8:おとうと?
夕方のカフェは、学生やサラリーマンやOLらしき人、制服を着た学生で賑わっていた。
その中で、忍ちゃんと二人して微妙な顔して向かいあって座ってる。
「忍ちゃん……、さすがの私も、葉山先生と浅見先生、忍ちゃん、あと美術科の高坂先輩が、みんな共通の何かがある、ってことくらいわかってきたよ……。それを、忍ちゃんから聞いてもいい?」
「ちょ、ちょっと待って、誰?その高坂先輩とやらは……」
「あれ?違ったかな?同じ感じだったんだけど……」
高坂先輩のことを忍ちゃんは知らないみたい。
でも、あの感じは多分高坂先輩も関係者だと私は確信してる。
「多喜ちゃん、この話は悪いけど私からは言えない」
「えっ……」
高坂先輩のことを考えてたら、忍ちゃんに言われた。見ると、緊張した面持ちで私をじっと見てる。
「この話は兄さん……、葉山先生から聞いて」
「兄さん?忍ちゃん、葉山先生の弟なの?」
ん?
おとうと?
「あっ、ごめん違う。女の子なんだから妹……
だよね……?」
んん?
「妹」?
なんかそれは違和感ある。
なんで?女の子なんだから妹。当たり前のことなのに、なぜか口にしたら妙な違和感がある。
「…………。ちょっと、ホッとした……」
忍ちゃんが、泣きそうな顔になって言った。
「ええ?なんで!?」
あわててハンカチを差し出した。目尻に涙たまってるし。
「……詳しくは……、葉山先生から聞いて。でも、自信がなかったわけじゃないけど、今のことで確信が持てたので、安心しちゃった……」
なぜだかすごく安心して涙が出てしまったらしい。
「ごめんね。そんなわけで勝手に呼んじゃった」
と、忍ちゃんが言って目線を私の後ろにした。
振り返ると、いつもの見慣れたスーツの葉山先生がいた。
*****
「え……と、ユ、新庄さんから、関口さんが聞きたいことがあるって聞いたんだけど……」
今度は、目の前にイケメン……葉山先生が座って、忍ちゃんはその隣に座ってる。
二人がこうやって並んでる所を今まであまり目にしたことがなかったけど、こうして目の前で見ると、なんか馴染んでる。
二人とも華やかで、パッと目を引く容姿。
顔が似てるわけではないけど、なぜだか持ってるオーラというか、漂う雰囲気が似てる。
さっきの話、「兄弟」って言われても納得かもしれない。
でも、なぜだか私の中では忍ちゃんは「妹」ではなく、「弟」って感じなのはなんでだろう?
「葉山先生。入学式の時、「前から」って言いましたよね?他にも「変わってない」とか……。まるで、以前から私のことを知ってたみたいに。でも、私、先生と過去に会ったことない。どういうことなんですか?」
途中から先生の顔が悲壮感たっぷりになってきたのに気付いていたけど、淀みなく一気に言った。
「……い、言わなきゃ、ダメ?」
泣きそうないい歳した男性がかわいい、ってありですか?
「ダメ」
イケメンが何でも許されると思うなよ。
「じ、じゃあ、その前に聞かせて。あの時の返事を」
「へんじ……?」
言われるまで、すっかりスッポリ抜けていた。
そういえば、理由や経緯はともかく私この人に告白されたんだった……。
と、思い出したらボッと自分でも赤くなるくらい顔が熱くなった。
だって、こんなイケメンが私のこと好きって……、好きって……、信じられない。
「僕と……、お付き合いしてもらえる?」
「ち、ちょっと待って下さい!それ、ズルくないですか?なんで私なのかわからないのに返事なんて出来ません!」
「うーん、そういう流されないしっかりした所も好きなんだけどな」
ニッコリ艶やかに笑って、サラリと言った。
「それに、私、先生のこと、葉山成悟さんのこと、何にも知らないもん!」
「じゃあ、知って?」
突然、テーブルの上で握っていた手を捕まれた。
両手をグーにして力を入れていたのを、大きな手が包み込む。
「僕も、関口多喜さんのことはまだあまり知らない。知らないけど、それでも君が欲しいと思ってるんだ。それだけは信じて?」
手から伝わる熱がじわじわ登る。
なんで、この人はこんなに私に執着するの?
「せ……、先生が、生徒に手を出してもいいんですかっ……」
苦し紛れに言ってみた。
「さあ?でも、もし問題だと言うなら僕は大学を止めてもいいよ」
「!そんなっ……!先生だって、やりたいことがあって助手になったんでしょう?このあと、助教授や、ゆくゆくは教授を目指してるんじゃないんですかっ?」
まさかそんなことを言い出すなんて思ってなくて、焦った。
「でも、僕は26年間、ずっと君を探していたから……。それ以外のことはどうでもいい」
は……?
26年間?
産まれてからずっと?ってこと?
それって、なんかおかしくない?