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22: 違います

 お昼前のカフェテリアはまだ授業中の所もあって、人がまばらにいるくらい。

 目の前に座るいつもの白衣の浅見先生は、さっきから何も言わず黙々とペペロンチーノを食べている。

 フォークを握る細い指には綺麗に濃いめピンクのマニュキュアがしてあって、先日の妖艶な姿を思い出させる。

 その目線に気付いたのか、チラリとこっちを見て言った。

「マニュキュアはいいんだけど、指輪は実験の邪魔になるからダメなのよ。おかげで結婚指輪も着けてられない」

「……はあ」

 あまり食欲がわかないから、お昼前にカフェでアイスティーを飲んで済まそうとしてたら、なぜか浅見先生が同席してきた。

 ん?

 結婚指輪も着けてられない?

「先生……、ご結婚……なさってたんですか?」

「そうよお。知らなかった?」

 知らないっつーの!

「元妻」発言に振り回されたけど、前世の話を聞いて分かったことで、別の複雑な感情になった。

「え……と、ローザのお母さん?なんですよね?」

 いまいち、というか全く「母」という感じがしなくても一応聞いてみた。

「義理だったけどね」

 最後の一口を食べ終えて、ブラックのコーヒーを持ち上げながら言った。

「ローザの本当の母親、イリヤ妃は病弱でね。ローザを産んだ後ずっと伏せっていて……、数年後に亡くなったの。で、そのまた数年後に再婚したのが、私の前世、メレディアってわけ」

 あっけらかん、と言ってるけど私はまだ聞いてない話だったので、内容も内容だし少なからずショックだった。

「で?成悟とは?」

「……」

 そんなの、私が聞きたい。

 ―――と、いうのもあの謎の女の子が現れてから、成悟さんとパッタリ合ってないから。

 いや、女の子が現れてから、なのか、ローザの父親だと私が知ってから、なのか、どっちなのかどっちもなのか……。

「……あの守谷 里麻(もりや りま)とかいう子が現れたら、アンタは用なしってわけ?」

 カッと頭に血が登ったけど、次の言葉で冷静になった。

「だから、やめとけって言ったのに」

「先生……、それって……」

 コーヒーカップを置いてこっちを見た。

「あのさ、関口さんは本当に成悟のこと好きなの?前にも聞いたけど、イケメンに迫られて絆されてるだけなんじゃないの?」

 前みたいにちゃかす感じではなく、まっとうに聞いてきた。

「違います」

 即答出来た。

「……ちゃんと、好き……」

 言ってから、涙がボロボロ落ちてきた。

「ちゃんと、成悟さんのこと好き……。なのに、いろんなことが絡まりすぎて、頭でっかちになってるの……」

「ん。ちゃんと現状把握できてんのね。素直でよろしい」

 浅見先生がハンカチを差し出してきてくれた。


「アタシはさ、関口さんがローザなのかあの守谷とかいう子がローザなのか、よくわかんないのよね」

 私が泣き止んだ所におもむろに浅見先生が言い出した。

「継母だったし、私はあんまりローザと接してないの。だからよくわからない。見た目はあの子はローザに似てる。でも、ジークもユリウスも前世と見た目、性別すら違うし、関口さんがローザじゃないとも言い切れない」

 覚えてない私は何も言えない。

「ジークがさ、前世の時もローザをすごい溺愛してたのよ。まあ、面白くはなかったわ。でも転生してもそうなんてすごい執念よねぇ……」

 執念……。確かに、それは感じてた。

「アタシはさ、成悟に会う前にもうこの生涯の伴侶を見つけちゃったし、また成悟とどうにかなりたいとは思ってないの」

「……。あんなにくっついてたじゃないですか」

 ちょっと恨み節が出てしまった。

「まあ、イケメンだし?アイツ、無愛想にはなったけど、基本優しいから元妻を無下に出来ないのよね。しかも私にアナタが思い出せてないからって、余計なこと言わないようにって……」


「余計なこと、言ってる」


 後ろから機嫌の悪そうな声がした。

 振り返れば、疲れた顔をした成悟さんがいた。

 心なしかスーツすらヨレてるような気がする。

「あら、今日はあの子はいないの?」

 わざとらしく浅見先生が聞いた。

「一応、女子高生なので、平日は学校に行くように言いました」

 タメ息混じりに言って、普通にストンと私の隣に座った。

 とたん、じっとこっちを見た。

「多喜、あれからちゃんと話出来なくてごめん。今夜時間ある?」

「……うん」

 頷いたら、ふにゃりと微笑んだ。あっ、この緩んだ顔、久々に見たな……。


「で?あの子は何なの?」

 そろそろ学生が増えはじめて混んできた。

 浅見先生が食べ終わった食器を戻すため立ち上がったので、私も成悟さんも一緒に席を離れた。

「何なの、っていうか浅見先生、完全に傍観者として面白がってるでしょう」

 成悟さんがジト目で浅見先生のことを見るも、浅見先生はニヤリと笑って「当たり前じゃん」とのたまった。

 そのまま三人で槙教授のいる研究室に向かった。この話がゆっくり出来る場所って、なったらそこしかなかった。


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