30: 告白
「忍。あれ、誰?」
一瞬、目の前に現れたのが高坂先輩だって気付かなかった。
忍ちゃんと2人であのままお昼を食べて、これから同じ講義だから教室へ一緒に移動してる時に、廊下で会ったのだけど。
今まで見たことない険しい顔をしてる。
高坂先輩は大抵余裕の表情で飄々としてるイメージだったから、こんなあからさまに機嫌が悪いのを初めて見た。
会った、っていうか、待ち伏せしてたよね、これ。
「これから授業だから」
忍ちゃんは、高坂先輩と目線も合わせず横をすり抜けようとした。
ガツっと忍ちゃんの腕がつかまれた。
「痛い。離して」
「関口さんは知ってるの?」
忍ちゃんを掴んだまま、据わった瞳がこちらを見る。ひえ!イケメンが凄むと迫力すごい!
忍ちゃんから一部始終を聞いた私は、もちろん知ってる。っていうか榊くん本人にも会ったことあるし。
「知ってます」
「多喜ちゃん!」
忍ちゃんが焦って声を上げる。
「でも、高坂先輩。なんで彼が誰だか知りたいの?」
「目の前でかっさらわれた」
「それが嫌で?」
「……違う。忍が……、忍が俺じゃない奴の所に行くから……」
言ってから、止まった。
目の前で見てしまった。
首のあたりから、ジワジワ顔が赤くなってくイケメンを。
思わず口を手で押さえた。
だって、これ、かわいすぎるでしょー!
忍ちゃんを見れば、腕をつかまれたまま高坂先輩を見上げてあっけにとられてる。
「忍ちゃん、代弁はまかせて」
親指を立ててサムズアップをして、その場を去った。
この後2人がどうなるかなんてわからない。
わからないけど、なぜだか嬉しくなってニヤニヤしながら教室に向かった。
*****
「ローザじゃない、って確定できたの?」
「まあ、ぶっちゃけ言えば最初から分かってたんだけど」
「!?」
フワリと体が浮いた。
成悟さんが私を横抱きにして立ち、そのままソファーに座った。今度は成悟さんの膝の上で横座りしてる状態になった。
どうやら、どうしてもくっついていたいらしい。
「これを言うのは、俺にとっても賭けなんだ。今まで、君に告げたことはないから……」
「まだ、言ってないことあるの!?」
今は私の方が目線が上で、ちょっとだけ成悟さんを見下ろしてる。
長い睫毛が上を向いて、その下の瞳が私を写した。
「ずっと、生まれ変わる度に君に巡り逢ってる。いつも覚えてるのは俺だけ。俺が、君を求めなければ出逢わないんじゃないか、って思ったこともあったけど、その一生のうちに必ずどこかで出逢う。その度に始めからやり直すんだ。やっと……、やっと条件の合う状況になった。もう、手に入れてもいいだろう……?」
懇願するような切ない表情で見上げてくる成悟さんから目が離せなくなった。
え?
今、なんて言った?
―――生まれ変わる度に巡り逢ってる
―――覚えてるのは俺だけ
「私……、何度もあなたに逢っているの?」
背中を支えられてた腕から力が抜けて、後ろに倒された。
ポスン、とソファーに仰向けになって、今度は私が成悟さんを見上げる。
「そう、逢ってる」
「私、いつも覚えてないの?」
「うん、覚えてない。でも、それでいいんだ」
「なんで、賭けって……」
「これを知って、君は怖くなるんじゃないか、って。俺から逃げたくなるかもしれない、と思ったら、怖くて言えなかった」
「じゃあ、なんで今回は教えてくれたの?」
「変わるかと、思って」
「変わる?」
「巡り逢っても、立場や年齢、場所や状況がズレてて今まで君を手に入れることが出来なかった。だから今回はいつもと違う行動をとってみた」
死に物狂いで探すのを止めた。
初対面を装って、怖がらせないようにするのを止めた。
真実を告げないままでいるのを止めた。
最初から、好意を隠そうとしなかった。
成悟さんの告白を聞いてる途中から、涙が止まらなかった。
何の感情で流れてるのかわからない涙。
頬を濡らすソレを、成悟さんのあったかい手が何度も拭ってくれた。
逃げたくなんてなってない。
それどころか、何かがカチリとピッタリはまったかのように、気持ちがスッキリしてる。
逆に覚えてないのが悔しい。今、ここに来ても私はローザのことをこれっぽっちも思い出していないのだ。
それを告げると、成悟さんはふにゃりと柔らかく笑った。
「それでいいんだってば。君はそのままで。俺が試行錯誤して、やっと手に入れた。俺の片割れ」
―― 片割れ ――
その言い方がしっくり来た。
そうか、欠けていたのね。それが埋まった安心感なのか。ずっと泣いてる。勝手に目から水が出てくる。
覚えてなくても、私の何かが満たされたことを体がちゃんとわかってる。
今度はキスで涙を拭われる。
何度も何度も、頬やオデコに落とされるキスは、優しくてあたたかくて尚更泣く。
「多喜……。俺のものになって?」
次第に口に落とされるそれを、何の抵抗もなく受け入れる。
「うん。なる。私を今度こそ、手に入れて……」
先生と生徒、とか、前世が親子とか、もうそういう次元じゃなかった。
ただただ愛しいこの人からの愛を素直に受け止めるだけだった。




