43: 掴んだ
また、だ。
頬に触れる、温かい、手。
まだ腹筋に自信がないから、急に起きるのは無理。
なので、今の自分に出来るかぎりの素早さで、頬にある手を、
―――掴んだ!
「……!!」
目を開けて、声にならない声を出した成悟さんを見る。
「面会時間、まだですよ」
久々に見た成悟さんは、相変わらずキレイな顔なんだけど、ちょっとやつれてるようだった。
「こんな時間に、どうやって入ったの?」
朝の6時すぎ。廊下では朝食の用意や、看護士さんがパタパタと通りすぎてる。もちろん、こんな時間は正規の面会時間じゃない。
見れば、骨折していた右手はもう簡単な包帯のみになっていて、私は成悟さんの左手を握っていた。
「……成悟さん?」
さっきから、一言も喋ってくれない。
手を振りほどこうとはしてないことに安堵した。
顔をのぞきこむと、泣きそうな辛そうな表情になってる。
「……たき……?痛かった……よね……。ごめん、ごめんね……。守って、あげられなくて……」
大人の男性がこんなにキレイに泣くなんて思わなかった。
はらはらと流れる涙が、布団に落ちる。
「成悟さんのせいじゃないし、ホラ、私大丈夫だよ?体より、心だよ。どうして会いに来てくれなかったの?」
掴んてる手を、自分の頬にもう一度付けた。
その手がスリっと頬を撫でてくれた。
「今までだって、君が死ぬ所を目の前にしたことだってあった。俺が先に死ぬこともあった。だけど、俺のせいで死ぬかもしれないってなったのは初めてだった」
「怖かった?」
「多喜の……、血がどんどん流れて……、その温かさが、命が流れ出てるようで……、こわかっ……」
頬の手が震えてる。
その手に私からスリスリして、真っ直ぐ成悟さんを見た。
「それで?もう、私はいらなくなった?」
ずっと追い求めてたものが、目の前で消えそうになって、多分、すごく怖かったんだと思う。
そしたら、私と同じように「もういらない」ってなっても、おかしくない。
そんな覚悟で質問した。
「違う!」
そしたら、ものすごい勢いで否定された。
「多喜こそ……、多喜こそ嫌になってない?」
「嫌になんてなってない。結局私、ずっと待ってた」
意味がわかってない顔をしてる。
「どんな人生でも、どんな環境でも、いつもあなたが私を探しだして会いに来てくれるのを、待ってた」
意地悪だけど、そのビックリ顔を見たかった。
「多喜……?まさか……」
驚く顔を見たかったけど、実際に見たら喜んでるのか、困ってるのかわからない。
「思い出しましたわ。お父様」
上手くあの頃のように笑えてるかわからない。
けど、頬に触ってる手が怯んだのはわかった。
「成悟さん、大丈夫。大丈夫だよ。私、もう待たない。忘れない。あなたがいつもいつも私を探しだしてくれるの、嬉しかった。覚えてない時も、待ってた」
怯んだのは、私が前に前世を気にして躊躇したから。
でも、もういいの。
全てを思い出した今は、彼の何もかもを受け止められる。
「多喜……、本当に?」
さっきから大の男が泣きまくってるな。でもキレイ。
「うん、私が多喜でもローザでも、あなたを愛しています」
いつもの、ふにゃりと笑う成悟さんが、近づいてきた。ギシっとベッドが音を立てて、直後にしっかりとした温もりに包まれる。
病室で、廊下へ繋がるドアは全開でたまに看護士さんが通る音がするけど、そんなことはこの時気にしてなかった。
だって、ずっと待ってた私の片割れがピッタリくっついてる。これ以上に満たされることなんてなかった。
「ずっと追いかけられた挙げ句、刃傷沙汰とか……、もう嫌になってるんじゃないかと思って……」
「それで、会いに来なかったの?っていうか、来てはいたか」
寝てる時に。
「ご、ごめん。それでもやっぱり心配だったのと、会いたくて……」
この人はもう。私から離れるとかいう選択肢はなかったのかな?そんなことされなくて良かったけど。
ずっと抱きしめあってたら、出入口からやたらと食器の音かして、そちらを見ると困ったように笑う看護士さんと目が合ってしまった。
「ぎゃー!ごめんなさい!!!」
あわてて離れるも、看護士さんはクスクス笑ってる。
「良かったですねぇ。お互いに」
成悟さんと私とで「?」となってると、朝食を用意しながら看護士さんが言った。
「どういう事情かは知りませんけど、彼氏さんは悲壮な顔して関口さんが寝てる時にしか来ないし、関口さんは体は回復してもいつもどこかぼんやりしてるし……」
食器を整え、私達を見て看護士さんが笑う。
「でも、今は二人ともスッキリした顔をしてらっしゃる」
実はすごい気を使ってもらってたんたな、と恐縮してると
「なので次からは正規の面会時間で来て下さいね」
い、言われた……。




