9 氷屋の畑
氷菓子を食べ終え、腕を組んで考えた。
あの子のパラメータに攻撃力とかもあるのなら、人間を攻撃もできるのか?
昔に「グランド・セプト・オート」というゲームがあった。殺人でも強盗でも、やりたいほうだいのゲームだ。あれと同じような事ができるのか?
いや、でも「警察」のようなシステムはあるだろう。捕まるのはきつそうだ。
しかし、それすら上回る力を手に入れたら、このオリーブン共和国の独裁者になれる可能性はあるのか。
「うーん」と、一人でうなった。
ゲームとしてなら楽しいが、リアルだと、どうなんだろう。実際、おれはさっきフナッシーの殺戮で気が滅入った。
「だいじょうぶ? 美味しくなかった?」
びっくりして顔を上げた。さっきの娘だ。
「ありがとう。ティア。美味しかったよ」
「そう、良かった」
食べ終わった容器を持って帰ろうとしたが、もう一度、振り返った。
「あら? あたし、名前言ったっけ?」
おれは焦った。
「ああ! ほらさっき、オヤジさんと話してた会話が聞こえたから」
「そっか! じゃあ、おじさんの名前は?」
おれは頭を強く掻いた。こういう事になるんだな。初期設定のミスは、後々まで響く。
「勇者カカカ、だ」
自分の名前に「勇者」と付けたのは、せめて、名前が目立たないようにするためだ。
「カカカ、ね」
娘は、ちょっと眉を寄せたが、にこっと笑って厨房に帰った。
「アナライザー・スコープ!」
小声で叫んだ。
親密度:6
よっしゃあ! と心で叫び、小さくガッツポーズ。
自分の特殊スキルが、初めて役に立った。別にあの子をどうにかしたいわけではないが、こうやって数値化されると嬉しい。
それに、ちょっと話しただけで五つも上がるのか。
じいさんばあさんが、やたらと天気の話で話しかけてくるのは、間違いではないのかもしれない。なんでもいいから会話をするってだけで、ずいぶん違うんだな。
「勇者さん、だったか」
おや? 話は変な方に行こうとしている。氷屋のオヤジが、厨房のカウンターごしに言った。
「今日、ギルドには依頼してきたんだがね。良かったら、ちょっと見てくんねえか?」
連れられて来たのは、店の裏側にある畑だ。
見て、すぐに解った。フナッシーが何匹かいる。その中に青いフナッシーみたいなのが、十匹ほどいた。
「アナライザー・スコープ!」
おれはこれ、今日で何回言うんだろう。
名前:デフナッシー
体力:10
魔力:1
攻撃力:12
防御力:10
水晶:3
なるほど、フナッシーの上位モンスターか。小さいが、結構強い。
今のおれは攻撃力10だ。こいつは防御力10。プラマイゼロ。素手で叩いてもダメってこった。
これは、いよいよ武器が必要だな。ちなみに、近くにあった石を見て調べた。
名前:石
効果:攻撃力+3
なるほど、石で叩くだけじゃダメか。攻撃力プラス10の武器がいるんだな。
「報酬は、いくらなんです?」
オヤジに聞いた。
「50Gだ」
あっちの世界で言うと、日当5千円。割が良いのかどうなのか。まあ、言っても、ここ小豆島だしな。
「良かったね! お父さん、偶然に勇者様が来てくれて」
娘のティアが喜んでいる。それ、ぜったい親密度が上がってるわ。アナライザー・スコープを使いたいが、二人の目の前だ。
「明日の午前は別件がある。午後で良ければ来よう」
勇者って、こんな感じでいいかな? ちょっとカッコつけた。
「ありがてえ」と両手で握手された。
うわー。すげー気分いいけど、オヤジ、手が冷てえ。さっきまで氷をさわってたもんな。
砂浜からの帰り道「よろす屋」で「おむすび」を二個買って帰った。
明日は忙しくなりそうなのに、なかなか寝付けない。ベッドに寝っ転がって、茅葺きの天井を見つめる。
自分が置かれている状況は理解した。ゲームのシステムも、おおよそ掴めた。
でも、まさか、こんな気分になるとは、思わなかった。
「おれは、いったい、この世界で何すりゃいんだ?」
こんな疑問、思春期か! というような疑問だ。
何をするのか?
どう生きていくのか?
何でも自由だ。好き勝手もできる。でも、リアル過ぎ。
まいった。三十過ぎたオッサンが、またこんな疑問を考えさせられるとは。
寝よう。
おれは寝返りを打ち、馴染みはないが自分の物らしい布団をかぶって、目を閉じた。





