19: だから
「で?今、その状態なわけ?」
忍ちゃんの目が半目になってる。
ええ、ええ、わかってますとも。
さすがに大学内では絶対にやめて!と念を押したのでやらないけど、それ以外の場所では成悟さんが常にピッタリくっついてくるようになってしまった。
で、今、忍ちゃんと成悟さんと、既に行きつけとなったカフェにいるのだけど、前回と違って向こう側に忍ちゃん、私と成悟さんが並んで座ってる……。座ってるっていうかくっついてるっていうか、腰を常に抱かれて絶対逃がさない感がすごい。
私が離れたからか。
「まあ、落ち着いたなら良かったけどさ」
そう言ってカフェオレを飲む忍ちゃんに、成悟さんがちょっと声を落として言った。
「っていうかユリウス、あの時なんで走って逃げた?」
わあ、私が忍ちゃんを掴んだせいで、とばっちりが……
「あっ、伯爵」
後ろから聞き覚えのある声がした。
振り返ると、右と左に女の子がぶら下がってる高坂先輩がいた。
「やだー、伯爵ってなに?葉山先生のこと?」
右側のボブカットの可愛らしい女子が声を上げた。
「葉山先生とは、はじめましてですね。相変わらず溺愛?彼氏でも出来たら大変だな」
と、先輩はクスクス笑った。
「やだ、侑哉知らないの?葉山先生この子と付き合ってるわよ」
左側のアッシュブラウンのロングストレートが似合ってる美人さんが、私を指差して言った。
とたんに、高坂先輩が固まった。
「えっ……。父娘なのに……?」
「ダリウス、待っ……!」
高坂先輩と忍ちゃんの声が重なった。
………………え?
重なったけど、ちゃんと聞こえた。
―――オヤコナノニ?―――
ゆっくり成悟さんの顔を見たら、完全に表情が抜け落ちて無表情になってる。
「え?……は?ど……ういうこと?」
指先からスーッと冷えてきた。
「……もしかして、知らなかった?」
高坂先輩が言った声が遠く聞こえる。
「ローザは……、ジークハルトさんの、娘……、だった、の?」
だから?
だから、私にローザのことを教えてくれなかった?
だから、あの時の「ごめん」?
だから、私のあの変な罪悪感?
っていうか、ジークハルトさんは……、ジークハルトさんは自分の娘を愛していたの?
腰にある、成悟さんの手にぐっと力が入った。
いつの間にか私の体がブルブル震えてる。
え?私、自分の父親と付き合ってるの?キスしたの?
「多喜ちゃん、大丈夫?」
忍ちゃんが席を立ってこちら側に来てくれたけど、言葉も見えてるはずの映像も、全てガラス越しの現実感のない感じ。
自分の手すら、これが私の手かどうか自信がない。
両端から暗転する視界の中で、成悟さんの表情だけが、見えない―――




