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92 霊廟の中

 裏山にある階段を登った。


 霊廟が見えたところで、黒犬を足元に呼び戻す。


 リュックから火炎石を出して握った。さらにチックを肩に乗せる。


 剣を構えているガレンガイルに気づいた。


「隊長、死霊が出たら剣は効かない。おれにまかせて」


 ガレンガイルはうなずいた。ゆっくり霊廟に近づく。予想に反して死霊は出なかった。


 霊廟の入口を調べる。人が屈んで入れる小さな入口だ。石の板で塞がれていた。憲兵隊の中でも力がありそうな巨漢の二人が前に出る。


 肩をつけて押すと、石の扉がズズズッと開いた。


 霊廟の中に棺桶は無かった。下に降りる階段がぽっかり口を開けている。


 階段の途中までは陽の光で見えるが、そこから先は真っ暗で見えない。


 ガレンガイルが部下に何かを伝え、部下が走っていく。しばらくすると、その部下は長いロープを持って帰ってきた。


 ガレンガイルがそのロープを腰に回そうとしたので、おれは隊長の肩を叩いた。


「おれが行ったほうが良さそうだ。チックとハウンドがいれば、敵がいてもわかるし」


 暗闇に行きたくはないが、ハウンドとチックがいるおれが明らかに適任だ。おれは腰にロープを結んだ。


「二度引いたら、憲兵隊も降りてきて下さい」


 そう伝え、階段を降りていく。陽の光が切れると、本当に真っ暗だ。黒犬の「ハッハッ」という呼吸だけが聞こえる。


「ハウンド、ゆっくり行ってくれ」


 先を歩く黒犬の音が遠くなったので、あわてて言った。さすが野生の生き物。真っ暗でもスタスタ歩いていく。


 思ったより長い階段だった。慎重に進んでいたが、いきなり平坦な道になりびっくりした。階段があると思ってたので「んあ!」と、思わずマヌケな声を上げる。


 両手を広げると、両側の壁に触れた。通路は広くはない。


 壁伝いに歩いていくと、遠くの壁にランタンの灯が見えた。「ガウッ」と黒犬が吠えたかと思うと、突然に駆け出した!


「ハウンド!」


 押し殺した声で呼ぶが、ランタンの灯りも通り超え、先の闇に消える。おれも駆け出したが、腰のロープが止まり、うしろに引っ張られるように転んだ。


 ロープを何度か引っ張るが、緩めてくれる気配はない。どこかで引っかかったのかもしれない。太ももにつけていたナイフでロープを切る。


「チック! チック!」


 押し殺した声で呼ぶ。肩に置いていたので、さっき転んで落ちたはずだ。


 カサカサと足元で音がした。踏まないように足は動かさず、手探りで地面を探す。いたぞ。硬い甲羅の感触。つまんで胸のポケットに入れる。


 立ちあがり、ハウンドに追いつこうと早足で進んだ。


 壁にかけられたランタンまで来ると、さらに奥にもランタンが見えた。ハウンドの唸り声が聞こえる。おれは奥のランタンの灯りへ走り出した。


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