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番外編1: 寂しい?

「寂しい?」

 目の前のイケメンが、コーヒーカップを片手にニヤニヤしながら聞いてくるのは意地が悪い。

 就職のため、サラサラ風によくなびいていた長めの黒髪を短くカットした侑哉は、男っぷりが更に上がって直視するのが辛い。

 今だって、女の子のお客さんが、チラチラ侑哉のことを見てる。


「別に」

 大学の帰り、いきつけのカフェで待ち合わせるのがすっかり習慣になった私達は、学年が1つ上がっていた。

 多喜ちゃんは、留年。

 まあ、もうあれはしょうがない。

 被る授業は減ってしまったけど、ランチや暇な時間は相変わらず一緒にいる。


「引っ越しはいつするの?」

「んー、来月頭かな。まだ物件悩んでるんだよね。忍、今度不動産屋つきあえよ」

「やだ」

 侑哉は指が治った後、またデカイ立体作品を仕上げ、なんちゃらとかいう美術の結構大きめの賞を取ったらしい。

 それ以前にも、いくつか賞を取っていた侑哉は、望めばそのまま作家活動も出来た(なんと、パトロンになる、と言ってくれる人まで現れた)のに、それを断って普通に就職活動をし始めた。

「作家なんて一生続けるには不安定なことやってられっか」

 と言いながら、自力で内定を取ってきたのだ。

 周りからは散々説得されたらしいし、沢山舞い込むコネ関係の勧誘に目もくれず、文房具メーカーのデザイナーの職を取ってきた。

 ここで急に見せた堅実さはダリウスに通じるものがあって、妙に納得した。


「忍、分かってんのか?俺が引っ越ししたら、こんな頻繁に会えないんだぞ?」

「……。わかってるわよ……」

 情報として理解しているのと、感情として理解しているのとでは違う。

 就職先の会社が、通勤するにはここからちょっと遠いため、侑哉は引っ越しをする。

 部屋の荷物をまとめ始めてるのを手伝ったりしてるのに、未だに侑哉が遠くに行くという実感がない。

「フガッ!」

 ぼけっと考えてたら、鼻をつままれた。

「しーのー?」

 整った顔がフワリと笑う。

 この、何もかもわかってるぜ、的な顔がムカつく。


 なんだかんだ一緒にいるけど、私達は正式にお付き合いしてない。

 毎日のように会ったり、手を繋いだり、キスまでしてるけど、ハッキリとした言葉で付き合いをスタートさせたわけではないから、こういう時に自分の気持ちを素直に言っていいのか、わからない。


 *****


「言っていいに決まってるじゃん!」

 なんならテーブルを越えてきそうな勢いで、多喜ちゃんは言った。

「だって、高坂先輩からはすでに「好き」「付き合って」って、言われたんでしょ?答えてないのは忍ちゃんじゃん!」

 多喜ちゃんは、かわいらしいモコモコのピンクの部屋着を着てるのに、鬼の形相で言った。

 私は最初、ヨレヨレのグレーのスウェットでいたのに、多喜ちゃんからお揃いの白いモコモコをプレゼントされ、今は2人してモコモコになって、多喜ちゃんちのリビングで座ってる。

 今日は多喜ちゃんちにお泊まり会、と称してちょっと侑哉から離れたかったのだ。


 あの時、骨折した侑哉の看病で侑哉の部屋にお泊まりしてから、治ってもそのままほぼ同棲状態になっていた。

 実家(ウチ)より侑哉のマンションのが大学に近かったのと、怪我が治った侑哉が、「リハビリ」と言って今度は逆に私にお世話しまくってきたのが、存外心地よすぎたのがいけなかった。

 そうこうしてたら、別々なのは授業中くらいしかないなってことになってて、自分でもこれはまずいんじゃないかと思ってたのだ。


 テーブルの上には、多喜ちゃんが作った美味しそうな料理が並んでる。

 多喜ちゃんは、今料理の練習中だそうで、誰のために頑張ってるかなんて丸わかりだ。

 肉じゃがに、唐揚げ、だし巻き玉子、デパ地下にありそうなカラフルなサラダとポテトサラダ、炊き込みご飯、具だくさん味噌汁……。

 見事に男性が好きそうなラインナップ。

 どれも美味しい。

 実家暮らしの私には、まだまだハードルが高いなぁ……。などと現実逃避してたら多喜ちゃんに睨まれた。


「高坂先輩もやっぱりハッキリ言って欲しいんじゃないの?」

「……う、ハッキリ……」

 唐揚げをパクリと口に入れた多喜ちゃんは、ウンウンと首を縦に振った。

「念のために聞くけど……」

「聞かないでいいから!」

 多喜ちゃんの言いたいことは分かってる。

「だ、大丈夫……。ちゃ、ちゃんと……、す、好きだから……」

「ダリウスでも?」

「ユリウスでも」

 何かの合言葉みたいに返した私に、多喜ちゃんはニッコリ微笑んだ。

「本当は寂しい?」

「……うん……、そりゃ、看病してた頃はもちろん、治ってからも四六時中一緒にいて、あと数週間でいなくなっちゃうなんて……、考え、られな……」

 言ってて、泣きそうになってきた。


「だそうでーす!」

 下を向いてしまってたので、多喜ちゃんが何を突然言い出したのかわからなかった。

 ガバリと顔を上げたら、スマホを耳に当ててる多喜ちゃんが「はい、はーい。待ってますんでー」そう言って通話を終了した。

「……えっ?何?今、誰と電話して……」

 嫌な予感しかしない。

「頼まれたんだよね。って、私に頼むくらい、多分、ああ見えて焦ってるんだと思う」

「えええ?焦って……?」

「んもう!忍ちゃん、見た目に反してニブすぎ!」

「反してって、それ関係な……」

 ピンポーン。

 言いかけた言葉を玄関チャイムが遮る。

 って、早くない!?


「「こんばんわ~」」

 リビングにいても、一軒家と違って玄関はすぐそこ。誰が来たかなんてすぐわかる。

 って、声が二重。葉山先生……兄さんまで一緒だし。

「うわ、2人お揃?かっわいい……」

「こら、お前はこっちは見るな」

 私と多喜ちゃんを交互に見る侑哉の首を、兄さんはグキっと私の方へ向けた。


「忍、かわいい」

 フニャラっと柔らかく笑って、侑哉はおもむろに自分が着ていたキャラメル色のコートを脱いだ。それを私に着せる。

「え?何?どゆこと?」

 混乱してるうちに兄さんは車のカギを、多喜ちゃんは私の荷物を侑哉に渡した。

「関口さん、ありがと」

「ダリウス様のご健闘をお祈りしておりますわ」

 急にローザになった!!

「何?何!多喜ちゃん、これ最初っから仕組んだな!?」

 いつの間にか侑哉に腰をガッシリ捕まれてて、そのままズルズル玄関まで連れてかれた。

「忍ちゃん、またねー」

 などと、呑気に手を振ってる多喜ちゃんを、兄さんがデレデレしながら後ろから抱き締めてるのを最後に見て、ドアがしまった。


 そのまま、マンションの下にとめてあった葉山先生の車に連れてかれ、乗せられた。

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