12: 私の知らない話2
とうとう兄さんと多喜ちゃんが付き合い出した。
そうだよね。結局、やっぱりそうなったよね。
兄さんのあの執着っぷりで迫られたら、多喜ちゃんは落ちるだろうと思ってた。
多喜ちゃんから、朝1番に報告を受けて、お互い違う教室に向かうので別れた。
ボーっとそんなことを考えて、構内の歩道を歩いていたら、後ろから突然声をかけられた。
「あ、こんなとこにユリウスがいた」
「!!」
振り返ると、黒髪をサラリとなびかせたチャラそうなイケメンがいた。
一瞬、誰だかわからなかった。
けど、わかってからビックリした。
「うええ!?まさか、ダリウス!?」
「なにその、まさかって。俺のがビックリなんだけど。それこそまさかユリウスが女性に転生してるなんて。しかもかわいいし」
ニッコリ笑った顔は、私の覚えてるダリウスの笑顔と同じだった。
「こないだローザにも会った。ユリウスとローザがいるってことは、伯爵も?」
「ああ……、まあ、転生してるね……。って、知らないの?」
「知らない。ん?知ってる前提?もしかして伯爵も大学にいるの?俺、美術科だからさ。ちょっと建物も離れてるしこっちまであんまり来ないんだよね」
確かに、この辺りは文系の生徒が多い。美術科は大学内でも正反対の端っこに建物があるから、今までダリウスを見かけたことはなかった。
そして、相変わらずの頭の回転の速さ。
ちょっとしか言ってないのに、そこから導き出す答えを外さないのがダリウスだ。
「……もしかして、美術科の高坂先輩って……」
「ローザに聞いたの?そういや俺、ローザの名前聞いてなかったな。ローザも可愛かったな。失敗した」
本気で残念がってるその様子を見て確信した。
「……。なんかさ、チャラくなってない?」
最初の印象をそのまま言ってみた。
改めて現世のダリウス……、もとい高坂先輩を見てみると、サラサラとした黒髪からチラリと覗く耳たぶにはピアスが数個並んでる。
美術科、というのも納得なモードなファッションで、兄さんとは違う感じにモテそう……。
「はは!まあ、前世ほど真面目じゃないかもね。そういうユリウスは相変わらず優等生っぽい」
「そ、そんなことっ、ない!」
「でも、すっげかわいい。何このウルウルした大きい瞳。プルプルの唇。あ、ほっぺもやわらか~……」
と、言いながら繊細そうな長い指で、ほっぺをスリっと撫でられた。
「ひぃやっ!」
変な声を上げて後ずさってしまった。
「な、なにすんの!?こ、こんなのダリウスじゃない~」
涙目になってきた。
ユリウスの友人だったダリウスは、同じく伯爵家の次男で、品行方正を絵に描いたような人物だった。
「そりゃ、ダリウスじゃないし。確かに前世を覚えてるけど、今の俺は「高坂侑哉」だから」
すぅっと、冷水をかけられたように背中が冷たくなった。
「あ、俺次の授業は外せないんだ。じゃあ、またな!」
そう言って、高坂先輩はなぜか近くの生垣の中に消えて行った。近道でもあるのだろうか?
今の、高坂先輩の言葉がすごく引っ掛かる。
『今の俺は「高坂侑哉」だから』
そうだよね。
私だって、「ユリウス・コールドウェル」の記憶を持ちながらも、「新庄忍」として生きてきた。
特に性別が違って生まれ変わった私は、前世の感情より、今は「忍」としての感情の方が強い。
でも、兄さんは……、葉山先生は多分、前世の「ジークハルト・コールドウェル」の記憶のままに生きてきてる……。
それが、いいことなのか、悪いことなのか、私には判断がつかない……。
「あ……、高坂先輩に多喜ちゃんが覚えてないこと言うの忘れた……」




