7:「マジ」
「あれえ?こんなとこで何してんの?」
黒髪サラサライケメンが、隣にボスンと座った。
あの後、忍ちゃんと顔を合わせるのが気まずくて、ランチの時や講義がない時は1人でハーブガーデンにいるようになった。
最初は葉山先生が来ないかヒヤヒヤしてたけど、どうやら本当にたまにしか来ないみたいで、会ってない。
「あ……、こないだの……。あの時はありがとうございました。って、よくここ見つけましたね」
私の憩いの場なのに、来る人が増えてくのはちょっと困る。
「ん?そう?だって、ここ中央通りのすぐ横じゃん」
「!?」
中央通り、とは大学の構内の真ん中を南北に走る道の通称だ。この通りと交差している東西通りとの二本の道が大学内のメインの道りで、あとはこの二本に繋がる小道や広場等であちこちにある建物を繋いでいる。
「まあ、確かにちょっと木々に遮られてて中央通りからは見えないけど、ちょっと植木をまたいで木のスキマからすぐ来れたよ」
そう言ってベンチの後ろ側を指差した。
「マジですかー」
知らなかった。てっきり大学の忘れられた遺物くらいの感じでいたのに。
「くくっ。「マジ」とか言うんだ」
ちょっと凹んでたら、隣で笑ってる。どういう意味よ。
「ユウヤー!」
その、中央通りの方角から誰かを呼んでる女性の声がする。
「ヤベ!ちょっと静かにしてて」
人差し指を口につけ、ウィンクする。そんなキザな行動が様になる。
「ちょっと!ユウヤどこに行ったのよ!」
「知らないわよ。私と約束してたんだから、あなた関係ないでしょ!?」
もう1人女性が現れたらしく、二人で口論してる。
なんだ?これ?
ユウヤ……って、この黒髪サラサライケメンのことだよね?二人で彼を取り合ってるみたい。
口論したまま移動していったみたいで、声が遠ざかって行った。
「やれやれ、やっと撒けた」
立ち上がって伸びをして、こちらを振り返った。
「美術科3年の高坂 侑哉。昔のよしみで、何かあったら声かけて。じゃあね!」
そう言って、私の頭をポンポンすると、ベンチの後ろの木と木のスキマをするりと抜けて行ってしまった。
「昔の……よしみ?」
あの人も、私の知らない私の話を知ってる人なのか……。と、ガックリきた。
「これ、一体あと何人現れるの……?」
*****
「ちょっと、あれ見た?」
「見た!なにあれ?ってか誰?あの白衣の地味めな先生」
「白衣ってことは理系なんじゃないの?理系の知り合いに聞いてみる」
「理系と建物違うのにわざわざここまで来るー?」
「しかもこれ見よがしにベタベタしちゃってさぁ」
「葉山先生がデレデレしてなくて、いつも通りの無表情なのが救いよ」
廊下でそんな会話を聞いてしまった。
こ、これはアレかな?浅見先生のことよね。
私にあれだけ牽制をかけてきたくらいだから、多分復縁したいんだろう……。
でもなんか、ちょっと複雑……。
元妻、ってことは離婚してるわけで。今現在はフリーだから、誰に文句を言われる筋合いがないのは分かってるんだけど、元妻がいるような環境の中、私に告白してくる……って、どういう心理なんだろう?
つくん、と心臓がちょっと痛い。
なんで?
わからないことが多すぎる。
大学生になって、楽しいキャンパスライフが始まる、と思っていたのに全然大学生活満喫出来てない。
1人、訳がわからないままでいるのが嫌になった。こうなったら、自分から行くしかない、と腹をくくった。
*****
授業の終わる頃、忍ちゃんにメールを送った。
前に二人で行った、大学近くのカフェで待ってる、と。
多分、私にとってのキーパーソンが葉山先生だということは分かってる。
だけど、いきなり本丸はちょっと怖い……ので、一番話をしやすい忍ちゃんからまずは話すことにしたのは、私の弱さだという自覚はある。