてきた。

 3本特に長いのがある。

「おぬし。きつねっぽくなってきたのかもしれんな」

 おひげを見てきつねっ子は言った。


 スマホはとっくに充電が切れていた。

 コンセントは無く、冷蔵庫のコンセントを借りようかと思ったが、元から冷蔵庫のコンセントはつながってなかった。

 でも冷蔵庫は冷えていた。


☆☆☆


 7日目の夜。僕は駅舎の時計を見た。

 これ…電源が来ていないから止まっているのではなくて、時間が止まっているのではと考えた。

 だから列車が来ない…


 駅舎の時計につながるコンセントを見て、コンセントにささっているのを見た。

 その配線は壁ずたいに配管が通っているので配管を見て建物の外に出た。


 配電盤があり、中を開けるとブレーカーが落ちていた。

 入れてみる。


 宿直室や駅の蛍光灯がところどころついているのが謎だが…


 時計を見に行ってみても動くことはなかった。


 その夜もいつもと同じようにきつねっ子と一緒に寝た。


 そして朝。


 宿直室で寝ていたはずが、駅のホームで寝ていた。


 そして人の気配がした。


「え?」

 見ると初老の駅員がいた。

 まわりを見ると、駅に人はいないが、普通のさびれた駅に見えた。


 時刻表を見ると、1時間に1本だが列車の時刻が書いてあった。


 待合室の時計を見ると6時20分をさしていた。

 あ。やっぱり…時計を動かすのが正解?

 でも…昨日の夜は動いていなかった。


 きつねっ子の姿は見えなかった。


 立ち食いそば屋さんはシャッターが閉まっていた。


 これで帰れるのか。


☆☆☆


 駅のホームで待っていると、きつねっ子が出て来た。

 だが、耳としっぽは見えない。

「驚いたのじゃ。普通に戻っているとは…」


「あ。あの…耳としっぽは?」


「妖術で見えなくしておる。駅員もおるからの。それにほれ。お客さんもいる」


 主婦っぽい人と、そのお母さんもいる。

 町に用事があって出かけるのだろうか。


 列車が来た。

 僕が住んでいる方向の列車だ。


 雰囲気からきつねっ子はこのまま残るように見えた。


 列車が駅にとまり、入り口で立ち止まる。

 僕はきつねっ子を手招きしてぎゅっと抱きしめた。


 ドアが閉まる前、僕はきつねっ子を持ち上げて抱っこして、そのまま列車の中に入る。

 その後ドアが閉まった。


「何するのじゃ」

 と聞いてくる。


「一緒に帰ろう」

 きつねっ子を残していくのは気がひけた。


 きつねっ子は悲しそうな顔をした。

「残念じゃが、わしは長く駅にいすぎたようだ。元の体も朽ちているだろう…ほれ

わしの体。薄くなってきているじゃろ」

 きつねっ子は腕を見た。


 少し透けている。

「そ…そんな…行くところがないなら一緒に暮らそうと思って…」

 とっさに言った。


「さよならじゃ」

 と言うと薄くなり消えていった。


☆☆☆


 今日は土曜日だった。

 隣に座っている人が新聞を広げていて、僕が列車から降りた次の日になっていたからだ。


 最寄りの駅に到着して降りる。


 普通に歩いてコンビニを過ぎて、住んでいるアパートの前に到着する。


 鍵を開けて中に入る。


 やっと帰ってきた。


 と思ったとき…


 駅の宿舎で目が覚めた。


「ほれ。きつねうどんできたぞ」

 きつねっ子が言った。


 あれ? 帰ってない?


 まわりを見た。

「ねえ。僕がここに来てから何日目?」

 と聞くと…


「なんじゃ…急に…6日目じゃ」

 と言った。


 なんださっきのは夢だったの?


 ということは…

 駅の時計を見た。


0時5分だった。


 じゃあブレーカー。


 外に行き、ブレーカーを探すが、ブレーカーそのものがなかった。

 代わりに祠のようなものがあっただけだった。

「なんで…」


 その日はきつねうどんを食べてそのまま寝ることにした。


☆☆☆


 次の日。

 ブレーカーがあったところに行く。


 祠がある。

 中を開けると、きつねの人形がほこりまみれで倒れた状態で置いてあった。

 その隣にはきつねのキーホルダ―があった。

 それだけ新しい。


 僕はきつねの人形を取り出して、駅舎へと持っていく。

 きれいな布でふいてから祠の中に戻した。

 きつねのキーホルダはどうしても気になったのでポケットに入れた。


 7日目の夜が明けた次の日。


 朝が来た。


 どう見ても普通の朝。


 気が付くと初老の駅員がいた。


 あと夢の中で見たことがある主婦とそのおかあさんも駅のホームで見かけた。


 駅のホームで待っていると、きつねっ子が出て来た。

 だが、耳としっぽは見えない。

「驚いたのじゃ。普通に戻っているとは…」


「あ。あの…耳としっぽは?」


「妖術で見えなくしておる。駅員もおるからの。それにほれ。お客さんもいる」


 前にやったようなやりとり…


 駅に列車がついて、僕はきつねっ子に抱きついた。

 そのまま体を持ち上げてきつねっ子と一緒に列車の中に入った。


「おぬし。おもいきったことをするの」

 びっくりしたのかしっぽだけ見えるようになっていた。


 しばらく横に座っているきつねっ子。

「ねえ。体薄くなってない。消えたりしないの?」


 と聞くと…

「ばれているかの。ほれ。左の腕がうすくなっておる」

 きつねっ子が言った。


「一緒に暮らそうと思ったのかの。わしは長い間駅にいたからの。実はうそをついていたのじゃ。

駅にご神体があったろ」


 え? きつねの人形が入った祠?

「わしは元子狐じゃ。それとわしが間違って駅の線路内に入ってしまっての。女子高校生がそれを見て、助けようとして線路内に入ったところをはねられたのじゃ。わしはその女子高校生の幽霊と融合したのじゃ。その後祠が駅構内にできたのじゃ。だから駅から離れることはできないと思うのじゃ…」


 と言った。


 あの世とこの世の境目。

 未練があったのか。


 そのことを言ったあと、きつねっ子は薄くなり消えていった。


 ぽけっとの中にきつねのキーホルダがあるのを確かめる。


 これはあの子のか?


 でも気になった。


☆☆☆


 最寄りの駅で降りて、自分のアパートへ着く。


 今日は土曜日で、ごはんは自分でひさしぶりに作った。

 きつねうどんにした。お稲荷さんはコンビニで買ってきた。


 そして夜。


 布団をしいて寝床に入ると…人の気配がした。


 横を見るといきなり女の人がいた。

「うわぁ」

 声を出して布団から出た。


「なんじゃ。そんなにびっくりしたか。わしじゃ」

 見覚えのあるきつね耳の子。


「なんで…消えたんじゃ…」

 と言うが…


「祠の中のキーホルダ持って行ったじゃろ。あれのせいじゃ。消えた後、駅構内に具現化したが、中に入れないのじゃ。妖術でそなたの気配をたどっていくとこの町について、歩いて行くとここについたのじゃ。だからそなたにとりつくことにした。きつねっ子はいやかの?」

 ときつねっ子は言った。


 結構かわいいきつねっ子だ。

「そ。そうなの…」


 ものすごくびっくりしたからまだ、心臓がばくばくしている。

「びっくりさせちゃったの。普段は耳としっぽを隠しておくからしばらく置いてくれんかの。

一生でもいいぞ」

 と言った。


 一生ね。


 まあ。彼女もいないし…こうして無事に戻って来れたし…きつねうどんをごちそうになったし。


「じゃ寝るかの」

 1組しかないお布団の中に一緒にはいった。


 これ…寝て起きたらまたあのホームなんじゃないのかと思ったが、眠ることにした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 狐耳と尻尾モフモフ。 [一言] 狐っ子になら一生取り憑かれてもいいよね。
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