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104 やり残した事

「じゃ、あとは装備だな。おれら兄弟の店に寄ってくれ」


 近くで見ていたダネルが声をかけた。


「カカカ殿、北の採石場までは、どう行く? 憲兵の馬車を借りれるよう頼んでみても良いが」


 ガレンガイルの提案に腕を組んで考えた。四人と二匹のパーティー。敵はバルマー。


「ダネル、お前の店、結界石あるか?」

「あるぜ。目が飛び出るほど高いが」

「ありったけ、借りてもいいか?」

「借りるって、返すアテはねえだろ。まあいいけどな」


 おれは窓口に山積みした依頼書を指差した。


「バルマーを倒せば、死霊も消えるんじゃないかと思う」

「なるほど。山ほどの依頼が片付くわけか。大博打だな。回復石も大半使っちまったし。これで失敗したら、店を畳むことになるぜ」


 それは言えてる。


「すまん」

「だから、いいって言ってるだろ」


 ガレンガイルが力強くおれの肩を叩いた。感心するように何度もうなずいている。


「良い友を持たれたな」

「良い友? 誰が?」


 ダネルが言った。くそっ! おれが言おうとしたセリフ。ガレンガイルが苦笑する。


「では、善は急げだな。憲兵本部に行ってこよう」

「待った」


 歩き出そうとしたガレンガイルを止めた。


「夜に行こう」

「ええ?」


 おれの言葉に、おどろいた顔の視線が一斉に集まった。


 おれは自分の考えを説明した。昼になれば死霊たちはいない。どこかに帰っているはずだ。それは採石場と考えるのが妥当だろう。


 それなら、敵が出払っている夜のほうがいい。わざわざ敵が密集している所につっこむ事はない。


「なるほど。それで結界石なのね」


 マクラフ婦人が言った。さすが大ベテランだ。


「夕方に、用意を済ませて、またここへ」


 おれの案に、みんながうなずく。


 ダネルの店はあとで行くと伝え、おれは家へ帰った。片付けておく事を思い出したからだ。


 家に着くと、ベッドの下から布に来るんだ兜と手袋を引っ張り出した。誰かに預けておいたほうがいい。


 ハウンドが、下から不思議そうな目で見ていた。おれは肩にいるチックをその横に下ろし、自分もしゃがんだ。


「お前らも何か、やり残した事あるか?」


 冗談半分で言ってみたが、ハウンドがぴょんと窓から外に出た。あわてて、おれもついて行く。


 隣の空き地まで行くと、ハウンドは振り返り、おれの目をじっと見た。黒犬の言いたい事が、なんとなくわかった気がする。


「いいぜ、行っても。夕方までは待てない。急げよ」


 おれの言葉がわかっているのか、いないのか。ハウンドはゆっくりと歩いて山の中に入って行った。


 あいつが山から下りて来た日、ケガをしていた。縄張り争いか、ボスの座を巡る戦いか。そのカタをつけに行ったんだろう。


 それが、お前の「やり残した事」なのか。男だねぇ。


 おれは部屋に戻り、帰りがけに買ったビワの実を取り出した。一つを手で割ってチックの前に置く。


それから本棚から魔法辞典を持ち、外に出た。隣の空き地にある岩の一つに腰掛け、魔法辞典をめくる。


 かなり覚えたが、まだまだ辞書の四分の一もいかない。覚えておかないと、アナライザー・スコープを使っても意味がない。また、マクラフ婦人の魔法も確認しておきたかった。


 最近わかってきたのだが、単語は統一されているわけではない。人によって呼び名が違ったりする。

 案の定、マクラフ婦人のパラメータで見た魔法のいくつかがわからない。

「マナ、マナ・フラー、マナ・フロール」は、おれの辞書に載っていなかった。

 まあ、言葉の響きからして、体力の回復だろうな。


 それから二時間ほどだろうか。ハウンドが帰ってきた。今度は傷一つない。息も切らしておらず、堂々とゆっくり歩いて帰ってくる。


 そのへんの妖獣とは、もはやレベルが違う。楽勝だったんだろう。


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