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第472話 サバイバルの情景

「よっしゃ! ここでワイがとっておきの穴場に案内したる!」


 マモノ島サバイバル、二日目の昼。


 日向たちより先にこの島に流れ着いていた関西弁漁師、海田のその言葉を受けてやって来たのは、このマモノ島の中心部分の森。そこには、リンゴのような果実をつけた木が生えていた。


「おぉ……! こんなところに木の実がなっているとは……! どうにかしてマモノを食べないようにと思って俺たちも探してたけれど、なかなか見つけられなかったんだよなぁ……」


「恩に着るぜ、ウミガメさんよ。んじゃ、オレが木に登って取ってきてやらぁ」


「おっと、それには及ばんわ。ここは一つ、先生のお力を借りるさかいに」


「先生のお力……?」


「せやで。んじゃ……スピカ先生、お願いします!」


「任せたまへー」


 返事をすると、スピカが木の幹に向かって手をかざす。すると、木の実をつけた木がスピカの精神エネルギーに包まれた。念動力サイコキネシスの物体操作である。


 そしてスピカは、木を大きく揺らすように、サイコキネシスを行使している右腕を前後に動かす。すると目の前の木もそれに連動して激しく揺らされ、木の葉と共に木の実がポトポトと落ちてきた。


「どやぁ……」


「こりゃ便利だな。さっそく拾い集めるとするか」


 木の実を拾い集めた四人は、拠点の砂浜まで戻ろうとする。だがその途中で、三つ首の食人草のマモノ、トライヘッドの群れと遭遇してしまった。


「シャアアアアアッ!!」


「邪魔な連中だぜ。やるぞ日向」


「分かった! スピカさんはウミガメさんを守ってください!」


「ほいさー。後ろは気にせず戦いなさーい」


 両手と頭部にハエトリソウ状の大口を持ち、それらで一斉に噛みついてくるトライヘッドたち。油断したらあっという間に食い散らかされてしまうだろう。

 しかし日向と日影は、難なくトライヘッドたちを殲滅していく。トライヘッドは植物のマモノであるため、斬撃に弱い。さらに言うなら火にも弱い。日向たちとしては相性抜群の相手なのだ。


「……よし。これであらかた片付いたかな」


「お疲れー。ところで日影くん。そこにまだ敵が残ってるよ?」


「だから俺は日向です……って、敵? どこに?」


 スピカが指差す先を見てみる日向だが、そこには一本の木が生えているだけだ……と思ったら、その木の幹が妙にブレて見える。そして、その『ブレ』が日向に向かって飛びかかってきた。


「うおお!?」


 反射的に、飛びかかってきた『ブレ』に向かって剣を振り下ろす日向。確かな手応えと共に、透明な何者かを地面に叩き落とした。


「ブブブ……」


 姿を現したのは、巨大は灰色のクワガタのマモノだった。

 日向の一撃がクリティカルヒットし、マモノはそのまま絶命した。


「コイツはたしか……ステルスシザー! アメリカで北園さんやシャオランが戦ったっていうマモノだったな。よくコイツが隠れてるって分かりましたね、スピカさん」


「ふっふっふ。姿が見えなくても、心は読めちゃうからね。何もないはずの空間から、その子の心を読み取ってしまったのだよ」


「なるほど……。ところでコイツ、なんて言ってたんですか?」


「えーとね、『僕たちの楽園さんから出ていけ!』だってさ」


「僕たちの楽園……()()……?」


 楽園、というのは理解できる。ここは人間などまず来ないであろう自然の領域だ。ここにいる限り、マモノたちはのびのびと生きていくことができる。そこに突如としてやって来た日向たちは、マモノたちにとっての侵略者だと思われてもおかしくない。


 しかし、その楽園にさん付けというのは、どういうことなのだろうか。そのさん付けに、いったいどのような意味が込められているのか。


「あるいは、ワタシがこのマモノさんの心を読み違えちゃっただけかもねー。あまりしっかりとは読まなかったからなー」


「最期の心の声をちゃんと読んでもらえなかったこのステルスシザーの心境や如何に……」


 ともあれ、ここのマモノたちは、日向たちがこの島にいることをあまり快く思っていないのかもしれない。日向たちとて好きでこの島に来たワケではないのだが、今後はあまり島のマモノを刺激しないよう心掛けることにした。



◆     ◆     ◆



 拠点の砂浜に戻ってきた日向たち。

 再び焚き木に火を起こし、採ってきた果実を焼いてみる。


「ところでこの果実、いったい何の種類なんだろう……? 日影は分かるか?」


「いや知らん。リンゴっぽく見えるが、変な模様が入ってるな。ウミガメ、これはいったい何の果実だ?」


「ワイも知らんで。漁師のワイに木の実のことなんか聞かれてもなぁ」


「何の種類かも分からずに食ってたのかアンタ……」


「スピカはんは、この木の実が何なのか知っとるか?」


「んー……随分と昔に、同じような果実を見たことがあるような、無いような……。とりあえず、毒は無かったと思うよー」


「せやろな。もう何個も食べてるワイが現在進行形でピンピンしとるさかいに」


「そういえばウミガメさんって、コッテコテの関西弁ですけど、関西に住んでるんですか?」


「いや、今住んでるのは十字市やで。生まれ育ちが大阪なんや。最初はあっちで普通に仕事しとったんやけど、子供の頃からの夢だった漁師を諦めきれんでな。んで、十字市こっちで母方の爺ちゃんが漁師しとるさかい、弟子にしてもろうたんやで」


「はぁ、なるほど……。てっきり、大阪の海からここまで流されてきたのかと」


「んなワケあるかい! 大阪からここまでって、瀬戸内海横断して関門海峡潜り抜ける必要があるやろがい! そんなにどんぶらこ、どんぶらこと流されて……ワイは桃太郎が入ってる桃とちゃうんやぞ!」


「どちらかというと、桃太郎じゃなくて浦島太郎に登場しますもんね」


「せやせや。浦島はんに助けられて、竜宮城へご案内……って違うがなっ! ウミガメともちゃうねんぞ!」


「おぉ……この反応、さすが関西人……」


 ほどなくして、採ってきた果実が焼き上がった。

 試しに焼いたものと焼いていないものを食べ比べてみる日向だったが、焼いた方は甘みが増し、焼いていない生の方は瑞々(みずみず)しく、それぞれ異なる美味しさがあった。


 ふと、日向は上着のポケットに違和感を覚える。

 ポケットを探ってみると、昨日取っておいたドクツルタケが出てきた。


「ああ、これかぁ……。ウミガメさんのおかげで食料にも困らなそうだし、さっさと捨てちゃおうかこんな危険物……」


「おや、美味しそうなキノコ。捨てるくらいならワタシにおくれー」


「え、ちょ……」


 そう言ってスピカは、日向が持っていたドクツルタケをひったくり、なんとそのままパクリと食べてしまった。


 ……食べてしまった。


「……うわぁぁぁぁぁ!? スピカさんが死んだぁー!?」


「て、テメ、何やってんだ!? 大変なことになっちまったぞ!」


「な、何や!? どうしたんや、坊たち!?」


「大げさだなぁ二人とも。ワタシなら大丈夫だよぉー」


「スピカさん、それ毒キノコなんですよ!? 今は大丈夫かもしれませんけど、そのキノコの毒は遅れてやってくるタイプで……」


「知ってるよー、ドクツルタケっていうんでしょ。食後六時間ほどで第一波、それから三日後に第二波が来る。またの名を『死の天使』」


「そこまで知ってて、なんで食べたんですか!? 自殺志願者ですか!?」


「ワタシね、消化器官が人間とは違うんだよねー。だから、これくらいの毒物なら問題なく食せるんだよー」


「…………え? ホントに?」


「ホントホント。もっとヤバい毒も飲んだことあるよ。超酸性で、高塩分で、大量の重金属元素を含んだ水とか」


「間違いなくやばいんだろうけど、専門的過ぎて俺にはそのやばさが伝わらない……」


 ともあれ、スピカ本人曰く、彼女に毒は効かないとのことだ。まだ症状が出てくる時間ではないため完全に安心することはできないが、本人がこう言うのであれば大丈夫なのだろう。


 食事が終わると、それぞれが思い思いに時間を過ごす。

 日影は、このサバイバルもそう遠くないうちに終わると踏んで、思いっきりトレーニングに励むことに決めた。

 海田は、即席の釣り竿で魚釣りを楽しむつもりだ。上手くいけば今夜の晩御飯が確保できる。もっとも、晩飯時には狭山が迎えに来てくれるだろうと日向と日影は予想している。


 そして日向は、木陰で休むことにした。体力を温存するためである。いくら救助が来る望みがあるとはいえ、ここはマモノが跋扈ばっこする絶海の孤島。そして日向たちはサバイバーの身。いつどんな非常事態が起きるか分からない。そんな『もしも』の時に備えての判断だ。


「決して、『ただ単に動きたくないから』とかじゃないんですよ?」


「ホントかなー? 半分くらい『動きたくない』が入ってるように見えるんだけどなぁー?」


「くそ……この人には隠し事ができないな……」


 日向の隣には、スピカも座っていた。

 二人は海の景色や、トレーニングに励む日影、釣り糸を垂らす海田などを眺めながら、一対一サシでの会話としゃれこんだ。


「結局、スピカさんって何者なんですか?」


「さすらいの世捨て人さんだよぉー? ほら、こんな無人島にいるなんて、いかにも世捨て人さんっぽくないかい?」


「世捨て人さんっぽいかどうかは置いておくとして、俺なりに一応、考えてみたんです。スピカさんの正体について。スピカさんってもしかして、幽霊では?」


「おっほほ、そう来たかぁー。どうしてそう思ったのー?」


「この間、本物の幽霊になってしまった人と出会いまして。まぁその人はちゃんと人間に戻ったんですけど。それで、スピカさんほど神出鬼没で謎の多い人物なら、もうただの人間じゃない、もっと特別な存在なんじゃないかなって」


「ほむほむ。いやぁー鋭いなぁーキミは」


「え? その返事……まさか、正解……?」


「いや全然」


「がっくし……」


「そもそも、ワタシはちゃんと生きてるよー。幽霊は物体をすり抜けるけど、ワタシはしっかり触れるよー。ほら、ワタシを触って確かめてみなよー。……どこ触っても良いんだよぉー?」


 そう言ってスピカは腕を組み、たわわな胸部を持ち上げてみせる。

 ニヤリと笑う表情は蠱惑的で、大人の余裕を感じさせる。

 その扇情的な仕草に、日向は思わず目を逸らす。


「こ、こほん。そういうのはいいんで」


「あっははー、ちょっとからかい過ぎちゃったかなー、ゴメンねー。……それにしても、キミたちは幽霊とも出会ったのかぁー。人間でも幽霊になれる人がいるんだねぇー」


「人間でも幽霊に……って、それどういう意味です?」


「まぁ、人間が幽霊になれるかどうかって、体質みたいなものだと思うんだよねー。肉体と魂を隔離しやすいかどうか、って言うべきなのかなー?」


「……なんか、スピカさん、幽霊についても詳しい……?」


「ふふふ、意外と物知りでしょー? スピカ先生って呼んでくれても構わないよぉー?」


「いえ、遠慮しときます」


「ちぇー」


 すました顔でそっぽを向くスピカ。

 見た目は大人の女性だが、その仕草はまるで純粋な子供のようで。

 あるいは、ここにいる四人の中で精神年齢は彼女が一番低いかもしれない、と思う日向であった。



「……最後にスピカさん、一つ聞いても良いですか?」


「いいよー。なんだいー?」


「スピカさんって、歳はいくつなんですか?」


「ほお、女性に歳を聞くかね。……60億歳って言ったら信じるー?」


「信じるワケないでしょ」


「あっははー、だよねー」

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