40 三男坊
両替所に寄り、水晶とアメジストを両替する。
この日はここまでにして、家に帰ることにした。どこかで食料を、とも思ったがやめた。氷屋で食べることにする。
退院した次は、牢屋から退所。オヤジびっくりするだろうな。
まあ、出所と言えばビールだろう。なんかそんな昔の映画を見た気がする。捕まってたいのは一晩だけど。
家に一度帰り、身体を洗ってから出掛けるつもりだった。それが家の前で予想外の人影に身を構えた。ネヴィス三兄弟の三男坊。
ちょっと、うんざりした気分になった。今日はラッキーな日になるはずだった。幸運の女神のホットラインをゲットしたのに。
「まだ用か?」
「そう、構えるなよ」
三男坊に争う気はないようだ。
「鍵を取りに来ただけだ」
「鍵?」
あっ! と思いだした。兄弟の店に渡せば良かった。リュックから道具屋の鍵を出し、渡した。
「よくわかったな。家が」
「俺は顔が広いんだ。赤いサソリを連れてるやつなんざ、見つけるのは早いぜ」
おれは肩のチックを見る。チックは「おれのことかー!」とでも言うように、ハサミを振り上げた。
「もう来ないでいいよ」
おれはそう言って、家に入ろうとした。
「一晩でよく帰ってこれたな。一杯おごるぜ」
任侠映画か。まあでも、飲みたいのはたしかだ。
「ここから少し歩いた所に砂浜がある。氷屋があるんで、そこで待っててくれないか? 身体を洗ったら、すぐ行く」
三男坊はおれが差した方を見た。
「わかった」
おれは家に入り、木戸を閉めた。
氷屋に着くと、三男坊はオヤジと談笑してた。律儀に、まだ何も頼んでないらしい。
「なんでもいいぜ。俺が持つから。と言って、なんでもはねえか」
そう言って店内を見まわす。よし、なら思いっきり食べてやろう。
「羊肉パンを二つと、エールを二杯。帰る時に、持ち帰りで、もう一個」
「わかった。俺にも同じものを」
三男坊は、オヤジにそう注文した。席に座る。
「ダネルだ」
「はあ?」
「おれの名だ。ダネル・ネヴィス」
「そうか。おれは」
そこまで言って、言葉に詰まった。
「勇者カカカだ」
「カカカか。カカカか?」
「カカカだ」
「そうか」
ちょっと二人で黙った。
「変異石、まだ探してるのか?」
「ああ、めったにないほど、でかいって話だ。って、おめえ! 俺らは黄色い石としか言ってねえぞ」
おれは思わず笑った。薄々思ってたんだが、こいつ、ノリがいい。
「あれは、オリーブン城に渡した」
「もったいねえ!」
「お前みたいなのが来るからな。手放した」
今度はダネルが笑った。羊肉パンが四つと、エールが来る。二人、ほぼ同時にエールに口をつけ、一息ついた。
「うまいな」
「だろう」
「これ、一杯いくらだ?」
「銅貨一枚」
「おい、最高の店だな」
「だろう。おれの行きつけだからな。もう来るなよ」
ダネルがまた笑う。それからしばらく無言になり、羊肉パンを食べ、エールを飲んだ。
「そういや、お前の兄貴たちはどうしてんだ?」
「長兄は、今でも怒り心頭ってやつだな。だが、安心していい。兄貴はな、そういうのが大の苦手なんだ」
ダネルはそう言って、おれの肩口を見た。
「そうなのか? 大男のくせに」
ダネルは苦笑した。
おれはチックをテーブルの上に置き、葉野菜を渡した。テーブルの端に持っていき、食べ始める。それを目で追っていたダネルが言った。
「こいつ、ひょっとして仲間か?」
「仲間だ」
「おめえ、変わってるなー」
この三兄弟には言われたくない。だが、ダネル・ネヴィス、なんとなく憎めないやつだ。
その後、何をしゃべるでもなかったが、エールをもう一杯飲み、氷屋をあとにした。
第二章までお読みいただき、ありがとうございます!
しかし、この話、まったく人気がありません!(苦笑)
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