129 歪んだ空間
洞窟を出ると、そこは死体の山だった。
作られたアンデッドは、その製造者が死ねば死人に戻るのか。
死体をまたいで歩く。採掘場のゲートまで、やっと逃げれた。
なんだ? 地面が揺れている。
「山が」
誰かが言った。おれは振り返る。
砕石で半分切られたような山が揺れていた。
揺れは大きくなり、土砂崩れのような音がして山が沈んだ。
「どうにもならん」
アドラダワー院長がつぶやいた。
治療院の一階。治療台の上には、土気色をした氷屋のオヤジが乗っている。
「でも、傷はなさそうですよ!」
おれは思わず大声を上げた。オヤジさんの身体からは血も流れてなければ、傷もなかった。
アドラダワーはオヤジさんの身体に手をかざしている。
「使われた魔法の痕跡は残っておる。これは、魂を引き剥がす呪文じゃ。その途中で止まっておる」
「じゃあ、その魂を戻せば!」
アドラダワーは首を振った。ティアが隣で泣いている。
ガレンガイルとマクラフ婦人、ダネルはじっと黙って立っていた。
「ネクロマンサーなら、できるかもしれん。じゃが、わしではできん」
バルマーは瓦礫の下に埋もれた。または、おれの炎で焼け死んだか。操っていたアンデッドが事切れていたのを考えても、生きてはいないだろう。
「奇妙な例えじゃがな、この身体と魂は時が止まったような状態じゃ。回復魔法も薬草も、なにも効かん」
時が止まった? 似たような物をおれは知っていた。
「院長、おれの預けたもの、いいですか?」
院長に持ってきてもらったのは秘密の箱だ。その箱を開け、木の兜を出す。みんなが、けげんそうな顔をしている。
「信じられないかもしれないけど、これは、よその世界を見るための道具です。そして、その世界の時は止まってます」
「カカカ殿、よその世界とは?」
ガレンガイルに説明するのはあとだ。アドラダワー院長の前に持ち上げる。院長はそれに手をかざした。目を閉じて何か探っているようだ。
「空間が歪んでおる。それ以外は、わしにもわからん力じゃ」
「これを利用できませんか?」
院長は目を開け、顔をしかめた。
「これが、お主の言うように時が止まった物として、それをぶつけても同じじゃ。同じように時は止まったまま」
「いえ、そいつをこれにぶつけるんです」
おれは箱の中からブーツを出した。
「変異石か!」
アドラダワー院長が、今までになく考え込んだ。
そして、しばらくして静かに言った。
「できるかもしれん」





