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50 お見舞い

 おれは海を眺めながら考えた。


 今回は危ない所だった。本当に死んでても、おかしくない。そして、死んで元の世界に帰れるかは、わからない。


 おまけに、この世界に蘇生呪文はない。


 これって、このまま勇者を続けてダイジョブなの? 勇者ではなく、村人として平和に暮らすべきじゃない?


 ノックの音がした。医師と看護師はノックしないだろう。「どうぞ」と答えた。


 誰かと思ったら、先日に依頼を受けた林檎畑のばあさんだ。


「お加減はどうですか」

「おばあさん、よくここがわかりましたね」

「へえ。ギルドにお礼を持っていきましたら、ここだと知らされまして」


 そう言って、袋一杯の林檎を横のテーブルに置いた。


「うっわ! ばちくそ旨そう! おばあさん、ありがとう!」

「大げさですねえ。今年はあまり出来がよくないんですが」


 ばあさんはそう言うが、おれは何日も果物なんて食べてない。ほんとに喉から手が出そうなほど、輝いて見える。


「うちのじいさんからも、よくお礼を言っといてくれと」

「とんでもない。またいつでも言って下さい。今度は、もっと早く駆けつけます!」

「そう言っていただけると助かります。うちのじいさんも困ったもんで、まわり近所に言うんですよ。ええ勇者さんがおる、みんな、困ったら勇者カカカさんに頼めって」


 おれは思わず窓の外を眺めた。おじさんになると涙腺が弱い。なんとか耐えた。


「お大事になさってください」


 そう言って、ばあさんは帰っていった。入れ替わりに、アドラダワー院長が入ってくる。


「初等学校の校長に、特別に教えてもらえんか聞いてみたんじゃがの。例外過ぎてダメだと言われてしまったわい」


 それは残念! でも、院長はいい人だな。早く借金返さないと。


 今、少しばかり余裕がある。帰りに少し払って帰ろうか。


「まあ、しばらくは、ゆっくり療養じゃの」

「入院? 何日ぐらいですか?」

「そうじゃのう。七日ぐらいはかかるじゃろう」


 七日! ここの入院は一日300Gだったはずだ。


「あのう、この前の支払い、もうちょっと待ってもらっていいですか?」


 院長は笑った。


「取り立てたりはせん。余計な心配はせずに、ゆっくり休む事じゃ」


 いやいや、ゆっくりしてたら破産しますって!


「あっ! それより、なんです? あの声の掛け方。びっくりしましたよ」

「おお、お主はロード・ベルを知らなかったようなんでな、最初なんで、格好つけてみた。渋い声じゃったろう?」


 まぎらわしい! おれはどっと疲れて、身体を寝かせてもらった。



 完治まで七日と言われたが、ばあさんの林檎を毎日食べたからか、五日で治った。


 今年はデキが悪いなんて言ってたけど、超絶にうまかった。甘いと言うより酸味や苦味も強くて、野性味がある。もう、スーパーの安売りリンゴなんて食えない。


 帰りに1500G払い、おれの手持ちは一気に400Gほどになった。ふりだしに戻る、そんな気分。


 退院する日、療養所の入り口に意外な人影があった。


 ティアだ。院長が連絡したらしい。今日は学校が早く終わったらしく、学生服だった。


「これこれ、早く連れてって!」


 ティアが虫カゴを差しだしてきた。中にチックが入っている。なるほど、おじさんの身体を心配してきたんじゃないのか。おじさん、さみしい。


 虫カゴを受け取り、チックを見る。「早く出せ!」と言わんばかりに、ハサミを振り上げた。


 チックを虫カゴから出し、胸ポケットに入れる。そうだ。おれは、ふと思いだした。


「ティア、ギルドに行かないか?」


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