9:非日常
久々に全力疾走してたどり着いた駅前の待ち合わせ場所は、なんだか人が多い。
ひょこっと人波のスキマから覗けば、案の定そこには本人無自覚のキラキラしいオーラを放つイケメンがスマホ片手に立っている。
そのイケメンが画面をタップした瞬間に、私のカバンの中のスマホが小さく鳴った。
『着いたよー』
分かってます。見えてるからね。
「やだ、ちょっと……いや、かなりイケメンじゃない?」
「どうする?声かける?」
今日はスーツじゃない。
パリっとしたスーツ姿もかっこよかったけど、私服は見慣れなくてなぜか更にカッコ良く見える。
整ってるその顔は、柔らかく端整でどこか高貴な雰囲気もある。今日みたいに白シャツにカジュアルなベージュのジャケット、細身黒パンツのシンプルな組み合わせが、似合いすぎる。
「ね、声かけてみようよー」
さっきとは別の女子の声がした。
早く私が声をかけないといけないのは分かってるけど、この注目されまくってる中に出て行く勇気がない。
ど、どうしよう。ちょっと別の場所に移動してもらおうかな、とスマホでメールしようとしたら、最初の女子二人組が先生に近づいて話しかけていた。
む……、無表情ー!
結構かわいい女の子二人に話しかけられて、明らかに逆ナンされてるのに、全くサッパリ表情筋が動いてない。
あれえ?私の知ってる葉山先生はいつもフニャリと柔らかく笑ってるのがデフォなのに……。
と、思ってたら、無表情がこちらを向いて、今まさに思い出してた顔になった。
間近で見ていた女子二人が真っ赤になってるのを置き去りにして、こっちに近づいてきた。
「多喜ちゃん!」
「こ、こんにちは……。遅れて、すみません……」
ま、眩しいし、痛い。
キラキラしい笑顔が眩しくて、周りからの目線が痛い。
「じゃあ、行こうか。多喜ちゃん」
するりと手を繋がれた。
ひー!
「あっ、あの!名前!それと、手っ……」
大学ではないせいか、先生が大胆だ。
「いいじゃん、今は。僕のことも成悟でいいよ?」
「無理!!」
*****
「僕のことをもっと知ってもらうためには、もっと一緒にいないと」
と、ニッコリ笑った葉山先生に、無理矢理デートの約束をさせられた。
忍ちゃんは、微妙な顔をしながらも、「兄さんは、こう!となったらガンコだから……」と呟いて助けてくれなかった。
約束の週末になるまで、大学でもなぜかちょくちょく葉山先生と遭遇した。
っていうか、多分、葉山先生が私の行動範囲と行動パターンを把握して、探して会いにきたのだ。
そこまで執着されたことなんて、もちろんない。
そしてイケメンに執着されるのが、ものすごい恥ずかしいけど、メチャクチャ嫌なわけではないのが、困りものだ。
私のこのドキドキの正体はまだわからない。
*****
「あの……、先生ここ?」
「成悟」
「私、あんまり激しいのは無理です」
「成悟」
「…………、せ、せいご……さん?」
「うん。じゃあ、何から乗る?」
カラフルな偽物の街並みを、手を引かれて歩く。
連れて来られたのは、遊園地。
意外すぎた。
「成悟さん、遊園地好きなんですか?」
「んー、なんか非日常の世界に行きたくて」
確かにここは街中の小規模な遊園地だけど、世界観の作り込みがすごくて、乗り物だけでなく園内の雰囲気だけでも楽しめる所として有名だった。
「多喜ちゃんは、まだ僕のことを「先生」って思ってるでしょ?今日はそれを忘れて、葉山成悟として見てくれるかな?」
確かに、大学の外で会っても「葉山先生」は「葉山先生」だと思ってる。
「む……、難しいです……」
「ホラ、それも。まずは敬語をやめてみて。俺も、先生じゃなくする」
今、「俺」って……。
顔を見たら、今までの、柔和な優しげな微笑みじゃなくて、いたずらっ子みたいにニヤリと笑った。
「で?激しいの、だっけ?」
「い、嫌っ!違います!……、違う!激しいのダメ!!」
「じゃあローラーコースター行こう♪」
「嫌だって言ってるじゃん!!」
「ダイジョーブ、ダイジョーブ」
無邪気に笑って、私の手をグイグイ引っ張ってくのは、葉山先生じゃなく、「成悟さん」だった。




