127 最後の攻防
リュックから煙玉を出した。
「ガレンガイル、これをなるべくバルマーの近くに投げてくれ。黒い光が途切れたら、おれは中央から駆け上がる。二人は隙があれば、右の階段を上がってくれ!」
ガレンガイルはうなずいて煙玉を取り、おれに反射石を出した。
煙玉が投げられ、中央の階段の一番下あたりに落ちた。白い煙が噴出する。
「どーだ! バーカ! 手も足も出ないと思ったか。煙は出るぞ! バーカ!」
おれの言葉にガレンガイルとティアが目を丸くしている。声を抑えて二人に伝えた。
「こっちに注意を向けさせないと」
二人は納得したようにうなずいた。
「おい、ロンゲ! 煙は髪が汚れるぞ! 早く水浴びしろ!」
「これぐらいの魔法、このガレンガイルには屁でもないわ!」
「ワオーン」
ハウンドまで吠えた。
ティアが息を大きく吸い、大声を上げた。
「おじさんのお風呂上がりなんて、キモッ! 何歳だと思ってんの! 若いと思ってるの本人だけじゃない? 鏡見たら? 誰も、あんたの事なんて見てないわよ! キモーイ! キモーイ!」
これは効いたぞ!
でも、なんだろう、おれとガレンガイルまで落ち込んだ気がする。
白い煙が辺りに充満してきた。おれは反射石を三つまとめて左手に持った。
いつでも駆け出せるように、足を広げて構える。しかし、悪口を言い続けるって難しい。
「バーカ! バーカ! バッ」
黒い光が止まった。
「今だ!」
短く言って駆け出す。
「おおー!」
おれは吠えた。おれに注意を向けさせる。
その時、急に走る速度が上がった!
流れる景色がスローモーションのように見える。これは、すばやさが上がる魔法か!
これはマクラフ婦人の援護だ。すげえ、ちゃんと反撃の魔力は残してたのか!
階段を駆け上がる。煙は上に行くほど薄くなっていた。
見えた! バルマーは右を向いている。片手でオヤジさんの首を握り、もう一方でステッキをオヤジの口にかざしていた。ステッキが白い霧のような物を吸い出している。
おれは反射石を三つまとめて握った。
「おおー!」
さらにおれは吠えた。バルマーがおれに気づく。
首を掴んだ手を放し、オヤジさんは階段を転がっていく。
こっちを向いた。右半分から焼けたような煙が出ている。オヤジさんは魔法陣の扉をバルマーにぶつけたのか!
バルマーがステッキを振った。手の中で石が一つ割れた感触があった。かまわず走る。
もう一度バルマーがステッキを振る。手の中の反射石が、さらに一つ割れた。
バルマーの横に人影。ガレンガイル、おれより早いのか!
獣のような速さで間合いを詰めると、そのままの勢いで剣を突いた。バルマーはガレンガイルを上回る速さでまわり込み、ステッキで肩を叩いた。ガレンガイルが固まる。
固まったガレンガイルをバルマーはトンッと押した。階段を落ちていく。落ちるガレンガイルの上をティアが飛んだ。
次にティアはバルマーに向けて跳ねると思いきや、うしろの石椅子に飛んだ。三角跳びの要領で背後に。延髄を狙い足を振る。バルマーはその足をかいくぐった!
身体を起こすと同時にステッキでティアの顔を殴った。ティアが吹っ飛ぶ。
こいつ、ぜったい殺す!





