24: 保留
誤字脱字報告、ありがとうございます!
新しいスマホにしたら、タッチの感覚が違くて誤字祭り……。修正しつつ頑張ります!
「正直、困惑してる」
今日は槙教授が外出中でいないのに、教授の部屋にいる。成悟さんが鍵を預かっていて、仕事ももちろんたけど、こういう時にも好きに使っていい、と言われているらしい。
今日は浅見先生も入ってきた。
「あの子、どうやってジークのこと見つけたの?」
浅見先生は置いてあるコーヒーメーカーを使って、勝手にコーヒーを入れ始めた。ゴポゴポとお湯が沸く音がし始めると、いい香りが漂う。あれ?先生、さっきもコーヒー飲んでなかったっけ?
それに対して特に咎めることもなく、成悟さんが話始めた。
*****
私がショックで倒れた時、成悟さんは病院まで運んで、診察まですませて、帰りのために車を借りに駅前のレンタカー屋まで行ってくれた。
その時に声をかけられたらしい。
「あー、そりゃ、つけられてたね」
コーヒーを啜りながらこともなげに浅見先生が言った。
「やっぱり、そう思うか」
ビックリしてる私をよそに成悟さんまで同意した。
「多分、もっと前から俺のことに気付いてたんだと思う。なんでこのタイミングだったのかはわからないけど」
「でぇ?あの子はローザなの?」
思わず私がピクリと反応してしまった。
今、成悟さんは私の隣に座ってる。テーブルの下で手をそっと握られた。
「……それさ、保留」
……ん?
思わず成悟さんの顔を見る。
「保留」
キレイな顔が私の方を見て、もう一回言った。
「なっ、なんで?」
だって、あの子がローザなら、私、関係ないじゃん。この、今までモヤモヤしてたものが、いいのか悪いのかわからないけど、ハッキリはするじゃん!
力が入った繋がれた手を、スリッと撫でられた。
「もうちょっと、様子を見させて。ユリウス達にもそう言った」
「ふーん、アタシはいまいちピンと来ないからさ、成悟にまかせるけど」
浅見先生はコーヒーを飲み終わると「進展があったら知らせてよ。じゃあねん」と、あっさり去って行った。
静かになった教授の部屋で、久しぶりに成悟さんと2人きり……。
「多喜……。前に、言ったこと覚えてる?」
手を繋いだままこちらに向き直った成悟さんが言った。
「……。ローザじゃなくても、ってやつ?」
こくん、と頷いた。
あの時は、ローザじゃない自分を成悟さんに受け入れてもらえるか不安だった。
でも今は、自分がローザだった時、それを自分が受け入れられるか自信がない。
「ごめん、なさい。なんか、よくわかんなくなってきた」
ちょっと距離をおいて考えたい……、そう告げようと思ってたのに、成悟さんに先回りされた。
「離れていかないで、とも言った」
確かに。言われた。
スルリと、相変わらずなんの障害もなく手が頬に触れる。成悟さんはほっぺ触るの好きなのかな?
「んっ……」
この馴染みやすさは親子だったから?
あの子は、成悟さんとどうなりたくて近づいてきたんだろう?ただ、懐かしくて?
それとも他に何か目的があって?
「多喜も困惑してるの、分かってる。考えたい、っていうならいくらでも待つ。でも、俺から離れたり、諦めることは出来ない」
……。
それって。
「え、と。それは最終的に、私が折れるか、諦めるしかない……ってこと?」
それでなくてもキレイな顔が、優雅にニッコリした。
「なんで?なんで私なの?」
言ってから気づいた。結局行き着く所はこれなんだ。最初っから「なんで?」って言ってる。
「なんでかな。実は俺も分かってない。理由とかじゃなく、もう本能的に俺は多喜じゃないとダメなんだ……」
頬にあった手が頭をなでて、髪をすべり、肩に来た。
肩を捕まれたまま、成悟さんが停止した。
多分、いつもならこのまま抱きしめられてる。
「……成悟……さん?……」
顔を見ると、愛おしそうな悲しそうな、何かを堪えてるような、微妙な表情をしている。
「ごめんね。ごめん……。それでも、多喜を手放せない」
それに対して、まだ答えを出せない私が自分でもどかしかった。
*****
午後の授業をこなして、夜は成悟さんと久々にごはんを一緒に食べる約束をしたので、待ち合わせ場所に向かおうとした。
忍ちゃんは、私が倒れてから何度となく心配してくれてて、時間がある限りは一緒にいてくれてる。今も待ち合わせ場所まで送る、と言って2人で大学の職員用通用口にいた。
「兄さんと待ち合わせは別にいいんだけどさ。待ち合わせ場所、本当にここ?」
職員用通用口、という名前で校内の地図には載っているけど、実際は先生方は普通に正門や裏門を使っているので、ほとんど利用されていない。人通りもなく、門の向こう側の公道を車やたまに人が通りすぎるくらいだ。一応、ちょっと離れた所に守衛室らしき建物はあるけど、中に人はいなさそう。防犯カメラが見える所にあるのが、唯一の防犯対策かな、くらいの感じだった。
普通の民家レベルの小さい門は、だいぶ錆びている。
「うーん、そう言われたんだけど……」
2人して人が来ない門の前で立っていると、門の外側から彼女がひょっこり現れた。
「こんにちは。ユリウスと……、関口さん?」
ニッコリ笑って登場した守谷さんは、セーラー服に通学カバンを持って、下校中に寄り道したようだった。




