30 いけ好かない神官
三件の死霊退治は特に問題なく、こなせた。
意外だったのが、チックの魔法は思ったより外れる。三体の死霊を退治するのに、五個の魔力石を消費していた。
これはチックが魔力をたった「1」しか持ってないから。レベルが上がれば解決する問題だとは思う。それにおれの魔法も、そのうち使えるようになるだろう。
三件目の依頼を終えてギルドに行くと、交渉官から次の依頼が来た。しかも報酬は上がり600Gになっていた。
いつも通り、交渉官からは依頼書だけ受け取り、マクラフ婦人の窓口に行く。
男がひとり、先にいたので後ろに並んで待った。
その男は、後ろからでも職業がわかった。神官か僧侶だ。丸めた頭に、ひきづりそうな長いローブ。そのローブには大仰しい金の刺繍が入っていた。片手には、太い本を抱えている。
待っていたが、けっこう長い。こっそり距離を詰めて、盗み聞きしてみる。
「ギルドが責任を取らぬのなら、誰が責任を取るのだ?」
「わたしに言われても」
なんだか、揉めているようだ。
しばらく盗み聞きして、内容がわかった。依頼人が報酬を払う前に死んでしまったようだ。
いや、おかしいな。ギルドに依頼する時は、前金のはずだ。
男が、いらついた口調で言った
「依頼人は、たしかに言ったのだ。追加報酬を払うと」
なんだよ、口約束かよ。
「あのう」
声をかけてみた。男がギロッと振り返る。頭は丸めているが、太い眉毛に鋭い目。
「急いでるんで、後にしてもらえませんか? それに、窓口に言っても意味ないと思うんすけど」
「誰に上から物を言っておる」
男はそう言うと人差し指をくるっと振って、何かを唱えた。
身体が固まった。
まじか! いきなりマヒ呪文かけるか?
「ぐぬぬぬ」
口周りに気合を入れる。口が開いた。
「いきなり、何すんだハゲ!」
「解けたのか?」
男がおどろいている。こっちは四体連続で死霊と戦ってんだ。マヒには少々慣れた。
胸ポケットから、チックが肩に上がってきた。ハゲがぎょっとする。チックが体を揺らし始めた。
「チ、チック、撃つなよ」
この男に攻撃するのはいいが、お前の一撃は100Gなんだ。そう思ったが、男は別の意味に聞こえたようだ。攻撃されると思ったのか、逃げていった。
「ぐぬぬぬ」
口と手首から下はマヒが取れたが、ここからが中々取れない。
マクラフ婦人が何かささやいた。すると、マヒが取れた。これは、状態回復呪文!
「ありがとう」
おれは礼を言ったが、婦人はいつもと変わらない。書類を出せと、片手を広げた。
おれは依頼書を出した。婦人がハンコをつく前に一度止まり、おれのほうを見る。何かあるのかと思ったが、何も言わず結局ハンコをついた。





