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第67話 始業式

 1月8日。始業式。

 冬休みもあっという間に終わり、今日からまた高校生活が始まる。


 日向は、今年の冬休みを振り返ってみる。

 


――思えば、間違いなく人生で最も濃い冬休みだった。

  マモノとの戦い。

  北園さんの予知夢。

 『太陽の牙』を拾ったこと。

  そして、日影ヒカゲの出現。


  このたった二週間にイベントてんこ盛りすぎだ。

  遂には日本を飛び出したし。

  ……けど、これらも結局はじまりに過ぎないんだろうな。



 

 学校の机と椅子(いす)に座って頬杖(ほおづえ)をつきながら、日向はそんなふうに考えた。


 そして、そんな日向をよそに、教室内では多くの生徒が興奮気味に何かの話をしていた。


「ねぇねぇ! テレビのニュース見た!?」

「見た見た! マモノって! ヤバくない!?」


「俺、この間それっぽい生き物見たかもしれん」

「マジかよ!? どこ!? どこで見たんだよ!?」


「そういえば、正月に神社に出た化け物って?」

「マモノらしいぜ。ヤバいよな。この辺でも出るなんて」


 生徒たちが話をしているのは、マモノの話題だ。

 現在、教室ではあちらこちらでマモノの話題が飛び交っている。

 異様な光景である。



 中国での宣言通り、狭山は日本に帰国後、その翌日にマモノの存在を世界に公表した。


 実際のところ、「マモノについて世間にバラす」という案は少し前から国連でも上がっていたらしく、公表の準備はもっと前から完了していたらしい。ゆえに、ここまでのスピード発表が出来たというワケだ。


 マモノの情報は連日連夜報道され、世間は今、マモノの話題が絶えない。

 右を見ても左を見ても、人々が話すのはマモノの話題。

 冬休みの前と後で、ずいぶんと世界が変わってしまった。

   

(まさかこんなことになるなんて、あの終業式の時は思いもしなかったなぁ。ましてや、自分がそのマモノとの戦いの渦中にいるなんて……)


 ちなみに、日向の影は相変わらず無くなっているままだ。影である日影ヒカゲが独立しているためである。鏡に姿が映ることもない。


 しかし今のところは、意外と周囲に影のことについてバレずに過ごすことができている。


(俺は元々クラス内でも影が薄いからこの程度の変化なら気づかれないのだろうか。影の薄さが、こんなところで役に立つとはなー。ははははは……泣けてきた)



 キーンコーンカーンコーンと、ホームルーム開始のチャイムが鳴る。


「おーう。お前ら、席につけー」


 そう言って教室に入ってきたのは、日向のクラスの担任の椚木くぬぎ 錬司れんじだ。


 椚木の担当は英語。

 三十代後半くらいの、チョイ悪な見た目のオッサン教師。

 言動と雰囲気がいかにも不良あがりっぽいので、日向は苦手としている。


(だがあと三か月。そこまで耐えれば俺は二年生になり、担任が変わる。そうなればアイツともおさらばだ)


 密かにそんなことを考える日向。

 そんなことを思われているともしらず、椚木は話を続ける。


「お前ら驚くなよー? なんと、ウチのクラスに中国からの留学生が来た! しかも二人だ!」


 それを聞いて、さっきまでマモノの話題で持ちきりだったウチのクラスが、一気に留学生への興味一色になってしまった。


「留学生!? え? マジで!?」

「うそー!? なんでですかセンセー!」

「すごい急だな! なんで!?」

「男子ですか!? 女子ですか!?」



(さっきまでマモノのことばっかりだったのに、忙しい人たちだ……)


 密かにそんなことを考える日向。

 とはいえ、日向は皆とは事情が違う。

 マモノについてもよく知ってるし、誰が留学してきたかもよく分かってる。


「おーい、二人とも! 入ってきてくれー!」


 椚木先生の声を受けて入ってきたのは、日向にとって見慣れた二人だった。中国で大いにお世話になった、異国の友人たち。


「ハァイ! アタシはジャン 凛風リンファ! みんな、ヨロシクね!」


「あの、ボ、ボク、あの、えっと、あの、あののの」


「シャオシャオ……いくらなんでもあがり過ぎよ……」


「シャオシャオって言うなー! そっちが定着したらどうするんだよー!」




◆     ◆     ◆




「なぁなぁ! どうして留学しようって思ったんだ?」

「シャオシャオくん、カンフーとかやってるの? 見たい見たい!」

「ねぇシャオシャオくん! なにか中国語喋ってみてよ!」

「お箸使える?」


 あっという間に始業式も終わり、自由時間となった現在。


 この通り、シャオランとリンファは他のクラスメイト達にインタビュー責めを受けている。日向も二人に何か声をかけようかと思ったが、あれはしばらく待った方が良さそうだ。


「そんなことないよぉ!? これ以上の緊張は耐えられない! ヒューガ、助けてー! 助けて―!」


「諦めてくれシャオラン。転校生に対する洗礼みたいなものだから。しばらくしたら皆も飽きると思うから」


「せ、殺生なぁぁぁぁ!?」


 シャオランの声を背中に受けながら、何気なく廊下に出た日向。

 するとそこに、知った顔が一人いた。


「お、日向じゃん。お前のクラスに留学生が来たって?」


 そう尋ねてきたのは、田中たなか 剛志つよしという男子生徒。日向と同じ小学校、中学校の出身で、日向の数少ない友人の一人である。だが今はクラスが違うので、日向は肩身の狭い思いをしている。


 田中は日向ほどではないがゲーム好きで、同じ趣味で話ができる貴重な存在だ。中学の頃は同じ剣道部に所属していて、三年生の頃には主将を務めていた。高校生となった今でも剣道部に所属しており、すでに将来の部長と呼ばれているとか。


 身長も180センチくらいあり、ガタイも良い。

 女子からもモテるとの噂もある。

 俺と違ってやる時はやる、出来る男なのだ、と日向は評価している。


「ああ、来たよ、留学生。あの通り、熱烈な歓迎を受けているところだよ」


「どれどれ……うわぁすっげぇ。人がたかり過ぎてどれが留学生か分からねぇや」


 そう言って田中は、呆れたような表情を見せた。

 ……と、ここで突然、田中がかしこまったような様子で日向に声をかける。


「ところでよ、日向」


「ん? 何?」


「俺、好きな人ができたかもしれん」


「おっふ」


 田中は、時々こういう突拍子の無さがある。

 例えば、登場から四番目のセリフでこういうことを言うくらいには。

 

(きっと、頭で考えたことが即刻口に出てしまう病気にでもかかってるのだろう。お大事に)


 心の中で合掌し、日向は田中に言葉を返す。


「恋愛相談なんて俺にされても困るんだけど……。あー、ちなみに、お相手は?」


「実は、まだ姿をチラッと見ただけで、名前は分からないんだ」


「へー。一目惚れってやつ? 青春だねぇ」


「からかうなよー。こっちは真剣だぜ? んで、その人は多分、お前と同じクラスなんだよ」


「え? マジで? どの人?」


「えーと、ほら、背が小さくて、黒いボブヘアーで、目がぱっちりとした……」


(あれーおかしいなー。その人、すごい心当たりがあるぞー?)


 日向が聞いた特徴は、全て北園に合致している。

 なのでさっそく、教室の席に座っている北園を指差してみる。


「……ダンナ。もしかして、あの子かい?」


「なんでちょっと悪そうな商人っぽくなってるんだお前。えーとどれどれ? ……うおおお!! あの子だ! 間違いない!」


(うわぁなんでよりによってお前。なんで北園さんなんだよお前。なんなんだよお前)


 特に北園と付き合っているワケでもない日向だが、何故か間男が現れたような感覚に陥り、心の中で田中に罵倒を浴びせる。


「あの子! 名前は何て言うんだ!?」


「えーと、北園良乃きたぞのよしのさん……」


「北園さんかぁー! ぜひ一度お話してみたい! 日向、その時は力を貸してくれよ!」


「お、おう……」


 田中の勢いに負け、なし崩し的に返事をしてしまう日向。

 それを聞くと、田中は満足そうに去っていった。


「……ま、まぁあれだ。俺って別に北園さんと付き合っているワケじゃないし? むしろ、俺なんかじゃどんな女子も幸せにできないから、付き合う資格とか無いし? よって俺には関係ない話だし……」


 自分に言い聞かせるように呟く日向。

 だが、ふとまた別の思考が頭をよぎる。


「……そういえば、田中がゲームの中で女性キャラを使う時っていつも、小さな女の子だったような気が……。これはやっぱり、田中を止めるべきか? 俺には関係ない話だけど、北園さんをロリコンから守るために……」


「さっきの人、お友達?」


「うおわっ!? 北園さん!?」


 背後からの聞き覚えある声に、思わず変な声で返してしまう日向。そこには件の北園が立っていた。

 ちょうど彼女の事を考えていたタイミングで彼女本人に話しかけられるという偶然に、日向は思わず声を出してしまうほど驚くも、気を取り直して北園の質問に答える。


「あ、あぁ。さっきの奴は田中。隣のクラスの友達だよ」


「へー。日向くん、ちゃんと学校に友達いたんだね。日向くんって普段、友達少なそうだから心配してたんだよ」


「ぐああっ!? き、きた、北園さん、なんて失礼なこと言うんだ。”再生の炎”は、心の傷までは治せないんだぞ……」


「あははは、ゴメンね? 私も友達に数えていいから、許して? ね?」


「ぐぬぬ……許す……」


 満面の笑顔で、両手を合わせながらあざとかわいくお願いしてくる北園に押し負けてしまう日向。

 

(ちくしょう、女子って卑怯だ)


「……ところで日向くん。明日、行くんだよね? 狭山さんが来る家に」


「うん。その予定だよ」


 北園の質問に答える。



 中国で分かれたマモノ対策室室長の狭山は、一旦東京に戻ったが、明日にはこちらに引っ越してくるらしい。狭山について行った日影も一緒に来る。


 だから日向たちは明日、狭山の新居に行って、話し合うのだ。

 今後の日向たちの活動、マモノとの戦いについてを。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新学期が始まって普通の高校生の日向くんを見れて嬉しい反面、影がないことで普通じゃなくなっている事実をまざまざと思い知らされました。 リンファちゃんとシャオランくんの登場で賑やかですね( *…
2022/04/26 23:22 退会済み
管理
[良い点] >特に北園と付き合っているワケでもない日向だが、何故か間男が現れたような感覚に陥り、心の中で田中に罵倒を浴びせる。 分かる! その気持ち!  優柔不断な自分も、高校生の頃そうでした! 日…
[一言] 星の巫女たる少女とのやり取りによって、本作のかなりの謎が解けましたね~!! そして、日影も彼も自我を持った一人の存在として戦いだけではない生きた様子が描かれていて、今まで以上に親しみやすさ…
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