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26: 俺しか知らない話 2

「彼女は大丈夫でしたの?」

 車に戻ると、いかにも心配そうな顔をして聞いてくる彼女が当たり前のように助手席に座っている。


「君の家は?」

「まあ、もう少しお話したいわ。だって、やっと会えたんですもの」

 見た目はローザにソックリ。笑い方も。しぐさすらも。

「確かに。もう少し話してみたいかな。でも、とりあえず今日は送ろう」

「わかりましたわ」

 ちょっとふてくされた顔が、幼い頃のローザと重なる。

 案の定、都内でも一等地のセレブが多く住む住宅街へ案内された。


 車を走らせ始めると、彼女はキャッキャとはしゃいで自分のことを話し始めた。

 守谷 里麻(もりや りま)

 18歳の女子高生。母親と父親の三人家族。

 ずっと都会暮らしの生粋のお嬢様。


 この子の目的は……、なんだ?

「君は……、いつ頃思い出したの?」

 思いきって、聞いてみた。

「物心ついた時からうっすら覚えてたんです。あの世界のこと。大きくなるにつれ、記憶がハッキリしてきて……。そしたらお父様にすごく会いたくて……、会いたくて……。ずっと、探していたの……」

 垂れ目がちな目尻から、ボロボロ涙がこぼれ落ちている。

 多分、普通の人ならこれで庇護欲を煽られて、彼女を守って慰めたくなるんだろう。

 でも俺にはあんまり響かなかった。


 延々と続く高いシンプルな塀の向こう側には、きっと大きい豪奢な建物があるのだろう、と想像させるには十分な距離を走った所でデカイ門が現れた。

「中に入って下さい」

 と言うのを丁重にお断りして、門の前で降ろした。

「また、お伺いします!葉山先生」

 ニッコリ笑ってそう言われた。

 こちらは自分のことを何一つ話していないのに、彼女は俺のことを知っている……。

 別れた後に、不信感が募った。


 *****


 その翌日から毎日大学に顔を出すようになってしまった。

「成悟さんは何を専攻されてるの?」

「君は学校はどうしたのかな?」

「いやだ、お父様。君なんて他人行儀ですわ。里麻、って呼んで下さい」

「だから、君のお父様じゃないから」

「私の研究室で不毛な会話するのやめてもらえないかな?」

「まあ、陛下。不毛じゃありませんわ」

 槙教授が入室を許してしまってから、平気で研究室に来る。

 彼女の目的がよくわからないまま、多喜と会わすわけにいかず、必然的に俺も多喜と会えなくなってしまった。

「君は私のことは覚えているのかな?」

 槙教授が面白そうに机に寄りかかりながら、聞く。

「もちろんですわ。デビュタントの時は大変お世話になりました」

「ふむ。何があったかな?」

 槙教授がわかっててわざと言ってることは分かった。

「私、社交界へのデビューが、嬉しすぎて受かれてましたのね。エスコートしてくれたダリウス様に飲み物をかけてしまって……。そしたら陛下がすぐに替えの服をご用意下さるよう手配して下さって。あの時は本当にありがとうございました」

 言い淀むことなくあの時のことを話す姿は、嘘をついてるように見えない。

「そうだった。そのダリウスには会ったのかな?」

「ええ!お会いしました。でも、ダリウス様すっかり様子が変わられてて……。ビックリしましたわ。ビックリといえば、ユリウスもまさか女性になってるなんて……」


 槙教授との会話を聞いていると、懐かしくなる。

 前世ではよく、ローザは私の仕事場に差し入れを持ってきては、政務の隙にやってくる陛下とたわいもない会話をしていた。

 まさに今のように―――


 *****


「彼女が、ローザなんじゃないのかい?」

 数日間、彼女と話した槙教授に言われた。

「なるほど。そんなに違和感がなかった、ということですね」

「……。ということは、君の中では彼女はローザではない?ではあの娘は誰だ?転生者ってことは間違いないだろう。あそこまでローザのことに詳しい人物がローザ以外にいるのかい?」

 確かに。ローザ本人にしかわからないようなことまで彼女は話している。


「はあ……。多喜が足りない……」

 槙教授が器用に片眉を上げた。

「そんなことを呟くようなら、他のに構ってないで会いに行きなさい」

 グランディス王は俺のことをよく分かってる。だから、彼の言葉はある意味、俺にとっての啓示だ。自分で自覚してないことも、王に言い当てられると、ものすごい納得感がある。

「……そうですね。そろそろ限界……」

 あの、ふわりと柔らかい笑顔と雰囲気に、すぐさま触れたい。

 一度触れてしまったら、もうなかった時に自分がどうしていたのかすら思い出せない。

 そうして多喜を探していたら、なぜか浅見先生とカフェテラスで向かい合わせで座っているのを見つけた。




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