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14:伯爵なのに?

「おう……さま?」

 ふふふ、と槇教授は柔らかく笑った。

「もうちょっと説明しようか。まあ、細かいことを言ってもしょうがないからザックリとね」

 そう言って、槇教授が話してくれたのは、お伽噺のような世界のことだった。


 *****


 グラード王国、という国があった。

 北は山に、南は海に、左右は森に囲まれた豊かな国だった。隣国との関係も良好で、戦争や内紛なども数百年はなく、人々はとても穏やかな暮らしをしていた。

 文化的にはこの世界のかつての西洋文化と近しいものがあり、王族や貴族、商人や農民、平民、と階級に別れた身分制度があった。


 そこで、教授は国王として、成悟さんは伯爵として城に仕えていた……


 *****


「今にして思うと、無意識にそっち方面に関わる仕事を選んでいた、という感じだね。もしかしたら関口さんもそうなのかな?」

 と、槇教授に言われた。

「葉山くんは、私の右腕ジークハルト・コールドウェル伯爵。穏やかな人柄で知に長けていてね、国の政策なんかを手伝ってくれてたんだ」

「伯爵なのに右腕?」

「さすが、いいとこに気付いたね。ジークハルトが優秀すぎてね。身分関係なく役職についてもらったんだ」

 思わず成悟さんを見る。

 不安そうな瞳のまま、私を見ながら続けた。

「すぐには……、信じられないかもしれないけど、多喜と俺は その前世で会ってるんだ。新庄さんは、俺の弟だったし……」

「弟……」

 それで私、忍ちゃんが妹っていうのに違和感があったの?

 ちょっと納得して、ハッと気付いた。

「え……、じゃあ浅見先生は……もしかして……、そのジークハルトさんの奥さん?」

 気まずそうにコクンと頷いた。

 あー……、そうなんだ。なんだか妙に気が抜けた。

「とはいえ、政略結婚でね。私がまとめたようなもんだ。前世でも彼女は苛烈な性格で、ジークには悪かったと思っていたんだよ」

 槇教授が成悟さんに向かって言った。

「あのときは……、そうせざるを得なかったので……。仕方ありません」


 ここまで聞いて、肝心なことを言われてない。

 槇教授と、成悟さんを交互に見て言った。


「で?私は……、ローザという女性はどういう関係の人だったんですか?」


 *****


 すっかり暗くなった街の中を、私のマンションまで成悟さんが教授に借りた車で送ってくれた。

 車内では二人とも言葉を発することもなく、私はただ過ぎ行く景色を見ていた。

「……多喜……、その……、信じてもらえた……かな?」

 成悟さんが、ハンドルを握って真っ直ぐ前を向いたまま、ポソリと呟いた。

「いまいち」

 教授共々、嘘をついてるとは思ってない。

 だけど、だからと言って信じるには突拍子が無さすぎた。

「そう……か……」

 力ない声がなんだか可哀想になってきた。私のせいなんだろうけど。

「あ、ここまででいいです」

 マンション手前の車が寄せやすい場所で止めてもらった。

「じゃあ、おやすみなさい」

 車から降りようとしてドアを開けた瞬間、腕を捕まれた。

「多喜っ……」

 振り返ると、成悟さんが悲壮な顔をしてる。

「……ごめん……」

「何が?」

「……ちゃんと、言わないで告白して付き合ったこと……」

「なんで?それを謝るの?」

 ハッした顔をしたあと、気付いたのか顔を歪めた。

「謝るってことは、言わなかった中に謝らなきゃならないことがあるってことだよね……」

「ごめん……」

 成悟さんが、気まずそうに落ちてるのはもちろん分かってるけど、私ももうキャパがいっぱいで、そのまま車を降りてしまった。


 ――― お風呂入りたい。

 いつもは1人じゃめんどくさくてシャワーで済ませちゃうけど、今日は忍ちゃんにもらったいい香りのバスオイルをたらして、ゆっくりまったり何も考えないで、お風呂に浸かりたい。

 お風呂から出たら、これまた忍ちゃんにもらったハーブティーを入れて、最近スマホに入れたお気に入りの曲をヘッドホン付けてガンガンの大音量で聞く。そうだ、実家から持ってきた笑えるマンガをもう一度始めから読み返そう。全37巻もあるから読破するまでしばらく何も考えなくて済む―――


 あー、もう!

 脳みそが考えることを拒否してる。気づいたらすでに自宅のベッドの上にいた。

 成悟さんに、送ってもらったお礼も言ってなかった。

 晩御飯も食べてないけど、お腹空いてない。

 もう、今日は、このまま寝てしまえ。

 ベッドの上で着替えもせずにそのまま寝た。



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