13: 前世?
授業が終わった放課後、葉山先生に西洋史の研究室に連れて来られた。
その後を浅見先生がついてくる。なのに、成悟さんは研究室の部屋に入るなり、浅見先生を閉め出した。
「ちょっとぉ!なんで私いたらダメなの?関係者じゃん!」
浅見先生が鍵をかけたドアの向こうで怒ってる。
それを完全にスルーして、成悟さんは部屋の奥のもう1つあるドアに向かって声をかけた。
「教授!槇教授!」
*****
あの後、授業には遅刻して行った。
気になってしょうがなかったけど、深刻な顔した葉山先生に教室まで連れてかれた。
そうだよね。「先生」だもんね。
でも、別れ際「なんで俺を避けてたかも話してもらうからね」と、ジロリと見られた。
やっぱり気付いてたか……。
ちゃんとお付き合いするようになってから、大学で合わないように避けてた。
まあ、付き合う前も避けてたから行動パターン的には変わってないんだけれども。
あれだけ女子達に注目されてる葉山先生なだけに、私が「彼女」として横にいたらものすごい風当たりを食らいそう……だったのと、私のこの変な気持ちのせい……。
元からスキンシップ多めな成悟さんで、付き合う前からスルリと頬を撫でられたりしてた。
それは自然で、私も嫌悪感も何もなく、あっさり受け入れてた。
なのに、付き合い始めてからの、今までとちょっと違う意味の込められてるスキンシップをされると、なんか心がザワザワする。
親にイタズラが見つかった時のような、悪いことしてるような、いわゆる罪悪感だと後で気づいた。
助手、とはいえ先生と付き合ってるから?
年齢差があるから?
最初逃げてたくせにあっさり付き合ってるから?
自分の罪悪感がどこから来てるのかわからない。
わからないまま、接することが出来なくて避けてしまっていた。
*****
「教授、この部屋お借りしていいですか?」
ドアを開けながら中に声をかけてる。
「んー」
中からのっそり出てきたのは、ビシっとしたチャコールグレーのスリーピースを完璧に着こなしてるイケオジだった。
遠目では見たことがあったので、この人が西洋史の教授、槇 隆之教授だと知ってる。けど、こんなに近くでお会いしたのは始めてだった。
微かに白髪の混じる長めの髪を後ろにフワリと撫で付けて、ちょっとシワのあるタレ目が大人の色気を醸し出してる……。
これは若いとき相当モテてただろうなぁ……、などと考えていたら目が合った。
「ああ、君がローザ穣か」
出た。また関係者か。
「教授、いえ、グランディス王。彼女に説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「なんで君が言わないの?」
「私が言っても……、信じてもらえるか……」
「ふはっ、前世では人たらしだったコールドウェル伯爵ともあろう君が」
二人で会話してるソレは、上司と部下っていうよりなんかもっと堅苦しい感じがした。聞捨てならない単語がいくつか出てきたけど、これからそれらを説明してくれる……はずだ。
「仕方ない。関口さん、こちらに来なさい」
槇教授が部屋の中に私達を促した。
教授の部屋は壁一面本棚で、本がギッシリ埋まっている。
でも、乱雑な感じはなく、キレイに整っているのが、図書館のような静謐な雰囲気を出していた。窓際に大きなデスクがあって、そこが教授の定位置だとわかった。
私と成悟さんは、手前にある応接セット……というよりは作業台に添えてある椅子に座った。
「さて、関口さん。葉山くんから私もある程度聞いてはいるのだが、君は前世のことは全く覚えてないのかな?」
「………………は?」
ぜんせ?
呆けた顔で槇教授をマジマジと見てしまった。
「うーん、この反応。本当に覚えてないんだねぇ……」
感心したように成悟さんに話しかけている。
「ですから、王からご説明お願いします、と……」
からかわれてる……のかとも頭を過ったけど、悲しそうな顔をした成悟さんと思案顔の教授を見て、二人が真面目に話してることは分かった。
と、なると二人してなんていうか妄想?共通の空想の世界に……
「妄想じゃないから」
なんとか自分の納得できる着地点を探そうと、グルグル考えを巡らせていたら、成悟さんの言葉に我に返った。
「本当は前世かどうかも怪しいんだ。ただ、今の人生じゃない、別の人間の記憶があるんだ。私も、彼も」
槇教授が真っ直ぐ私を見て、静かに言った。
「便宜上「前世」って呼んでいるけど、もしかしたら過去でもないかもしれない。パラレルワールドなのか、これからの未来なのか……。私が最初にソレに気付いたのは葉山くんに会ってからだよ。最初は私も混乱した。けれど、よみがえる共通の記憶に、信じる……というより納得した。私が、グラード王国の国王、ハンデル・ザーク・グランディス王だということを」
どーやってもラブコメにならない……




