25 破産だよね
「自己破産ってシステム、あるんですかね」
五万ゴールドの借金なんって、どうやったって返せない。
「じこはさん?」
アドラダワー院長は首をひねった。ないよな、そりゃ。
さて、どうするか。向こうの世界に帰る手段も解ってない。ゲームオーバーになれば帰れるかも。でも、それは最大のギャンブルだ。帰れなかったら、普通に死んじゃう。
「わしが一つ、提案しようかの」
院長の意外な声に、おれは、うなだれた頭を上げた。
「お主、全財産はいくら持っとる?」
「7G、です」
「手持ちではない、全財産じゃ」
「はい。7G、です」
院長が、あきれた顔をしている。
「冒険者というのは、ほんとに風来坊じゃのう」
風来坊。はみ出し者とか着のみ着のまま、なんて意味だったかな。おれの場合は、単に初心者ってだけだ。
院長が胸のポケットから小ぶりな丸い玉を出した。薄っすら黄色い。
「あっ! それ!」
黄色い玉は三割ほど欠けていた。あの爆発で割れたんだろう。
「それ、危ないです! それのせいで爆発しました」
「お主の胸ポケットに入っておった。ふむ。やはり、これが何か知らんかったか」
院長は黄色い小玉を眺めた。
「変異石。かける魔法によって、作用が変わる不思議な石じゃ。ひじょうに珍しい。わしも目にするのは生涯で五度目かの。そして、こんな大きいのは初めてじゃ」
変異石。そんなアイテムあったかなぁ。
事前に送られてきたガイドブックは読んだ。水晶やアメジストなんかの宝石はあった。あとは魔法を込めた魔法石。変異石ってな、裏アイテムなのか?
「これを売って、払いに当てれば良かろう」
「いくらになるんです?」
「知り合いの道具屋に、こっそり聞いてみた。この大きさだと、80000Gはくだらない、と言うておった」
は、八百万だ。さっきの五百万の借金を払っても、お釣りが来る。これは大逆転だ。
「じゃが、道具屋に売るのは勧めん。オリーブン城の魔法局に売ったほうが良かろう」
役所に売るのか。おれの世界で言うなら、それこそ、おすすめしない。貴重な物って、買い手を探せば探すだけ、価格は上がる。
「いえ、結構です。自分で売ります」
「高値で売れる相手を探すか。それは良い方法とは思えんのう」
こっちの気持ちを見透かされて、ぎくりとした。
「お主が屈強な男なら良いが、そうは見えん。こんな物を持ち歩けば、すぐに噂は広まるぞ」
おれは思わず腕を組んだ。おれの世界でも、よくある話だ。宝くじに当たった人がどうなるか。親戚中で取り合い、詐欺師が群がり、人生は終わる。
まして、ここは中世の設定だ。まだ出会ってないが、強盗なんていくらでもいるだろう。
「それにな、そもそも、変異石は別名、化け物石とも言ってな。妖獣を呼びよせる効果がある」
それで、氷屋の畑にモンスターが群がったのか! それから、この国の人はモンスターを妖獣と言うんだな。
「役所、いえ、城に売ると、いくらになると思います?」
「それも、こっそり聞いておいた。50000Gじゃ」
お役所、買い叩くね! それだと4600Gの借金が残る。
これは悩む。借金を残すか? それとも危ない橋だとわかっていて、変異石を高値で売りさばくか?
うーむ。





