表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/132

24 入院

 寝てたのか。


 頭がボンヤリしている。


 すごい深く眠っていたような気もするし、長い夢を見ていた気もする。


 窓からの光がまぶしい。起き上がって窓の外を見た。


 窓ガラスの向こうに海が見えた。けっこう高い所からの景色だ。


 うわぁ、この景色、見覚えがある。ここがどこか解った。小豆島中央病院の5F。池田港の近くにできた、新しい総合病院だ。去年に、ばあちゃんの見舞いで何度も来た。


 病院か。おれ、なんか事故ったっけ?


 お、フェリーが出たみたいだ。やっぱね。池田港だ。


 いや、フェリーじゃないかも。大きいけど形が違う。帆が開いた。大きな帆船だ。


 は、帆船?


 ガタガタガタ! と強風でガラスが揺れた。よく見ると、手前のガラスの窓枠は木だ。


 病室を振り返る。


 漆喰の壁、床は大理石。四人部屋だった。おれのベッドの他に三台、木のベッドが並んでいる。


 えーと、ここ、どこ?


 病室の木戸が、がらっと開いた。カルテを見ながら老人が入ってくる。


 真っ白なローブ。ちりちりの白髪に、同じぐらい白いヒゲ。老眼鏡と思われる丸眼鏡をかけていた。晩年のアインシュタインみたいだ。


「起きたかね。カカカくん」


 間抜けな名前を呼ばれ、おれはすべてを思いだした。


 くん付けされると、おれの名前すげえな。「カカカクン」って、か行飽和状態。


「あのー、ここは」

「オリーブン国立治療院じゃ」


 なるほど。オリーブン共和国だもんね。


「わしは、院長のアドラダワーじゃ」


 アドラダワー院長はカルテをめくった。


「顔の裂傷に火傷、身体のあちこちに刺さった水晶の破片は二六ヵ所。胸部の圧迫による骨折。右の肋骨は肺に刺さったので、肺も損傷」


 聞いてるだけで痛くなった。


「お前さん、わしが出張しとったら、生きておらんぞ。出掛ける寸前じゃったわい」

「す、すいません」

「良い話と、悪い話がある。どちらから聞くかね?」


 こういう言い方の時って、結局、いい話はないんだよなぁ。でもせめて、いい話にするか。


「いい話の方で」

「よし。体の傷は、わしの手術と回復魔法で、ほぼ治った」


 院長は、ポケットから小指の先ほどの骨を出した。


「肺に刺さった肋骨じゃ。右の肺は完全には回復せんかった」


 おれは院長から自分の肋骨を受け取った。


 まじか! 回復しないってパターンあるの?


「魔法で治らないんですか!」

「回復魔法は人間の治癒力を劇的に上げたものじゃ。なんでも治せるなら、この世界は不老不死の人間であふれかえるわ」


 ごもっとも。でも、おれはこのゲームの世界に来て、たった数日で後遺症をかかえる事になる。


「まあ、日常の生活では支障なかろう」


 ほっ! それなら良かった。


「悪い方の話を」


 院長はうなずいて、カルテの下にしていた紙を出し、ベッドの上に置いた。


「ギルド局からの請求書を預かっておる。カカカくん宛てにな」


 あの爆発で壊れた物を弁償しろって事だな。


「それから、巻き込まれた女性から、治療代の請求」


 もう一枚の紙が重ねられた。あの時、遠くに聞こえた女性の悲鳴か。


「無事なんですね?」

「これは気にするほどでもない。軽い火傷じゃ」


 もう一度ほっとした。


「それから、この治療院からの請求書。今回は手術があったからの。ちと高くつくぞ」


 さらにもう一枚、ベッドの上の請求書が重なった。


 三枚の請求書。


 死霊のコールド・ブレスを受けたように、おれは固まった。


「総額を計算しておいた。聞くかね」


 おれは一回、目をぎゅっとつむり、息を吐いた。


「はい。お願いします」

「54600G、じゃな」


 終わった。


 五万ゴールド。向こうの世界で500万。


 窓ガラスに小鳥がぶつかった。それが気にならないほど、おれは人生が暗くなるのを感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ