21: だけ
ショックのあまり気を失う。
って、ドラマやマンガの中だけだと思ってた。
まさか、自分がそうなるとは。
「ごめんて。だって、聞いてなかったし」
「そうだけど!多喜ちゃんが、どれだけショックだったか……」
気がついて、視界に入る白いカーテンが、ここが病院だと教えてくれた。
声は忍ちゃんと高坂先輩のようだ。
「ユリウスは……、いや忍は関口さんのこと好きなの?」
はあっ!?
「はあ!?」
あ、忍ちゃんと被った。
「何言ってんの!女の子同士だし!」
「ふーん。じゃあ、俺チャンス有り?」
「えっ!兄さんとライバルになるつもり……?」
忍ちゃん。多分、それ違うー!
しばらく沈黙した後、衣擦れの音がして、「忍……」と高坂先輩の甘い声がした。
ちょ、ちょっと待って!私、起きてるんだけど!!
でもでも、今出て行くのは相当な勇気がいる!だって、カーテンの向こう側で何が起こってるか……
などと考えてたら、バチーン!という音が綺麗に響いた。
「こっこっこっ、こんなのダリウスじゃないー!」
「ってぇ……。だから、言ってんじゃん。俺は高坂侑哉だっつの」
高坂先輩の言葉にハッとしたら、突然シャっとカーテンが開いた。
「起きてるでしょ。関口さん」
気まずいながらも2人を見たら、高坂先輩の頬に見事に紅葉が付いてる。
忍ちゃんは珍しく顔が真っ赤だ。
「ご、ごめんなさい。出るタイミングが掴めなくて……」
「多喜ちゃん、大丈夫なの?」
「うん……。ごめんね。ここ病院?運んでくれたの?」
「あー……、それは兄さんが……」
「誰にも触らせてくれなくて、お姫様抱っこでここまで来たんだよ」
忍ちゃんが言い終わる前に高坂先輩が被せてきた。
おひ……、お姫様抱っこ……。
倒れたの、カフェだったよね……。しかも結構繁華街の。ここがどこの病院かわからないけど、とりあえずものすごい注目を浴び続けたであろうことは想像できた……。
1人恥ずかしさに悶絶して気づいた。
「せ、葉山先生は?」
「車を借りに行ってくれたの」
「……大丈夫なのに……」
やたらと過保護なのは、父親だったからなのかな?と、思いついて、さっき聞いた衝撃の事実にため息が出た。
えー、と。なんだこれ?私、どうしたらいいの?
成悟さんは前世お父さんだった。
で、今は彼氏。
でも、私は前世のことは全然覚えてなくて―――
「……2人は、成悟さんがローザの父親だって、知ってたんたよね……」
「多喜ちゃん、ごめ……」
「違う」
冷静な高坂先輩の声。
忍ちゃんと2人で高坂先輩を見ると、いつになく真剣な顔をして続けた。
「葉山先生がローザの父親だったんじゃない。ジークハルト・コールドウェル伯爵が、ローザの父親だっただけだ」
―――だけ。
「あのさ。俺から見るとお前らは前世にとらわれすぎてる。覚えてない関口さんまでも。俺だって、ダリウス・アルバートの記憶はある。あるけど、今は高坂侑哉だ。2人は全くの別人だし、俺は前世は前世だと思ってる。だけど、お前らはそうじゃない。なんでだ?そこまで気にしなきゃいけないか?」
忍ちゃんと2人、黙ってしまった。
確かに、高坂先輩の言うことは一理ある。
「……一番、とらわれてるのは、多分兄さんだと思う……」
忍ちゃんが言った。
「関口さんは?覚えてないんだろ?」
こくんと頷く。
「ダリウスはローザの婚約者だったけど、その流れで俺と付き合うか?」
即座に首を振った。
今までの高坂先輩を考えると、常に女の子を連れてた(もしくは逃げてた)ような人となんて付き合えない。
っていうか、
「こんやくしゃ……」
「そう。もちろん、伯爵も公認のな。ダリウスはローザのことを好きだったよ」
「……う、そ、そうでしたか……」
覚えてないけど、照れる。
「でも、今にして思うと妹みたいに思ってた。当時は他に好きになった子がいたわけでもなく、親に決められたけどローザを大事にしたいと思ってたよ」
覚えてなくて申し訳ないけど、そう聞くとダリウスという人が、とても誠実でいい人だったんだな、と思った。
「ダリウスは……、見た目は地味だったけど、すごく真面目で怒ったとこなんか見たこと無いくらい温厚で、いい奴だった……」
忍ちゃんがポツリと言った。
「こんなに……、こんなにチャラくなかったのにぃー!」
えええ?急に泣き出した。
「だからー、今の俺はダリウスとは別人だっつの」
そこに、控え目なノックの音がした。
忍ちゃんがドアを開けると、成悟さんがいた。
私と目を合わせてくれない……。
「こんにちはっ!」
聞きなれない女の子の声がして、成悟さんの横からピョコンとセーラー服を着た女子高生と思われる子が顔を出した。
とたん、忍ちゃんと高坂先輩が固まった。
「ローザに、ソックリ……」
忍ちゃんが呟いた。




