28: 私の知らない話 4
駅についたら、やたら目立つ背の高い人がヒラヒラ手を振っていた。
「連絡しないでって、言ったのに!」
兄さんの馬鹿!!
「忍。お疲れ様。ん?どした?なんか機嫌悪い?」
高坂先輩がヒョイっと私の顔を除きこんで来た。黒髪がサラリと揺れる。顔が近い!
背の高い彼はきっと女子にはいつもこんな感じなんだろう。
「葉山先生から連絡あってさ。ちょうど近くで飲んでたし、あ、そんな酔ってないから大丈夫。忍、1人で帰すのも危ないから迎えに来た」
こともなげに言ったな。お迎え慣れしてるな。
「どうも、ありがとう」
とりあえず言って、改札に向かった。
「高坂先輩、反対方面でしょ。飲み会戻っていいですよ」
改札に入る前に言ったのに、そのまま一緒についてきた。
「葉山先生と関口さんと会ってきたんだろ?あの守谷とかいう子は、ローザなのか?」
駅のホームで電車を待ってる間に聞かれた。
高坂先輩が、右にいたのになぜか左に移動する。「?」と思ったら、高坂先輩の向こう側に酔ってフラフラのサラリーマンがいた。
……。
こういう所……。
「っていうか、元婚約者としてはどう思ってるんですか?」
「んー、あれ、ズルいよな。見た目でローザだと思っちまう。気付いたか?あの娘、姿形だけじゃなく、表情やしぐさまでローザにソックリなんだ……。言葉遣いこそ現代人だけど、それでもローザっぽさがある」
それは私も気付いてた。
だから、他の人に感じた何かを彼女の場合、読み取りづらい。
高坂先輩も、多分同じ感じで彼女がローザかどうか判断しかねているのかも……。
そこまで話してたら電車が来た。
ホームに入ってきた電車を見ると、金曜日の遅めの時間は、車内は満員ってほどじゃないけど立ってる人も多く混んでる。
ドッと流れる人に押されて、ドアに押し付けられる……かと思ったら、壁ドンならぬ、ドアドン状態で高坂先輩の両腕の中にいた。
「大丈夫?」
かなり近い頭上から、声がした。
「だ、大丈夫……」
とは言ったものの、大丈夫じゃない。
近づいた高坂先輩の胸板から、絶対に完全に女性ものの香水の匂いがする。
さっきまで飲んでた相手か。
こんな、移り香になるくらい接近してたっつーことですね。
モゾモゾと動いて、対面だった状態からドアの方へ向いた。
「何?」
「ナンデモアリマセン」
「そう?」
ドアについてた手がするりと下に降りて、そのまま後ろから抱き込まれた。
「!!ちょっ……!」
「シー。うるさくしない」
抗議しようにも動けないし、大声も出せない。
「忍、ちっちぇえな」
つむじあたりで喋るのやめて。しかも今、つむじにキスしたでしょおおお!
ドアのガラスに映って、ニヤリと笑う高坂先輩と目が合った。
やっと降りる駅に着いて、ホームに出る時に手を繋がれた。
「高坂先輩っ!どういうつもりですか。離して下さい!」
ブンブン振り回して外そうにも外れない。
「えー、いいじゃん。忍の手、プニプニしてて気持ちいい……」
「忍。何やってんだよ」
そこに、知ってる声がした。
振り返ると、どうやら同じ電車に乗っていたらしいバイト帰りの我が弟、榊が呆れたような表情で立っていた。
まだ高2のくせに背丈は大人並みの弟は、今みたいに私服でいると成人に間違えられることしばしば……。
「ちょうど良かった。榊、家まで送ってよ」
高坂先輩の手を振りほどいて、榊にかけよる。
目線で榊に「何も言うな!」と訴えれば、無言の半目で返された。よし、通じたな。
「高坂先輩、ありがとうございました。じゃあ」
と、さっさとこの場を去ろうとしたら、出来なかった。
「ソレ、誰?」
基本的に飄々としてて、女の子にはヘラヘラしてる姿しか見たことなかったから、こんな地を這うような低い声を出して、不機嫌オーラ全開の高坂先輩が別人みたいに見えた。
「え……、えーと……」
ぶっちゃけ、怖い!
あまりの怖さに、早々に弟だとバラそうかと思ったら、榊にグイッと肩を抱かれた。
「アンタこそ、誰?」
弟よ!
それ多分怒らせていい人じゃない気がするー……。
それを察知したのか、榊は私の肩をつかんだままスタスタと改札に向かい始めた。
「振り向くな」
小声で言う榊を見たら、顔が青くなってる。ごめんよ、弟よ。ちょっと怖かったんだね……。
結局、姉弟してビビりながら家に帰った。
「忍、何あのイケメン!彼氏じゃないの?嫌だよ、俺。また、めんどくさいの」
家に着くなり、榊に責められる。
実は榊をダシにして異性を牽制したことが以前にもあって、そのあと結構モメたのだ。
「ゴメン……。でも、彼氏じゃない。大学の先輩」
はー、と弟にタメ息をつかれる。
「忍さあ、見た目派手なんだからちょっとは気を付けろ」
見た目派手とはヒドイ。でも、弟なりに心配してくれてるのだろう。
「……。うん、ありがと」
この時は、まさかそのあとから高坂先輩の熱烈な執拗な猛プッシュが始まる……とは思いもしなかった。




