6:私の知らない話1
「ユ……、新庄さん!ロ……、関口さんは?」
カフェテリアを出て、多喜ちゃんを探そうとしたら、葉山先生に呼び止められた。
「はぁ……。兄さんもういいよ、ユリウスで」
周りに人がいないことを確認して言った。
「ご、ごめん」
しおらしく謝る兄は弟の私から見てもイケメンだ。
「兄さんは、いつから気づいてたの?」
「ユリウスのこと?入学式で一目見てすぐわかったよ」
「多喜ちゃん……、ローザのことも?」
「……うん」
昔っから兄さんはローザのことになると盲目的だ。
「さっき、メレディア妃がローザに突っかかりに来たよ。全く、相変わらずなんだから」
「そうか……。前と違って今回は容赦するつもりはないから、安心して」
基本的にはいつも柔らかい雰囲気で、あまり怒るっていう印象のない兄さんが、すうっと無表情になる時は怖い、と思っていた。
「葉山先生は、普段から無表情で怖い」
ストレートにそう言うと、兄さんはフッと笑った。
「前はね、柔軟に当たり障りなく笑顔でいることが俺の役目だった。けど、今度は違う。状況に合った対応をしてるだけだよ」
「今も前もローザにはデレデレだけどね」
「そりゃそうさ。ローザは俺の特別だから……」
ローザの話をする時の兄さんは、辟易するほど甘い。それはきっとずっと変わらないのだろう。
「それに、今回は……ね。神に感謝したいくらいだ」
「そうだね……。兄さんにとっては好都合だけど、ローザが思い出したら、なんて思うか……」
多喜ちゃんは、まだ全然思い出せていない。
僕達が、異世界から転生してこの世界にいるということを―――