第56話 マモノの山を往く
日向たちは緑豊かな峨眉山を行く。
目指すは「星の牙」、ブラックマウントがいる火口付近の荒れ地。
『前方、マモノを発見!』
『標準! 撃てぇーッ!!』
前方で何やら中国語の会話が聞こえたかと思うと、その次には銃声が聞こえた。どうやら中国のマモノ討伐チームがマモノと戦闘しているようだ。
自分たちも手伝わねば、と日向たちは駆け付ける。
しかし、既にマモノはハチの巣になっていた。
大きなクマのようなマモノだ。
クマと言えば、最初に戦ったアイスベアーを思い出すが、アレより幾分か小さめで弱そうだ。討伐チームのメンバーは、余裕の表情でアサルトライフルのマガジンを入れ替えている。
さっきからこんな調子で、前方でマモノが出現するなり、討伐チームが速攻で片付けてしまう。後方を守っている日向たち五人は、今のところ全く出番が無い。
たしかに、元々彼らには露払いの役目をお願いしているワケなので、これが理想の形なのだろうが……北園の予知夢が無かったら、本当に日向たちが来なくても何とかしていただろうと思える強さだった。
彼らの持つ銃は、前述の通りアサルトライフル。かなり大型の銃身を持っており、マガジンは装弾数30発以上はいけるであろう大容量。
上部にはスコープが付いており、銃口の下には何やらアタッチメントが取り付けられている。既存の銃で言うならば、H&K416あたりが形としては一番近いだろうか。
『お、日向くん、彼らの銃が気になるかい?』
通信機越しに狭山が語りかけてくる。
日向の目には今、コンタクトレンズ型のカメラが装着されている。
その視線が討伐チームの銃にばかりいっているところを見られたか。
「バレましたか。あの銃は、この部隊のオリジナルなんですか? あんな銃、少なくともゲームの中では見たことが無いような……」
『この部隊の、というより、マモノ討伐チームのオリジナル、と言ったところか。あの銃は対マモノ用に作られた特別製だよ』
なるほど、道理で見たことが無いはずだ。
『高い生命力を誇るマモノにも通用するよう大口径、45発の徹甲弾を一度に装填できる。さらに見てのとおりSOPMODにも対応している。一つの銃で多種のマモノに対応できるようにね。彼らの銃には副武装としてショットガンが取り付けられているんだよ。集中砲火を食らわせてやれば自動車だろうと秒でスクラップだ』
「さ、殺意の塊みたいな銃ですね……」
『ちなみにあの銃、自分も開発に関わってるんだ。お褒めに預かり光栄だね』
「あんたが製作者かよ……」
『ちなみに倉間さんを覚えているかい? 彼が使っていた拳銃も対マモノ用の特別製だよ』
「そうだったんですか。覚えていますよ。文字通り、身に染みて……」
『……何か嫌な思い出でもあったかな?』
狭山とやり取りをしていると、再び前方が騒がしくなる。
どうやら再びマモノが出現したようだ。
討伐チームが戦っている音が聞こえる。
『どうやらなかなかに手強いマモノが出現したようだ。君たちの手も借りるべきかもしれないな、これは』
「分かりました。すぐに……」
「いや、そうもいかねぇみたいだぞ」
日向と狭山の会話に、日影が割って入る。
日影が指差す方を見ると、別のマモノがこちらに接近しているのを発見した。
「ウキーッ!」
「ウキッ! ウキッ!」
猿のマモノだ。全部で七匹。
小柄の体躯。薄茶色の毛並みに赤い顔。
一見すると普通の猿にも見えるが、左右二本ずつ、計四本生えた腕が彼らを異形だと物語る。
『”ヨツデザル”だ。ここ、中国でよく見られるマモノだ。爪は鋭く、腕力も強い。オマケに集団で襲ってくる。ハッキリ言って、強敵だよ』
狭山が通信機越しに忠告する。
ヨツデザルたちはひと固まりになったまま、五人の様子を窺っている。
「……いや、まだ何かいるようだ」
本堂が呟き、日向の背後を指差す。
そこには四つ足の大きなマモノがいた。
『”トウテツ”か! また厄介なのが出てきたな! 気を付けろ。凶暴さでは確認されているマモノの中でも屈指のものだ!』
狭山がトウテツと呼んだマモノを、日向は観察する。
灰色のモコモコした毛並みは、その下に隠されているであろう筋肉で膨れ上がっている。
頭にはねじ曲がった角。
口元にはギラリと光る、むき出しの鋭い牙。
ドクドクとよだれを垂らし、爛々と輝く瞳でこちらを見据えている。
トウテツという名前は、中国の神獣「饕餮」から取ったのだろう。伝承通りの、羊と虎が混ざったような外見だ。
(……羊って可愛いのに、虎が混ざるだけであんなに凶悪な見た目になるのか……)
そんなトウテツを複雑な表情で見やる日向。
「ふむ。これは二手に分かれるべきか」
マモノの群れを見ながら、本堂が呟く。
そこに狭山からの通信が入る。
『トウテツは電気を溜めこむ特性を持っている。同じ電気の能力を持つ本堂くんがあれを相手するのはおすすめしないな。本堂くんに有効打が無い』
「なら俺はヨツデザルを。シャオラン、君は?」
「どっちもやだぁ!」
「じゃあトウテツを頼んだ」
「なんでそうなるのぉ!? トウテツの方がやばそうじゃないかぁ!!」
「おっと、悪いがオレも混ぜてくれよ。そっちのマモノの方が面白そうだ。んで日向、お前はサルの方に行け」
「む、人を顎で使いやがって。……まぁ、再生能力同士、獲物が被るのも良くないか」
「ぼ、ボクは喜んで! 是非ともボクを楽させてね!」
これで日向と日影の相手も決まった。
後は……。
「えーと、私はどっちに行こうかな?」
北園だ。
どちらの相手をするべきか決めかねている。
そこに狭山が助け舟を出す。
『日向くんたちの、ヨツデザル組の方についてあげなさい。恐らく日影くんとシャオランくんは、これ以上援護の手が増えるより、少なめの人数で戦う方が向いていると思うからね』
「了解です! というわけで日向くん、本堂さん、よろしくね!」
「うん。頼りにしてるよ」
「ああ。頼むぞ」
『討伐チームの方はもう気にしなくていい。彼らも上手くやっている。君たちは、君たちの戦いに集中するんだ!』
これでそれぞれの担当が確定した。
日向と北園、そして本堂はヨツデザルを。
日影とシャオランはトウテツを。
ブラックマウント討伐の前哨戦、中国ゆかりのマモノたちとの戦いが始まった。




