0 魔獣との戦い
「チック! 撃て!」
遠くの地面に向かって叫んだ。
小さな赤いサソリ。名はチック。おれの仲間だ。
炸裂音がして、夜の闇に光の筋が走った。
チックの魔法「ニードル・ブレス」だ。
その光の針は対峙するトカゲ馬の首に刺さった。トカゲのような黄色い目がこっちを見る。
「効いてねえのかよ!」
おれは「メイル」と呼ばれる細い剣を握り直した。こんなバケモノが、なんでクソ田舎に? どう見たってバケモノ級だ。今まで倒してきたモンスターとケタ違い。
この世界は、現実のデータが元になっているはずだ。AIの野郎、どこをどうアレンジしたんだ?
トカゲ馬が、ゆっくりと近づいてくる。
おれもゆっくり、後ろに下がった。うしろから唸り声がする。新たな敵ではない。さっき仲間になったノラ犬だ。
おれはレベルも低い。魔法も使えない。おまけに仲間はサソリと犬。
隣の家の物陰から、こちらをのぞく隣人の姿が見えた。
このあたりに勇者や戦士は住んでいない。戦えるのは、おれだけ。
やるしかねえ。
おれは、今一度、剣の柄を握りなおした。
文句を言いながら毎日残業していたころが懐かしい。どれほど平和な日々だったのか。まさか、あの日から、こんなことになるとは……