32: 誰
結局、成悟さんの言った通りになった。
私が折れるか諦めるか。
まあ、諦めたわけでも、折れたわけでもなく、納得したからなんだけど。
お互いに思いを遂げて丸く収まった……。
気でいたけど、そういうわけにいかない人物がいた。
*****
「多喜ちゃん。あれから守谷さんと会った?」
目の前で高坂先輩にベッタリくっつかれてる忍ちゃんから聞かれた。
最近、高坂先輩はちょっと時間があればすぐさま忍ちゃんの所に来て、ちょっかい出してる。
美術科からこっちに来るだけでも広い大学内では遠いのに、高坂先輩はマメに通ってくる。
それこそ、あの廊下での後何かあったんだろうけど、忍ちゃんは頑なに教えてくれない。
でもまあ、見てるとお互いの距離が縮まってることは確かなので、あまり突っ込まないことにした。
今日も、いつものように、忍ちゃんと空き時間にカフェテラスにいたら、ひょっこり高坂先輩が現れた。
当たり前のように忍ちゃんの横に座って、当たり前のように忍ちゃんの飲み途中のカフェオレを勝手に飲んでる……。熟練夫婦みたいになってるな……。
あのあと……、って職員用通用口の時以来ってことだよね。
「実はさ、私のとこに来たんだよね、彼女」
既に聞いていたようで、高坂先輩に変化はない。
「実は、俺のとこにも来た」
「えっ!?」
忍ちゃんは聞いてなかったみたいだな。
「彼女、何て?」
ここ数日、私はもちろん成悟さんの所にも来てなかった。だから、このまま諦めてくれたのかな……なんて考えてたけど甘かったようだ。
「最初、女子高生に待ち伏せされたもんだからドキドキしちゃったよ。って、うわ。冗談!冗談だからめっちゃ白い目で見んな!」
白い目っていうか、じと目になってるよ、忍ちゃん。落ち着かせようとしてるのか、高坂先輩が忍ちゃんの頭をナデナデしながら続けた。
「ダリウスは以前とは変わったのね、みたいな話から始まって、自分はあまり変わってない、前みたいにお父様と一緒にいたいのに、それが出来ない。それは関口さんが私のことを嫌いで、邪魔をしてくるからだ。関口さんは前世と関係あるのか?誰なのか?って、結構しつこく食い下がってきた……」
忍ちゃんも続けた。
「私にも似たような感じ。ユリウスはお父様と変わらず仲がいいの?から始まって、家族なんだからもっと三人で会いましょう、とか、ユリウスは好きな人はいないの?女の子同士になったんだから恋ばなしましょう、とか……。で、多喜ちゃんのことを、あれは誰なのか、前世では誰だったのか?とかすごい聞かれた……」
「……。私を調べてたわけね」
彼女は私が前世を覚えてないことを知ってる。だから、私がローザだと言い出すのが一番恐いことなんだろう。
「でも、多喜ちゃんがローザ、とは言ってないよ」
忍ちゃんが言うと、高坂先輩も頷いた。
まあ、私も覚えてないし、そこは確定的に言えないよね。
彼女がローザじゃないことは、私はすでに成悟さんから聞いた。
でも、病院でも一目でユリウスとダリウスを言い当てたし、どうやらローザのことも良く知ってるらしい。
転生者ってことは確かなんだろう。
じゃあ、誰?
って、私じゃあわかるわけもない。
「俺らのことも知ってて、ローザに詳しい……。でも、そこまでこっちのことを知ってるなら、反対に俺達も知ってる相手だよな?」
「身近には?他にどんな人がいたの?」
「ウチは、両親は早くに亡くなってて兄さんが伯爵を継いで、イリヤ様とご結婚後、ローザが産まれて……、イリヤ様が亡くなって、メレディア妃と再婚して……。お屋敷の中ではそんなもんだよ。領地にいる親戚がたまに来るくらい」
忍ちゃんが久々にユリウスの顔になって言った。
「ダリウスだって、婚約者になってから伯爵家に出入りし始めたくらいで、元々伯爵家ってそんなに千客万来って家でもなかったし……」
2人して心当たりがないようだった。
「でも、このままでフェイドアウトとかはなさそうだよね……」
忍ちゃんが、私も思ったことを口にした。




