34: まさか
「昌也!変なこと吹き込むな!!」
息を切らせて来た高坂先輩が、昌也と呼ばれた彼の首根っこを掴んでる。
「侑哉、彼女ちょーかわいいじゃん!!」
にへらっと笑って高坂先輩の脇腹をバンバン叩いてる。あ、きっといつもこんな感じなのね。
「か、か、彼女じゃない……もん……」
下を向いて、真っ赤になって小声で呟いてる忍ちゃんを、昌也さんを放り出した高坂先輩が覗き込んだ。
「忍?すごい真っ赤。かわいいけど、他の奴に見せんな」
そう言って頭から抱き込み、そのまま建物の中に向かった。
「関口さんも、おいで」
言われて高坂先輩について行く前に、昌也さんにおじぎをするとヒラヒラと手を振られた。
建物の中は、授業をするための教室、ではなく作業部屋みたいな部屋ばかりだった。
廊下にも大きな木製のパネルやら、石膏像らしき何か、こんもり積んである布、切れ端みたいな木材、ありとあらゆるものがズラリと置いてある。
「あっ、侑哉ー。林ちゃんがいいかげん課題出せって言ってたよー」
「おう、わかった」
「先輩ー!こないだ言ってたラメ生地、手に入ったよ」
「後で見して」
歩いてくと、すれ違いざまに次々声をかけられる。
高坂先輩が皆に慕われてるのがよくわかった。
廊下を一番奥まで行ったら、高坂先輩が振り返った。
「この部屋、俺の作品があるんだけど、完成まで誰にも見せてない。荷物持ってくるから、ここで待っててくれる?」
と、廊下で私と忍ちゃんは待つことになった。
2人で廊下の謎の物体を眺めて「美術はわからん」などと話していたら、突然、廊下の突き当たりにある非常口のドアが開いた。
*****
「うぅ……」
顎を捕まれて、チャラ男を睨んでたら高坂先輩から声がした。
「侑哉っ……!」
忍ちゃんが声をかけると、高坂先輩の体がピクリと動いた。
私と忍ちゃんはパイプ椅子に縛り付けられてて身動きが取れない。
ご丁寧に腰と両足、両腕は後に縛られてて、動いたら動いたでパイプ椅子ごと倒れそう。
「……っ、しの……ぶ?」
頭を上げた高坂先輩の視界が、忍ちゃんを捉えたようで、みるみる驚愕の表情になった。
「なんっ……だ、コレは」
「あーあ、起きちゃった」
小太りが高坂先輩の上にまたがって、どすんと背中に乗った。
「うぐっ……」
どこを怪我してるのかわからないけど、ただ乗られただけでは出なさそうな声を出した。
なんなのこれ?
突発的な行動ではない、と思う。
だって、こんな部屋とか縛るものとか事前に準備が必要だよね。そもそも、私と忍ちゃんは美術科の廊下で拉致られた。いつも行かない場所で……。
それって、おかしくない?
つけられた?
そこまで考えてたら、高坂先輩が思いがけないことを言った。
「昌也か?」
えっ……?
私の横にいるチャラ男を見て
「オマエ、昌也とつるんでたよな?」
と言った。
「カルそうに見えて意外と見てたんだな」
「……。アイツが、変なことしてるの、知ってたしな……」
整った顔をくしゃりと歪めた。
変なことって、ナニ?
さっき会った無邪気な赤毛の笑顔が頭に浮かぶ。
え?じゃあ、私ちょっと守谷さんの仕業かと頭を過ったけど、関係ないってこと?
「忍、関口さん、大丈夫?」
「侑哉こそっ、どっか怪我してるんじゃないの?」
忍ちゃんがガタガタと高坂先輩の方へ椅子ごと向いた。
「こら、動くなよ」
忍ちゃんの後にいたダサメガネが忍ちゃんの肩を押さえた。
「……触るな」
高坂先輩が低い声で言った。
「お?そういうこと?」
ダサメガネは忍ちゃんの肩から手を動かし、背後から抱き締めるようにした。
「ひっ……!」
私の方からは見えなかったけど、忍ちゃんの短い悲鳴で何かされたことは分かった。
高坂先輩の上に乗ってるやつは、高坂先輩の髪を後に引っ張って、わざと見せつけるようにした。
「やめろ!彼女達は関係ないだろ、解放しろ」
「そういうわけにもいかないんだな。美少女にも頼まれて……な」
と、チャラ男が意味深に私を見た。
まさか……。
「や……、やだっ!やめて!!」
忍ちゃんの悲痛な声で考えが中断する。
何かよからぬことをされてるんだろうけど、私からはダサメガネの背中で、見えないんだってば!
「人のことを気にしてる場合じゃないよ?」
チャラ男がまた顎をつかむ。
恐い。
脚が震えて、歯の根も合わずガチガチいってきた。高坂先輩が「やめろ!」と、もがいてるのを押さえつけようとしてる男達の声が遠くに聞こえる。
成悟さん―――
何も考えられなくなったとき、頭の中にいっぱいになったのは、あの優しい微笑みだった。




