23: 思い出せませんわ
あの病院で現れた後、あの子はみんなの微妙な空気をまるっと無視して、一人でものすごくはしゃいでいた。
「まあ!ダリウス様!大変ご無沙汰しております。覚えて……おいででしょうか?」
それに対して、高坂先輩は無言で彼女を凝視している。
私はといえば、さっきの忍ちゃんが言った言葉が頭の中にこびりついて、同じように彼女を凝視するしかなかった。
―――ローザにそっくり
その子は、色白の肌に上気した頬は桃色でつるんとしてる。学生だし、メイクはしてないだろうに、睫毛はバサバサでたれ目がちな大きな瞳はものおじせずここにいる皆を見ている。ちょっと茶色がかった髪は背中まであって、天然のくせ毛なのかフワフワとして、彼女のおっとりした雰囲気と合ってる。
どの辺がローザと似ているんだろう?
とりあえず、田舎くささが残る私とは全く違う生き物だとわかった。
しかも、よく見ると着ているセーラー服は、大学の近くにある名門お嬢様学校のものだ。
「ユリウスも、久しぶりね。女の子になってたのね。嬉しいわ、また仲良くしましょうね?それにしてもお父様の周りはすごいわ!こんなに転生者がいるなんて!私、ずっと一人で、私だけがおかしいのかしら、ってずっと思ってたの」
そう言って、成悟さんの腕に当然のようにすがりついた。
胸が、痛い……。
「それで……、ごめんなさい。あなたは誰だったのかしら?思い出せないわ」
真っ直ぐ私を見て、本当に申し訳なさそうに言った。
自分の顔が無表情になってるであろうことは分かった。
「多喜、病院の手続きは済んでるから、もう帰っていいって。家まで送るよ」
成悟さんが腕にくっついてる彼女をグイっと離して、ベッドに近づいて来た。
手を貸そうとする成悟さんをやんわり押し返して、自分でベッドから下りて靴を履く。
「多喜ちゃん……」
差し出された忍ちゃんの手を握って、そのままゾロゾロ駐車場まで行った。
成悟さんはわざわざレンタカーを借りてくれたようで、4人乗りのそれに全員は乗れず、忍ちゃんと高坂先輩は自力で帰るから、と私達を見送ってくれた。
そう、私達……。
セーラー服の彼女は当然のように助手席に乗って、「具合が悪いようですので、後ろで横になっていてかまいませんよ」と、言った。
成悟さんが何かを言おうと口を開けた所で、私が「お言葉に甘えます」とサッサと後部座席に座った。
さすがに寝なかったけど、後ろから2人を見ていた。
信号で止まる度、成悟さんが後ろを振り返って私を見る。けど、あの不安そうな瞳と目が合うと、私も何も言えなかった。
「お父様、そろそろ学校が夏休みになりますの。そしたらうちに来て下さいます?」
「……その、「お父様」っていうの止めてもらえるかな?年齢的にも君みたいな娘がいる歳でもないし」
「あら、ごめんなさい。再会出来たのが嬉しくって。えっと、成悟さんはお住まいはどちらに?」
『成悟さん』
喉の奥に何か詰まってるみたいに、息苦しい。
前の席で話している会話が遠くに聞こえる。
―――なんだ、やっぱりローザは別にいたじゃん。
私じゃないんだから、思い出せるわけなかった。
なんでみんなが私がローザだとまちがえたのかわからないけど、本物は別にいたのだ。
でも、そしたら、成悟さんはどうするんだろう?
『多喜が、ローザじゃなくても好きだよ』
あの言葉を思い出す。
あの時はそう思っていても、こうして本当にローザが現れたら、また気持ちも変わるだろう。
そうだ、娘だった問題もあった。
倫理的なことにものすごい抵抗があったけど、私がローザじゃないなら大丈夫じゃん。私、関係ないじゃん……。
関係、ないじゃん……。




