123 僕の彼女
「このカケラを持っていると?」
「もちろん、ここには持ってきてませんが」
「では、後ほど、あなたの家を探しましょう」
バルマーがまた歩き始めた。
「それも、どうですかね。僕の彼女の家に置いてるんで」
バルマーの足が、また止まった。
「その彼女とは?」
「マクラフです」
突然に名を出されて、マクラフ婦人の目が大きくなった。硬直してて良かったのかもしれない。口が動けば怒られたかも。
「ああ、じゃあ、彼女の家を探せばいいかというと、そうでもないです。秘密の箱に入れちゃったんで」
バルマーの片眉が上がった。
「あなたとマクラフが恋仲。なかなか信じがたい話ですね」
「いやあ、僕の担当なんですよ。知ってます? ロード・ベルで話してるうちにね、仲良くなっちゃって」
バルマーの前で彼女からのロード・ベルを取った。信憑性は上がるだろう。だが、もっと上げないといけない。
おれはマクラフ婦人に近づいて、硬直している肩に手をおいた。
「僕、胸の大きい人が好きなんです。知ってました? 彼女92もあるんですよ!」
ニタニタしながら言ってみた。バルマーに背を向けて彼女を見る。
おれは真顔で彼女を見た。彼女が見つめ返してくる。大丈夫。おそらく彼女は、この演技をわかっている。
「なるほど、ふたりは恋仲のようですね。マクラフの歳は少し上ですが、未婚です。良いかもしれません」
マクラフ婦人の目に力が入った。なんだ?
あっ、ひっかけか!
バルマーは彼女のこれまでを知っている。くそっ! この話、したくねえな。
「いやあ、どうでしょうね。二度目の旦那さんとして、僕を迎えてくれますかねぇ」
「ほう、死別したのも承知とは。これは本物らしい」
ハッタリにかかった。でも、マクラフ婦人の目は見れない。見たくない。
「では、勇者カカカよ、その箱を持ってきなさい。それまで、あなたの想い人は預りましょう」
うおっ! そう来るか。ここまで必死に考えたのに、さらに一捻りが必要だ。
「ああ、箱は動かせないように固定してるんですよ。三人の鍵なら、おれとそこの二人です」
おれはガレンガイルとティアを指差した。
「三人で取りに行っても、いいですか?」
バルマーが舌打ちした。いいね。初めて、こいつの感情を動かした。
「では、マクラフ、取ってくるがよい」
バルマーがステッキを振った。マクラフ婦人が前によろける。硬直が解けたようだ。
おれの目を一度見て、入り口へと走った。
「家の鍵は、扉の前だよ! 扉の前に置いたからね!」
うしろ姿に声をかける。わかっただろうか?
「さて、往復で一時間ってとこですかね。どうしましょ? 牢屋とかあります? なんなら入りますけど」
おれは盾を地面に投げ捨てた。腰に下げた剣も鞘ごと置く。
格好をつけたフリをして、スボンの両ポケットに手を入れた。
右に万能石、左に反射石をこっそり持った。





