43 オヤジの相談
「相談がある」とのオヤジの言葉。おれはおどろいた。おれの頼りなさは、畑の件で十分知ってるだろうに。
あの戦いはひどかった。最弱と言えるモンスター相手に四苦八苦だ。
「おれで良ければ、なんでも」
「うちの娘なんだがなぁ」
オヤジの娘、ティアの事だった。なんでも、先日に十八歳になり、勝手に冒険者登録をしたそうだ。なるほど、冒険者の年齢制限は十八なんだな。
「いや、その前に、あの子、十八なの?」
見た目、十五か十六。見事な幼児体型だわ。
「ああ、身体は小せいし、線も細い。冒険者向きとは思えねえがな。現職から見て、どう思う?」
「まあ、おれも人の事は言えませんが、戦闘向きには見えませんね。魔法は使えるんですか?」
以前にアナライザー・スコープで見た。「魔力:0」なのは知っているが、知らないフリをして聞いた。
「まったくダメだ。素質がねえらしい。それに、珍しく特技も何一つねえ」
「何一つ?」
「ああ。誰でも一つや二つあるだろう?」
特殊スキルって、みんな何かしら持っているのか。初めて知った。
「オヤジさんのスキルって、何です?」
ちょっと気になって聞いてみた。
「俺のか。俺のは、ちょっと珍しいぞ。見せてやる」
オヤジはそう言って、厨房に戻り、がちゃがちゃと何かをしている。
にっこり笑顔で戻ってきた。おれは、その右手を見ておどろいた。炭を持っている。素手でだ。
親指と人差指に挟まれた小さな炭は、真っ赤っかだ。オヤジはもう片方の手で、ポケットから紙巻きタバコを出すと、その炭で火を点けた。
「強靭な手、という特技だ。便利だろ」
煙を吐き出しながら言った。炭を道端の水たまりに投げた。「ジュッ」という音がして火が消える。
「あ、熱くないんですか?」
「長くはもたねえが、たいがいの事なら両手のひらに限り大丈夫だ。どうだ? 氷屋にぴったりだろう」
それはそうだが、それ、戦闘に使ったらチート(最強)じゃねえの?
「娘さんは、何も持ってないんですね」
おれは確認してみた。前にアナライザーで見た時は、そこまで細かく見ていない。
「ああ、何もねえ。まあ、あとで身につくこともあるし、修練で会得するかもしれんがな」
なるほど。特殊スキルは増やすこともできるのか。
「オヤジさん、他に何か持ってます?」
「そうだな。名前なんだっけかな」
オヤジはそう言って、空中に焦点を合わせた。
おれはぞっとした。村人が自分のパラメータ画面を見ている。
考え出すと面倒なんで、これまで考えないようにしていた。でも、あらためよう。もはや、ゲーム内のキャラクターではない。全てはひとりの人間。そう思ったほうがいい。
この世界が、どうやってできたのか?
いや、生まれたのか?
何もわからないが、すべての人は、現実の人間と変わらない。
「肉のささやき、だな」
「え? 何がささやくって?」
オヤジの言葉に考えがさえぎられた。
「この特技を使うとな、どの肉が美味しいか、ささやいてくれるんだ。肉を仕入れる時に便利でな」
な、なるほど。ここの羊肉が、なんで飛び切り旨いのか理由がわかった。
それはともかく、おれは腕を組んで真剣に考えた。いや、考えるべきだ。ティアはひとりの人間なのだから。
ティアが冒険者。やらせたくない。でも十八だ。大人が「危険だからやめろ」と言う。それを聞くような歳か?
これは難問だぞ。





