27: 十中八九
誤字脱字報告、ありがとうございます!
「そうなんだ……。私も今度会ったら昔のこと聞いてみようかな……」
成悟さんの話を聞いて、忍ちゃんがボソリと呟いた。
「で?保留にしてまで確認して、あの子はローザなの?」
忍ちゃんが今度はむすっとした顔で言った。
「十中八九」
「なんで十中十じゃないの?その余ってる1、2はなんなの?」
「んー、まだ確定的ではない。って感じかな」
まだ不信な顔をしてる忍ちゃんは、はあっとタメ息をついた。
「とりあえず、保留にした理由はわかったけど。兄さん、わかってる?その間、多喜ちゃんずっと不安なままほったらかしだったんだよ?」
「忍ちゃん!」
そう。さっきから忍ちゃんの機嫌が悪いのは、私を心配してのことだった。
「しょ、しょうがないよ。守谷さん……がずっといたし、助手の仕事も本当は忙しいこと知ってるし……」
既にレストランを出て、三人で駅に向かって繁華街を歩いていた。
今日は金曜日だからか、飲み会やご飯の後なのかグループで騒いでる人や、早足で家路を急ぐ人、肩を抱き合ってるカップル、と様々な人が行き交っている。
夜だからキャップをしてない成悟さんは、さっきからすれ違う女性にことごとく見られてる。そういうことにもう慣れているのか、目線を合わせないように見事にスルーしてる。
立ち止まった成悟さんが、忍ちゃんに向かって言った。
「わかってるよ。だから忍、ここからは1人で帰ってくれる?」
ニッコリ、有無を言わさぬ笑顔。
さすがの忍ちゃんも固まった。いや、私も止まったけど。
「……。そ、そう?じゃあ帰る」
「あ、なんだったら侑哉くん呼ぼうか?」
成悟さんがスマホを出した。
「うぇっ!?なんで高坂先輩っ?やだ!呼ばないで!」
忍ちゃんが急に真っ赤になって、しどろもどろになった。っていうか成悟さん、いつの間に連絡先交換したんだろ?
「じゃあ、多喜ちゃん、また来週ね!兄さん、ご馳走さまでした!」
早口でそう言って、忍ちゃんは人波の中を小走りで行ってしまった。
「さて、俺らも帰ろうか」
当たり前のようにするりと手を繋いできた。
「あああ、あの……」
私的気持ちとしてはまだ複雑で、前の何も知らないまま付き合ってた時の感覚に戻れてない。
「いや?」
久々にワンコ系成悟さんが出た。しかも、手が指と指をからめる、いわゆる恋人繋ぎになってるし。
「いや……、ではないから困る……」
素直に言ったら、くつくつと笑ってる。
「え、と、改めて聞くけど、ジークハルトさんは、その……、当時からローザのことをそういう意味で、好きだった……の?」
ううう。非常に聞きづらい話題だけど、成悟さんに会えない間にずっと考えて、とりあえず聞きたいことがこれだった。
「うーん、ジークの時は確かに溺愛してたけど、やっぱり娘としての愛情だったよ」
意外にあっさり言ってのけた。
「そ、そうなの?こう言ったらなんだけど、私に向けてくる圧……というか、執着っていうか、愛情っていうか……、がすごいじゃん?だからローザの時はどうだったのかな、って思って……」
自分で言って恥ずかしくなってきた。
成悟さんを見ると、繁華街のキラキラした明かりの中、ゆったり微笑んでた。
「うん。確かに相当ウザイパパだったかも。だって、ローザメチャクチャかわいかったんだよ?社交界デビューしてから、そりゃあもう結婚の申し込みが殺到して。でも、そうなることを見越してすでにダリウスと婚約してたんだけど。それでもすごくて。ダリウスに決める時も、国中の条件と性格のいい貴族のリストから絞りに絞って選んで……」
「確かに、守谷さんと似てたなら、メチャクチャモテただろうなぁ……」
思わずポツリと呟いた。
更にはダリウス様、そんな風に選ばれてたのね。溺愛パパが選んだ安心出来る男……のハズが今や高坂先輩……、って考えたらなんか笑えてきた。
「ふふ、多喜は笑ってるのがかわいいね」
キレイな顔の甘い微笑みでそんなことを言われたら、真っ赤になるに決まってる。
と、気付けば駅に向かう道からズレて、住宅地のある方面に向かって歩いていた。
「あの、成悟さん?」
繋がれた手を、ちょっと引っ張ってみる。
成悟さんが前を向いたまま言った。
「他の、誰にも言ってないことがあるんだけど……。ウチに来てくれますか?」
急に敬語になった。
「なに、その言ってないことって……」
「守谷さんはローザじゃないよ」
真剣な顔で成悟さんが私を見た。
「……さっきは、十中八九って言ったくせに?」
忍ちゃんにすら言えないこと?
「行く。聞かせて下さい」
私も敬語になった。
繋いだ手が、ぎゅうと力強く握られた。




