36: 顛末
高坂先輩は両手の親指を骨折、あと拉致られた時に頭を殴られたようで、右の後頭部にたんこぶと切り傷が出来ていた。成悟さんは右手の指数本と甲の骨折、私と忍ちゃんはたいした怪我もなく、どちらかというと昌也さんの多数の打撲とあばら骨の骨折の方が重症だった。
もちろん、あの時のことを警察が取り調べ、関係者全員事情聴取、昌也さんとあの4人は捜索の後、逮捕された。
と、言うのも昌也さん達はアレ以外にも、イロイロとヤバいことをしていたらしい。
「本当は分かってたんだ。昌也が俺を意識しすぎてること」
事件が落ち着いてから、高坂先輩と忍ちゃんから呼びだされた。場所は私と忍ちゃんの行きつけになってるカフェ。
事件の、高坂先輩が知ってる部分を話してくれる……ってことだった。
両手の親指を骨折して、学業どころか生活全般不自由になってしまった高坂先輩はしばらく大学を休んでいる。そんな先輩をサポートしてるのは忍ちゃんだ。
最初、高坂先輩が頼み込んだのかと思ったら、忍ちゃんから言い出したらしい。なんと先輩が1人暮らししてるアパートに住み込みで!
「どうせあの手じゃ襲われる心配もないしね!」なんて言ってたけど、目の前で高坂先輩が「ん」と言っただけで、アイスコーヒーにミルクを入れて混ぜて、ストローまで差して渡してる忍ちゃんを見ると、どうなってることやら……。
「1年の頃から仲良くなって、一緒に作品を作ったりしてたんだが、俺が一回デカイ賞を取ってからだんだん変わってしまった……。変な奴らとつるんだり、俺に対して変にひくつになったり……。俺が何か言ってももう聞く耳をもたなくなって、最近はちょっと距離を置いてたんだ。……それが、まさかこんな形で2人を怖がらせることになるとは……」
いつになく真剣な表情で語る高坂先輩は、みんなから聞いてたダリウスを想像させた……。
「あの……、私、詳しく聞いてないんですが、昌也さん達って何をしてたんですか?」
高坂先輩の顔が曇る。
「アイツは、他の大学の奴らやフリーターを集めて、クラブを作ってたんだ」
「クラブ?」
「異文化交流会だかなんだか言う名称で……。まあ、名目はなんでも良かったらしい。最初はただの飲み会やら、合コンやらをしていたのが、だんだん合法ドラッグパーティーや、とても女の子には言えない内容のこともしてたみたいで、裏では有名だったらしい……」
そうして、犯罪への一線を越えるのを高坂先輩は気付けなかった、と話した。
あの、人懐っこかった無邪気な顔を思い出す。
「ごめん……。俺がもっと気にしてれば……」
「いえ、それは高坂先輩のせいじゃない!」
あわてて否定した。
しかも、私はアレを聞いてしまったから……。
「多喜ちゃん、成悟さんは?どうなったの?」
それまで黙ってた忍ちゃんが聞いてきた。
成悟さんは、あの現場に駆けつける前、私を探して美術科まで来ていた。
と、言うのも守谷さんが何かしてくるかと用心して、実は私のスマホに例の位置情報アプリを入れて、成悟さんからわかるようにしてあったのだ。
めったに行かない美術科方面に行って、高坂先輩がらみだろう、と予測はついたもののどっかの棟の教室から移動しない。
不審に思ってスマホの示す位置に行ったら、派手に何かモノを壊してる音がする部屋の前に、私のスマホが落ちていて、その部屋を覗いたら、昌也さんが高坂先輩の作品をぶっ壊してるところに遭遇した。
実は教師の間では既に昌也さんと数人は要注意人物として周知されていたらしく、すぐさま槙教授に連絡した。
本当はここでもっと大学関係者に連絡すべきだったんだろうけど、私がらみで何か起きた、となった成悟さんはどうやら冷静な判断が出来なかったらしい。
「昌也、あれでケンカ強かったみたいなんだけど……。葉山先生どうやって……」
「まあ、でも、拳骨折してましたから……」
三人して無言になってしまった。
その成悟さんは自宅謹慎中。
理由はともあれ、暴力をふるったことで大学を解雇されそうになったのを、槙教授が止めてくれた。
とはいえ暴力は暴力で、捕まりはしなかったものの警察沙汰にもなって、大学からしぱらくの謹慎を言い渡された。
本当はあやうく逮捕されそうになったんだけど、槙教授の何かしらのコネでなんとか免れたらしい。槙教授……、何者なんだろう……。
高坂先輩ほどじゃないけど、成悟さんも利き手を骨折してて、私がサポートしてる。忍ちゃんみたいに泊まり込みまではしてないけど。
「葉山先生、復帰……出来るの?」
高坂先輩が聞いてきた。
そうなのだ。大学の助手という職はなかなかに厳しくて、そもそも狭き門を取り合って得るもので、今回みたいに不祥事的なことになると、その席を狙うものは多い。
「実は成悟さん的には、やめてもいい感じで……。槙教授が、一旦保留にさせてる状態なの……」
「そうか……」
高坂先輩は予想してたんだろう。たいして驚きもしなかった。
「あー、俺は手が治ったら、また作品作り直さねぇとなー」
それも気になってた。忍ちゃんもそうだったようで、高坂先輩に聞いた。
「あれって……、何を作ってたの?見た時にはもう既に産業廃棄物みたいになってたんたけど……」
「産業廃棄物!ひでぇな!忍、俺のスマホ出してくれる?」
笑いながら忍ちゃんに出してもらったスマホを中指で操作して、私達に画面を見せてくれた。
そこには多分あの教室で撮ったであろう立体作品が写っていた。
多分、180センチくらいはありそうな大きな作品で、木材が組み合わさって人のような形が出来てる。木材がメインだけど、それ以外にも鉄や布、糸、白いのは発泡スチロール?など、所々に別素材がくっついてる。
すごいのは、そんな無骨な素材で出来ているのに、この人のような形はなぜかとても柔らかい印象だった。
「まだ、途中だったんだけどな」
忍ちゃんを見ながら苦笑いしてる先輩を見て、ピンと来た。
「……もしかして、これ忍ちゃん?」
高坂先輩がちょっと驚いて、ニヤっと笑った。
「え?え?これ……、ええ?」
忍ちゃんが困惑してる。
「こんなん、私ってわからないよー!隠す意味あったの?」
「盗作防止」
忍ちゃんが止まる。
「……。それも、昌也さん?」
「あー……。まあ、そうだな」
多分、以前にやられたからこその防御策だったんだろう。でも、高坂先輩は今回の事件の説明で、大学側にこのことを言ってなかった。
それを指摘したら高坂先輩は「まあ、それはもういいんだ」と言った。
その言葉に高坂先輩の後悔と自責が籠っていた。




