117 三つの扉
洞窟を奥へ奥へと進んだ。
短くなった松明を替えたころ、広い空間に出た。前と左右、それぞれに木の扉がある。また扉か。
「ハウンド、どの扉が正解だと思う?」
黒犬は匂いを嗅ぎながらうろついた。答えが出ないようだ。
おれは考えた。なにか釈然としない。
入り口からここまで、かなり歩いてきた。おそらく、これは迷路だ。それでもハウンドが先導してくれるので、ひじょうに効率良く進んできた。
侵入してきた者をあっちこっちで戦闘させ、全滅させるのが目的だろう。迷路の一番奥には、ラストボスであるバルマーがいるはず。
「カカカ?」
ティアが、ひたいの汗をぬぐいながら聞いてきた。洞窟内で蒸し暑い。一番軽装のティアでさえ汗をかいている。
そりゃそうだ。季節は初夏だ。おれの家なんて、窓はいつでも全開だ。窓全開?
「そうか」
思わずつぶやいた。そう、これはゲームではない。作ったのはバルマー、人間だ。
「カカカ殿、なにか?」
「この木の扉は、罠だと思う。こんな洞窟で通気を悪くさせる必要はない。扉を作る理由は、中を見せたないため。それ以外にない」
マクラフ婦人が歩み出た。
「でも、進む以外に道はないでしょ」
婦人の指摘はもっともだ。ただ、こんな洞窟の奥底にやつはいるのか? あまりに不便だ。あのキューティクルが整ったロンゲは、家での手入れなのか?
話を遠巻きに見ていたオヤジさんが、岩の一つに腰掛ける。
あら? 待てよ。さきほど光景を思い出した。
「オヤジさん、あの宝箱、カラでしたよね?」
「ああ、何も入ってなかったが」
ゲームじゃないんだ。カラの宝箱を置く必要がない。おれは仲間を振り返った。
「なあ、みんな、ちょっと確認したいことがある」
ぽっかり空いた暗い穴を、五人と二匹はあきれた顔で眺めた。いや、二匹はあきれてないかもしれない。
最初にデスモダスと戦った部屋。宝箱を動かすと、人ひとりが通れる穴が空いていた。ご丁寧にハシゴまである。
松明を持って降りようとすると、肩を掴まれた。
「そういう役目は、戦士の俺だ」
ガレンガイルは背負子を下ろし、新しい松明に火を付けると穴から落とした。床に落ちた松明で下が明るくなる。特に問題はなさそうだった。
ガレンガイルは、おれにロング・ソードを預けハシゴを降りた。降りたガレンガイルに上から剣を落とす。
「あたりを調べてくる」
そう言って視界から消えた。おいおい、一人はまずいだろう。仕事でもなんでも、一人と二人は大きく違う。
おれも松明に火をつけ、上から落とした。ハシゴを降りるので、肩にいたチックは一旦地面に置いておく。
降りた先は広い空間だった。
ガレンガイルを探そうとしたら、部屋の中が明るくなった。
壁の一つにランタンがあり、それをガレンガイルが点けたところだった。
ほかの壁にもランタンがある。おれはそれに近づいて松明から火を移した。
四つのランタンを灯すと、広い部屋が隅々までよく見えた。
部屋の中央でガレンガイルと合流する。
「さて、あれをどうするかだな」
ガレンガイルが言う「あれ」が何かはわかっている。部屋の隅を見た。棺桶だ。
フタは閉まっている。ヤダなぁ、こういうパターン。





