109 出発
玄関前に停めた馬車に乗り込む。
ガレンガイルは荷台ではなく前に座った。自らが手綱を握るようだ。
荷台には四人。ハウンドはおれの足元にいる。チックは肩だ。前にヨーフォーク邸に行った時より少ない。
んん? 四人?
いつの間にか増えた人物を見つめた。氷屋のオヤジだ。
「お父さん! ダメって言ったじゃない!」
ティアが眉間にシワを寄せて怒っている。オヤジは腕を組み、むすっと黙った。
「オヤジさん」
おれが止めようとする前に、オヤジが口を開いた。
「俺は、死んだカカアの枕元で約束したんだ。娘が結婚するまで俺が守ると」
そう言われると、なかなか反論できない。
「もう! カカカ! さっきの道具屋さん呼んできて!」
なんでダネルを? と思ったが、ええ! さっきの続きかよ!
「ティア、無茶言うなよ!」
「そうよ、あとで後悔するわ」
「ふむ。年の差もあるしな」
いや、二人して、そんなに言わなくても。
「カカカは、あたしとはイヤじゃないでしょ!」
「そういう問題では」
「えっ! イヤなの? 学校の男子が武闘家の女なんて嫁に行けなくなるって」
「そんなことはない!」
強く否定しておく。男子のバカ。
「ティアちゃんに問題があるんじゃないのよ。おじさんに問題があるだけで」
「その通り。まさにラブーにロードベル。自分を大切にしたほうがいい」
おい、ふたりとも。
ロードベルで思い出した。リュックから連絡石を出す。
「オヤジさん、ぜったい戦闘には参加しないって約束できますか?」
オヤジは黙って考えている。連絡石をオヤジの前に差し出した。
「戦闘をしない連絡係は、いたら助かります。この石でオヤジさんも会った事のあるダネルに連絡できます。パーティー全員が動けなくなるかもしれない。その時はすぐに応援を呼んで下さい」
この役はティアに振ってみる予定だった。おそらく承知しないだろうけど。
連絡先のダネルはアドラダワー院長のとこで待機の予定だ。何かあれば治療院の緊急馬車で駆けつける。
オヤジは連絡石をじっと見つめた。
「もう! お父さん! 連絡係をするか、カカカと結婚するか、どっちかに早く決めて!」
オヤジはしぶしぶ連絡石を取った。
なんだろう、この、最良の結果なのに、いたたまれない気持ちは。
「よし、行こう」
ガレンガイルに声をかけた。元憲兵隊長は力強くうなずく。
「はっ!」と短く声を上げ、手綱を叩くと馬車は動き出した。
最後の戦いだ。待ってろよロンゲ野郎。





