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第466話 荒ぶる風 荒ぶる海

「ギャオオオオオオッ!!」


 日向の”紅炎奔流ヒートウェイブ”の直撃を受けたはずのスピリットが、再び海から浮上してきた。此方は人間、向こうはマモノである以上、言葉も表情も分からないが、手痛い一撃を受けて怒り狂っているのは確実に伝わってくる。


 海から飛び出し、黒雲がかかる空へと舞い上がるスピリット。

 それを見た日向が悔しそうな表情で歯噛みする。


「仕留め損ねた……!? どてっ腹に直撃させたはずなのに……!?」


「いや……スピリットは、かろうじて”防御”していたぞ」


 日向の言葉に反応したのは、本堂だ。

 スピリットの様子を窺いながら、話を続ける。


「お前の”紅炎奔流ヒートウェイブ”がスピリットに命中する直前、奴が口元に風を集中させて、巨大な風のエネルギー球を作っているのが一瞬だけ見えた。お前のヒートウェイブはそれをぶち抜いたが、恐らくそれがバリアーになって炎の威力を削いだんだ」


「マジかぁ……。今回、けっこう素早く撃ったつもりだったんだけどな……」


 落胆する日向。

 一方、他の仲間たちも慌てふためいている。


「どうするんだ!? 日向の野郎のヒートウェイブは、あと五分待たねぇと再使用できねぇんだぞ!」


「い、一度帰ろう!? そして、ヒューガがヒートウェイブを撃てるようになったらまた来よう! 我ながら良いアイデアだと思うんだけど!? ね! ね! ね!?」


『いや、残念だけどそれは駄目だシャオランくん。あれほど気が立ったスピリットを放置したら、近くの町を襲いかねない。あの巨体が町に落下してくるだけでも、被害規模は想像したくないほどの大きさになるだろう。ここは、日向くんがヒートウェイブをもう一度撃てるようになるまで、引きつけ続ける』


「そ……そんなぁ……。でも、ここで逃げて町が襲われるのもダメだし……」


『総員、再度戦闘準備を! 日向くんのヒートウェイブが使えない以上、今は北園さんの超能力を特に頼りにさせてもらう!』


「りょーかいです!」


『シャオランくんは、引き続きダメコンをよろしく頼む! 沈むのがイヤなら、とにかく損傷を修復しまくるんだ!』


「し、仕方ないなぁもぉぉぉ!」


「本堂くん! 固定機銃の弾丸の装填が完了したわ! また使えるわよ!」


「助かります、的井さん」


 再び日向たちは戦闘態勢を整え、スピリットと対峙する。

 上空から襲い来るスピリットを、日向と本堂が固定機銃で射撃。

 北園が電撃能力ボルテージのビームを発射し、的井が狙撃。

 シャオランは、全力で高速艇の損傷箇所を塞ぐ。


「ギャオオオオオオッ!!」


 スピリットは、口から暴風のビームを吐き出しながら高速艇を追ってくる。背中に乗せていたヘイタイヤドカリたちは、みんな落ちてしまったようだ。

 スピリットが、真下に向かって暴風を吐く。暴風を受けた海面が大きく抉れる。そんな暴風を乱発しながら、高速艇をしつこく追跡する。


『アレに巻き込まれるのだけは勘弁だね! 幸い、命中精度は良くないようだが、しかし、風が強くて船を運転しにくい……!』


 吹き荒れる風により、海も荒れ狂う。

 海面がうねり、ちょっとした高低差が生まれるほどだ。

 油断すると、操縦桿そうじゅうかんのコントロールが利かなくなる。


 そして、強風の影響を受けているのは、狭山だけではない。


「ぶぅぅ!? 正面から強い風が……! これはもう狙い撃ちどころじゃない……固定機銃にしがみついて、吹き飛ばされないようにするのが精いっぱいだ……!」


「く……キツイな……! 皆、振り落とされないように注意しろ!」


「わっとと……!? 立つのがやっとで、電撃能力ボルテージを撃つ余裕がないよぉー!?」


「ライフルの弾丸も、発射途中で強風にあおられて、軌道を変えられちゃうわね……。狙った場所になかなか当たらなくなってきたわ……!」


 スピリットへの攻撃を担当している日向たちも、この強風の影響をモロに受けていた。攻撃の手が緩み、スピリットの攻撃がますます激しくなる。このままでは、日向のヒートウェイブの冷却時間クールタイムが完了する五分を耐え切ることさえ難しいかもしれない。


 この状況を見た日影が、背負っていたマグナムスナイパーライフルを取り出す。


「ちぃ……! ここは少しでも、攻撃役を増やして攻めるべきだぜ!」


 そう言って、日影がスピリットを狙撃する……が、ただでさえマトモに狙撃を命中させられなかったのが、強風による弾丸逸らしまで合わさって、ますます当たらない。日影の弾丸は明後日の方向に飛んでいく。


「クソっ! やっぱりオレじゃ駄目だってのかよ!? こんな状況でも何もできねぇなんて……ああクソ、歯がゆいぜ……ッ!」


 一方、スピリットは更なる動きを見せる。

 上空から暴風を吐いて攻撃し続けていたが、突如として海に向かって急降下。超巨大な水飛沫を上げて海に潜った。スピリットが飛び込んだことで発生した高波が高速艇を揺さぶる。


「うわっととと……!? か、身体が転がりそうだ……!」


「皆、周りの物にしっかりしがみついて! 振り落とされないように!」


 的井の声に素早く反応した日向たちは、咄嗟に甲板上の柵や固定機銃にしがみつき、船からの転落を防いだ。……しかしその間に、スピリットは海から顔を出し、口の前に暴風のエネルギー球を集中させている。巨大な暴風のビームを撃ち出すつもりだ。


「やばい……! 北園さん、”雷光一条サンダーステラ”をっ!」


「り、りょーかい! いっけぇー!!」


 北園の”雷光一条サンダーステラ”と、スピリットの暴風のビームが、本日二度目の激突を繰り広げる。両者、またしても押しも押されぬ互角の勝負を繰り広げる。


 ……と、思われたが。

 ここで高波により、高速艇がぐらついた。


「わわっ……!?」


 北園がバランスを崩してしまう。

 これにより、”雷光一条サンダーステラ”の射線も逸れてしまった。

 拮抗していたパワーバランスが崩れ、スピリットの風のビームが北園の雷光を押し切った。


「あ……!?」


 唖然とする北園。

 暴風のビームが、高速艇に迫ってくる。物凄い勢いで。


「やっば……!」


「皆、何かに掴まれ……!」


 ゆっくり考えている余裕は無い。

 反射的に、弾かれたように、皆は暴風に耐える用意をする。


 まず日向は、構えていた固定機銃にしがみついた。

 日影は、甲板の柵にしがみついた。日向の近くである。


 的井は、操縦室に逃げ込んだ。

 北園もそれを見て、的井に続く。


 本堂は、穴が開いた甲板を修復しているシャオランにしがみついた。


「え、ちょ、なに、ホンドー?」


「嵐が来るぞ、耐えてくれ」


 ……そして、暴風のビームが高速艇を直撃した。

 あまりの風速に、高速艇そのものが浮いた。


 本堂にしがみつかれたシャオランは、立ったままの状態で暴風に晒される。


「あああああああああああああああ!?」


「く……とんでもない風だ……!」


「飛ばされるうううううううう!?」


 と、シャオランは泣き叫ぶが、彼はその強靭な脚力によって、この破壊的な風圧にも吹き飛ばされずに耐えている。本堂がしがみついたことによって重さが増しているのも一役買っているか。


 的井と北園は操縦室に逃げ込んだため、風の影響を受けずに済んだ。船内にて、船が沈まないように必死に祈る。


 日影は、全力で柵にしがみつくことで、なんとか耐え切った。


 そして日向は、風を受けた瞬間、彼がしがみついていた固定機銃が根元からもぎ取られた。


「…………嘘ぉ!?」


 もはや日向は成す術無く、引っぺがされた固定機銃と共に海へ落下した。


「ギャオオオオオオッ!!」


 高速艇に暴風を叩きつけ、日向を海へと落としたスピリットは、そのまま潜航を開始。海に潜り、姿を消した。


 暴風を受けた高速艇は、宙に浮くほどの衝撃を受けたが、事前に狭山が船の向きを調整していたことで、上手く着水。海上で船を横転させずに済んだ。

 いまだに黒雲が空を覆い、風が吹き荒び、海が荒れ狂っているが、とりあえずスピリットが海に引っ込んだので、皆は互いの無事を確かめ合う。


『ふー……危機一髪。みんな、大丈夫かい!?』


「いや、大丈夫じゃねぇぞ狭山! 日向の野郎が落ちやがった!」


『なんだって!? ……けど、そのための命綱だ。日影くん、すまないが日向くんを引っ張り上げてくれ!』


「いや、それが……アイツの命綱が見当たらねぇんだ……。さっき、ヘイタイヤドカリの砲撃で柵が一部破損していたが、アイツはそこに命綱を付けてたのかもしれねぇ……。それで、柵が壊れた時にフックが外れたとか……」


『そ、それはマズいね……。でも、もしも海に落ちた時のためにライフジャケットを着てもらっているはずだから、海面には浮いているはずだ! まずは日向くんを探そう!』


「……あ、サヤマ……」


『うん? どうしたんだいシャオランくん?』


「さっき、ヒューガはヘイタイヤドカリの砲撃を喰らってて……それで、ライフジャケットが破れてた……よ……?」


『…………それ、マジかい?』


「う、うん……」


『これは……大変なことになった……』


 これには、流石の狭山も顔を青くした。


 今の日向は、命綱もライフジャケットも無い。そんな状態で、この荒ぶる大海原へと投げ出されてしまった。たとえ水泳のプロであっても、この強風の中では命の保証は無い。


 日向には”再生の炎”があるが、水の中で溺死してしまった場合、水の中から引き上げられない限り復活できない。溺れた日向を見つけることができれば良いのだが、なにせこの荒れた海だ。ここから数キロほども離れた地点の海底深くに沈んでいたっておかしくない。つまり、捜索が極めて難しくなる。下手をすると、何か月も日向を探し続ける羽目になる可能性も……。


 他の仲間たちにも、表情に焦りの色が見え始める。


「ひ、日向くん……溺れちゃったの……!?」


「落ち着くんだ北園。まだ日向は落ちたばかりだ。猶予はあるはずだ。急いで探そう」


「あああどうしようぅぅ……。あの時、ボクが変なこと言わないで、さっさとヒューガに新しいライフジャケットを着させていればぁぁぁ……」


「みんな、落ち着いて! 急いで日下部くんを探しましょう! シャオランくんは右舷を、本堂くんは左舷をお願い!」


 皆はそれぞれ、落ちてしまった日向を探すために動き始める。

 その中において、日影は……。


「狭山! オレが日向を探しに行く! 今すぐ潜れば見つけられるかもしれねぇ!」


『え!? いや、流石に無茶だよ日影くん!』


「無茶でもやるしかねぇだろ! ここで日向アイツを見失ったら、いつ溺れたアイツを発見できるか分からねぇんだぞ!」


『ま、待つんだ、日影くん!』


 狭山の静止も聞かずに、日影はライフジャケットを脱ぎ捨てて、海の中へと飛び込んでしまった。

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