24 入院
寝てたのか。
頭がボンヤリしている。
すごい深く眠っていたような気もするし、長い夢を見ていた気もする。
窓からの光がまぶしい。起き上がって窓の外を見た。
窓ガラスの向こうに海が見えた。けっこう高い所からの景色だ。
うわぁ、この景色、見覚えがある。ここがどこか解った。小豆島中央病院の5F。池田港の近くにできた、新しい総合病院だ。去年に、ばあちゃんの見舞いで何度も来た。
病院か。おれ、なんか事故ったっけ?
お、フェリーが出たみたいだ。やっぱね。池田港だ。
いや、フェリーじゃないかも。大きいけど形が違う。帆が開いた。大きな帆船だ。
は、帆船?
ガタガタガタ! と強風でガラスが揺れた。よく見ると、手前のガラスの窓枠は木だ。
病室を振り返る。
漆喰の壁、床は大理石。四人部屋だった。おれのベッドの他に三台、木のベッドが並んでいる。
えーと、ここ、どこ?
病室の木戸が、がらっと開いた。カルテを見ながら老人が入ってくる。
真っ白なローブ。ちりちりの白髪に、同じぐらい白いヒゲ。老眼鏡と思われる丸眼鏡をかけていた。晩年のアインシュタインみたいだ。
「起きたかね。カカカくん」
間抜けな名前を呼ばれ、おれはすべてを思いだした。
くん付けされると、おれの名前すげえな。「カカカクン」って、か行飽和状態。
「あのー、ここは」
「オリーブン国立治療院じゃ」
なるほど。オリーブン共和国だもんね。
「わしは、院長のアドラダワーじゃ」
アドラダワー院長はカルテをめくった。
「顔の裂傷に火傷、身体のあちこちに刺さった水晶の破片は二六ヵ所。胸部の圧迫による骨折。右の肋骨は肺に刺さったので、肺も損傷」
聞いてるだけで痛くなった。
「お前さん、わしが出張しとったら、生きておらんぞ。出掛ける寸前じゃったわい」
「す、すいません」
「良い話と、悪い話がある。どちらから聞くかね?」
こういう言い方の時って、結局、いい話はないんだよなぁ。でもせめて、いい話にするか。
「いい話の方で」
「よし。体の傷は、わしの手術と回復魔法で、ほぼ治った」
院長は、ポケットから小指の先ほどの骨を出した。
「肺に刺さった肋骨じゃ。右の肺は完全には回復せんかった」
おれは院長から自分の肋骨を受け取った。
まじか! 回復しないってパターンあるの?
「魔法で治らないんですか!」
「回復魔法は人間の治癒力を劇的に上げたものじゃ。なんでも治せるなら、この世界は不老不死の人間であふれかえるわ」
ごもっとも。でも、おれはこのゲームの世界に来て、たった数日で後遺症をかかえる事になる。
「まあ、日常の生活では支障なかろう」
ほっ! それなら良かった。
「悪い方の話を」
院長はうなずいて、カルテの下にしていた紙を出し、ベッドの上に置いた。
「ギルド局からの請求書を預かっておる。カカカくん宛てにな」
あの爆発で壊れた物を弁償しろって事だな。
「それから、巻き込まれた女性から、治療代の請求」
もう一枚の紙が重ねられた。あの時、遠くに聞こえた女性の悲鳴か。
「無事なんですね?」
「これは気にするほどでもない。軽い火傷じゃ」
もう一度ほっとした。
「それから、この治療院からの請求書。今回は手術があったからの。ちと高くつくぞ」
さらにもう一枚、ベッドの上の請求書が重なった。
三枚の請求書。
死霊のコールド・ブレスを受けたように、おれは固まった。
「総額を計算しておいた。聞くかね」
おれは一回、目をぎゅっとつむり、息を吐いた。
「はい。お願いします」
「54600G、じゃな」
終わった。
五万ゴールド。向こうの世界で500万。
窓ガラスに小鳥がぶつかった。それが気にならないほど、おれは人生が暗くなるのを感じた。





