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17: 別れます

 頭で考えるより先に足が動いてた。

「多喜ちゃん!」

 忍ちゃんが呼ぶ声が聞こえるけど、聞いてない。

 カフェテラスに入って、奥にずんずん進んだ。昼前だけど、そこそこ人がいて、ザワザワと噂する声がうるさい。

 入学式からずっと噂の的で、今更周りから注目されてることに、もう気にすることをやめた。

 完全に近づく前に成悟さんがこっちに気付いた。

「多喜!体調良くなったんだね。だいじょ……」


「別れます」


 いつもの甘い微笑みが、そのまま固まった。

「では、失礼します。()()()()

 浅見先生が面白そうにこっちを見ているが、何も言わない。

 くるりと向きを変えて元来た通路を戻る。

 出入口手前で、追いかけてきた忍ちゃんと目線が合った。

「多喜!待って!」

 呼び止められても振り返りもせず、忍ちゃんの腕を掴んで早足で店を出る。

 最初、あっけにとられた顔をした忍ちゃんが、ぐっとまたあの凛々しい顔になって、私の手を繋ぎ直した。

「多喜ちゃん、走って!」

 急にぐんとスピードをあげた忍ちゃんに引っ張られながら、店から出た通りを走った。

「ユリウス!」

 成悟さんの焦った声がする。焦りすぎて前世の名前呼んでるし。

 でも、今、私を引っ張って走っているのは、とってもかわいらしい顔をしてスカートを翻して走ってるけど、多分、忍ちゃんじゃなくてユリウスだ。


 東西通りから、忍ちゃんは私の知らない小道に入って見覚えのない建物の裏にまわって止まった。

 2人ともゼーゼーと息を切らして壁にもたれた。

「ヤバい……、こんなに、走ったの……、高校の、部活ぶり……」

 忍ちゃんが途切れ途切れに言った。

「……何、部?」

「陸上。……短距離」

「意外……」

 お互いまだ息が整わず、カタコトになってる。


「!ごめん、咄嗟に走っちゃったけど、多喜ちゃん病み上がりだった!」

 やっと息が整ってきたあたりで、忍ちゃんが謝ってきた。

「ううん、大丈夫。逆にありがとう。私だけじゃ成……、葉山先生から逃げられなかった」

「……。逃げて、良かったの?」

「……うん。なんか、もー、疲れた」

「別れて、良かったの?」

「……」

 頭に血が登ったのは、確か。

 実家にいる頃、よくお姉ちゃん言われた。

『あんたは、普段大人しく見えるくせに突然行動におこすから怖い!ホントはあんたの中でいろんなこと考えてるんだろうけど、それが表に見えないから、こっちからすると突然キレてるように見えたり、突拍子もないこと言い出してるように見えるのよ。気を付けなさい』

 正に今それをやっちゃったという自覚はある。

 隣から、ふーっと長いため息が聞こえた。

「多少、勢いだったのね?逃がした私が言うのもアレだけど、ちょっと冷静になって考えた方がいいんじゃない?」

「―――怖いの」

 知らない建物の裏は雑木林になっていて、この季節にはいい感じの木陰になってて涼しい。

「成悟さんのことは好き……だけど、成悟さんは私のこと好きなのかな?」

 忍ちゃんがビックリ顔でこっちを見た。

「えっ、そこ?だって、あんなに分かりやすく……」

「それって私――関口多喜のことなのかな?」

 忍ちゃんが黙った。

 2人して黙ってると、さっきからずっとカバンの中のスマホが振動してる音がよく聞こえるようになった。

 取り出してみなくても誰かからなんて分かってる。

 一旦切れた。でもまた規則的な振動音が続く。

「成悟さんは、前世の記憶があるから私を好きなんだと思う。それがなかったら、多分接点なんてなかったんじゃないかな……」

 今度は私のじゃなくて、忍ちゃんのスマホが鳴ってる。でも、忍ちゃんもカバンから取り出すつもりはないみたい。

「それに、前も言ったけど、本当に私?私、何も覚えてない……。成悟さんは、言われなかったけど、思い出して欲しいみたい。でも、ずっと思い出せなかったら?それ以前に私がローザじゃなかったら?」

 忍ちゃんのカバンも静かになった。

「成悟さんの好意が、なくなるのが怖い……」

「多喜ちゃん!それって……」

「時間、ヤバいからもう授業に行こ?私、これ以上休んだら本当にまずいから」

 忍ちゃんが何かを言いそうだったのを遮った。


 *****


 午後の授業をなんとかこなし、久々の大学だったのもあって、夕方、ヘトヘトになって1人暮らしのマンションにたどり着いた。

 両親が「都会は危ない!」と、わざわざオートロックの付いてるマンションを借りてくれて、防犯上はちょっと安心して住んでいたのに、玄関の前には成悟さんが立っていた。




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