番外編2: さらうからな
「寂しい?」
何回聞けば気が済むんだ。
結局、侑哉のマンションに連れて来られた。もはや、「おじゃまします」ではなく「ただいま」って思ってるのがヤバい。
しかも、玄関入ってからすぐに抱き締められて、靴も履いたまま同じ質問を繰り返された。
言ったら、言ってしまったらその気持ちが溢れてしまいそうで口に出せない。
だから言いたくないのに。
「忍、俺の女って自覚あるか?」
「は?」
思わず間抜けな声が出た。
「ないんだな。だから、言ってこないのか。それとも遠慮してるのか、興味がないのか……」
「なに、言って……わっ!」
突然しゃがんだと思ったら、両足をかかえられて体ごと持ち上げられた。
とっさに首にしがみついた。
なにこれ、小さい子を運ぶ時みたいになってるんだけど。
靴を脱がされ、そのまま部屋の中に連れてかれる。
ドサリと下ろされたのは侑哉のベッド。
お泊まりしてる時、私は床に布団をひかせてもらって、別々で寝てた。
手を出して来なかったからこそ、ずっとお泊まり出来たし、逆に自信がなかった。
「さっさと抱いとけば良かったのか?」
上から覆い被さってきて、とんでもないこと言ってきた。でも、それって……。
頭で色々考えるより先に、侑哉のキスが降ってきた。最初に唇に軽く触れたそれは、おでこや頬、耳から首筋をたどっていく。
「やっ、ちょっと……、ま、待って!」
「俺、だいぶ待ったと思うけど?これからもっと離れるのに、もう待てない」
「とりあえず、今は待って!」
いつの間にかモコモコパジャマの第二ボタンまで開けられてて、あわててかき合わせた。
「それ、似合う。かわいい。気持ちいい」
「た、多喜ちゃんにもらったの……」
「ふーん。その多喜ちゃんには素直に自分の気持ちを言うのに、俺には言ってくれないの?」
さっきのー!
「何、あれ?ずっと通話してたの?どこから聞いてたの?」
「んー、だいぶ最初の方?このモコモコをプレゼントされてたあたり……」
「それって、着替えてる時じゃん!私はともかく、兄さんに知れたら……」
「あ、大丈夫。一緒に聞いてた」
絶句。
何やってんのよ、2人して!!
おもむろに、侑哉が隣にゴロンと転がってきた。
「関口さんが言ってた「ああ見えて焦ってる」は当たってる」
「えっ……」
「忍から見たら、俺チャラチャラしてるように見えてんだろうな、って分かってた。更にダリウス……友人だったし?男同士だったし?」
「……うん」
今、侑哉が何を言おうとしてるのか、多喜ちゃんにはニブいと言われた私だけど、なんとなく分かってきた。
「高坂侑哉として、忍のこと好きなのは本当。それ、信じてもらえてる?」
ドキっとした。
「……信じてない。わけでもないんたけど、100%信じてる、って言ったらそれも嘘になる」
天井を見上げたまま言った。
侑哉の顔を見たら、言えない。でも私も覚悟を決めた。
「じ、自分の気持ちがわからないの」
「うん?」
ちゃんと返事をくれるのが、聞いてくれてるとわかって続けられる。
「侑哉の言うとおり、ダリウスだったし、私、元男子だし、女の子とチャラチャラ遊んでたの知ってるし、私のことを好きだっていうの100%信用出来ない部分ある」
「うわ……、グサグサ刺さるな……」
「でも!嫌ならこんなに一緒にいないし、一緒にいるとなんだかんだ楽しいし、安心できる……し……」
急に視界に整った真面目な顔が入った。
「や!やだ。今、顔見たらだめ!」
両腕で顔を隠したのに、あっさりどかされた。
「今見ないでいつ見るんだよ」
絶対真っ赤になってる。しかも泣きそう。
「俺が引っ越したら、寂しい?」
もーっ!
言わなきゃダメなの!?
「……さ、寂しいに決まってるっ……」
じゃん、って言うつもりたったのに、早急に触れてきた唇に止められた。
「んん……!」
話が終わってない気がするんですけどー!と、もがいてみても、ガッチリ押さえ込まれた両腕は動かない。
いつもは優しい言動の侑哉は、なぜかこういう時はちょっと乱暴になる。
頭の上で両腕を片手で押さえられた。
「ゆっ……や、あぐ……」
唇が離れて名前を呼ぼうとしたら、グイっと口に親指が突っ込まれた。
何!?と思った瞬間にはまたキスされた。
「……ひゃ……、やら……」
何これ。親指と舌と両方に攻められて苦しい。気持ちいい。エロい。
伸ばされた唇から垂れた唾液さえ、侑哉に舐め取られる。
恥ずかしすぎる。
好き勝手に貪られてる。
なのに、それを喜んでる私もいる。
「お前、いいかげん観念しろよ。俺にこんなことされて、そんな顔してたら誤魔化しようがないぞ」
息も絶え絶えになってる所に、そんなこと言われても。
……ホントは、ちゃんと好き。
自分でわからない、とか誤魔化して言ったけと、もうとっくに自覚してる。
素直に認めるのがずっと怖かった。
脳裏に、ダリウスと笑いあってるユリウスが過る。
両脇に女の子を連れて歩いてる侑哉が過る。
あの時の、香水の香りを思い出す。
でも、多喜ちゃんと兄さんを見てたら、羨ましくなった。これを乗り越えたら、あんなに穏やかで揺るぎない関係になれるのだろうか?
言ってしまいそう。
好きだって。
「忍……」
何度も触れてくる優しい口づけを拒めない。
「言えよ。俺が好きだって」
「うぅ……ん……」
キスの合間に囁かれる。
「好きだよ」
麻薬のように注ぎ込まれる侑哉の言葉。
これを素直に受け止めていいのかな?
「俺が引っ越すまでに答えないと、強引にさらうからな」
「へっ!?」
甘々な雰囲気だったのに、急に物騒な話になった。
侑哉の引っ越し先が、大学と会社とを繋ぐ路線の真ん中で、今より広い部屋にダブルベッド、引っ越しの荷物の中に私の服とかまで入れてたことは、後で判明することになる。
「悪いな。チャラチャラしてるように見えたかもしれないけど、俺は実は気が長いし、しつこいし、一途だからな」
ニヤリと笑ったキレイな顔が憎たらしい。




