表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/132

4 ここはオリーブン共和国

  パラメータ画面をもう一度確認する。


 視界に出てきた小窓に焦点を当てたまま、下に目線をずらすと、ほかのパラメータ(情報)が出てきた。


  レベル:1

  体力:100

  魔力:20


 低っ。まあ、レベル1なら、こんなもんか。それより気になった項目がある。


  現在地:オリーブン共和国


 おいおい。オリーブン共和国ってなんだ?


 オリーブン? どこの言葉だ。


 待てよ。それって、オリーブの事?


 嫌な予感がして、立ちあがって窓に近づく。明るさから予想して、おそらく朝だ。


 右手に小さな茅葺きの家。左は空き地。遠くに同じような家が何軒か見えた。その向こうに海も。


 窓から外に出てみる。


 山があったり、海があったり。大まかな景色の配置は、現実の時とさほど変わらない。


 ここが、どこかわかった。おれの家があった場所。


 ……つまり小豆島だ。


 オリーブンって!


 たしかに、小豆島の特産はオリーブだ。だからって、そんな安直に名前つける?


 ああ、そうか! 現実世界のデータからゲーム世界へのアレンジはAIだ。かっこいいとか、かっこ悪いとかの判断は無いのか。


 おれは振り返って、我が家を見た。


 小さな茅葺きの家だ。見るからに一人用。でも敷地の広さは、現実の時と変わらない。家の前にあった車庫は、ただの更地になっている。


 玄関らしき戸から入る。小さな廊下があった。


 すぐ右に木戸があり、開けてみる。さっきのおれの部屋だ。


 この家は、なんてことはない二部屋だけだった。おれの部屋とトイレ。以上、終わり。


 これで、この世界に「オカン」が存在しないのがわかった。これはいい。テンションが少し上り、部屋に戻る。


 思ったほど自分は混乱してない。「転生物」とか「転生系」と言われる話はラノベでよく読んだ。それが我が身に起こった。


 ただ、残念なのが、チートだったらなあ!


「チート」と言うのは、ゲームの設定を無視した数値や特技だ。始まった瞬間から「おれ、最強!」ってな具合に。


 例えば、剣の世界なのに一人だけ銃を持ってるとか。そんな転生なら最高だった。ところが、さっき見たようにレベル1だ。最弱スタート確定。


 おまけに異世界とは言え、このゲームは「ラスティ・アース」だ。世界を作るデータの元はグーグル・マップである。だから小豆島に関連するキーワードをもじった「オリーブン共和国」なんかになるのだ。


 なんとも萌えない。もっとこう、アレフガルドとか、ミッドガルとか、それらしい名前ないの?


 まあ、ゲームへの不満は置いておくか。一番の問題は「どうやって帰るか?」これだな。


 ぱっと思いつくパターンは三つ。


 1 ゲームオーバーになる。

 2 ラストボスを倒す。

 3 大賢者がいて、異世界転移の呪文が使える。


 ゲームオーバーになる、というのは賭けだ。もし、向こうに戻れなかったら、普通に死んじゃう。


 ラストボスを倒すというのも考えにくい。ここは小豆島だ。小豆島のド田舎にラストボスがいるか? いないよな。せいぜいカラスか野良犬みたいなモンスターだけだろう。


 もし、いるとすれば、やっぱり東京なんだろうな。ひねって京都。


 大賢者も同じだ。この島にはいないだろう。


 ふと、おれのパソコン上で、このゲームはどう動いているのか気になった。パソコンの電源を落とすとどうなる?


 おれは消える? ちょっと怖くなった。あわてて木の兜をかぶる。


 おれの部屋。パソコン画面を見る。昨晩に始めた時から変わってない。


 このゲームはマウントディスプレイで見るゲームだ。パソコンの画面には、ゲームタイトルと設定画面しかない。


 このまま放置しとくべきか?

 もしオカンでも部屋に上がってきたら?

 切られはしないか?


 今、7時35分だ。このまま出社しなかったら、オカンが部屋に来るだろう。


 ん? 7時35分?


 もう一度、時計を見る。時計の針が、カシャン! と動き36分になった。


 おれは顔から血の気が引くのを感じた。兜を脱ぐ。前に見た時も7時35分だった。あれからずいぶん経っている。


 ……止まってる?


 止まってるのか! 時間が?


 頭が混乱する。意味分かんない。


 おそらく時間が止まっているというより、向こうの世界から、おれだけ別世界に抜けている。向こうの人間にとっては、何も変わらない、ということか。


 そうなると、結論として答えが一つある。この木の兜は、あまりかぶらないほうがいい。止まっているなら、そのままが一番。


 時間が止まっている理屈を考えようとして、やめた。おれはアインシュタインじゃない。物理で何点取った? 38点だ。難しいことを考えてわかるわけないだろう。


 とりあえず、無断欠勤になる心配はない。向こうは止まっているのだから。ノンビリ帰る方法を探そう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] カカカには思わず笑ってしまいました。 [一言] Twitterからきました! また読みにきます! ブクマもつけちゃいました。 応援しています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ